-
梟と竜の右目
-
私は何処にでもある普通の一般家庭に生まれ、ごくごく普通の女子高生だった。
サラリーマンの父と専業主婦の母が居て、友達もそれなりに居て普通の生活を送り、何気ない日々を送ってきた…
はず、だった。
運悪く信号無視の車に跳ねられ、上がる悲鳴と私の意識を確認する為の安否確認の声を聞きながらポックリ逝ってしまった。
まだやりたい事沢山あったのに…買ってそのままの漫画とかゲームとか読んでないしやってもいない、恨むぞ信号無視のアホ車め。
そんなこんなで今の私が居るのは戦国の世、何故転生先が過去なのか、しかもよりによって戦国時代なのか…
何故そんな知識も無い戦国BASARAの世界で、よりによって成り代わりなのか!!
何で松永久秀なんだ…
まぁ女の子として生まれてきた事だけ感謝してやるよ神様。
男だったら…正直考えたくもない…
私の知ってる限り松永久秀は極悪人と記憶している。爆弾オジサンならぬ爆弾オバサンってわけか、笑えねぇぜ。
確かに私も人並みの欲はある、あれも欲しいこれも欲しいってのは人間にとってよくある事、それで小遣いパーになってコッテリ怒られたのは良い思い出だ、ハハッ。
でも流石に人の物奪うのは人間としてやっちゃいけない、欲しいなら職人に頼んで似た物作らせるよ。
だって未来のお店には同じ物大量生産や色違いなんか売ってるんだからいけるいける。
そうして能天気に生きて何年経ったか、年齢なんて数えちゃいけない。年齢の数は乙女の敵だとマミーが言ってた(乙女って年齢でもねぇだろってつっこんだら卍固めくらったのも良い思い出←)
縁側に座り茶を啜りながら自分好みに造った庭を見つめホッとする。我ながら良い出来映えで惚れ惚れするぜ。
「この生活を保守する為に他所様の武将と関わらないようにしないと…」
未来だったら友達ほしいと思うが何せ戦国の世、下手に出て警戒されたり腹の探り合いなんか私の胃に銃弾が乱射してくる勢いで穴が空く。
年寄りにストレスは敵だ!
そう願ってたのに…
「よう、持って来たぜ」
「あぁ...いつも有難う」
何故奥州の軍師殿が我が松永家に大量の野菜を持って来てくれているのか。
いや、ホント関わらないように静かにひっそり暮らしてたんだよ。
でもさヒッキーしてると体鈍るし、偶にお外に遊びに行ってたんだ。自分の領地には無い物とかあるし見たり聞いたり買ったりね。
月1〜2回のペースでプチぶらり旅なんかもやってたんだよ。
そんで偶々奥州に来ちゃって見物してたんだよ、良いねとっても和だった。
ブラブラしてたらね居たんだよ、畑仕事してるヤクザが…思わず二度見しちゃったよ。
ちなみに私の少ない知識の中で一番好きだったのは彼でした、帝○万歳!
小さな子達も手伝ってて、それがとっても微笑ましくて見詰めていたら
『見てて楽しいか?』
そう声を掛けられて我に返った。気付けばヤーさんだけじゃなくて畑仕事してた村人達まで私に目を向けてて。
『あぁ楽しいよ、とっても温かい気持ちにさせられるからね』
笑って返せば目を丸くして微笑む彼につられて笑みを深くした。
それから丁度動きやすい服装だったから手伝わせてもらってお茶も御馳走になった。
少しだけ会話をして宿泊先の宿へと戻ったが、翌日筋肉痛でもう一泊する羽目になったのである。
「今日はどうするんだい?泊まっていくかね?」
「いや昼飯だけ食わせてくれ」
「疲れ切ってるねぇ、鬼ごっこしてこっちに?」
「あぁ、義兄上と義姉上に監視を頼んでこっちに来た次第だ」
野菜を運び終わって戻って来た奥州軍師・片倉小十郎は大きく溜息を吐き縁側に腰掛けた。
奥州の若き殿様は日々この軍師を困らせてるようだ、だから29に見えないんだよ、苦労してるんだね。
ポンポンと頭を撫でれば「ガキ扱いするな」と睨まれた。
「私からしたら卿は子どもなんだがね」
「認めたくねェ…」
ですよねー、自分でも思うもん。年齢にそぐわぬ若さだなって。
でも体力の限界は年相応ですよ、最近よっこいしょって言って立つことが増えてきた。
あ、これは若い頃も言ってたや。
取り敢えずこの疲れ切ったサラリーマンみたいな片倉氏の疲労回復の為に美味しいものをパパッと作ってやりますか。
2人で食べるには十分な卓袱台を出し、お手軽簡単な昼食達を並べていく。
前世の記憶を活かして資金増やしをしてきたからか、この時代では高価な物を普通に料理し食べる事が出来る我が家。
女中から「お店は開かないんですか?」と真剣に言われた時は真剣に考えてしまった。
いっそ料亭の女将になってしまおうか...
「相変わらず豪華な飯だな…」
「我が家だからね」
白米を茶碗によそい渡せば「頂きます」と早々に食べ始める。そんなに腹を空かせてたのかと苦笑して自分の分をよそって食べる。
恥ずかしい事を思うが夫婦ってこんな感じなのだろうか?未だに独身を謳歌してる私には想像がつかない。
まぁ、この世で結婚をする気はさらさら無い。
もっと平和な、それこそ未来に転生したら婚活しよう!目指すはおしどり夫婦!
未来計画を立てていたらある事を思い出した。
「そう言えば、卿は正室を迎えたんじゃなかったのかね?どうだい、仲の方は」
「…仲も何も、好きで迎えたんじゃねェ…」
あれ?何か怒ってね??
早速離婚一歩手前な喧嘩でもしたか!?
小さく「すまないね」と言えば黙々と食べ進める片倉に内心ビビりながら私も食べ進めた。
ホント、堅気の睨みだな…
〝好きで迎えたんじゃねェ〟
そう応えれば「すまないね」と小さな謝罪を口にし呑気に味噌汁を啜る姿に苛立ちを覚えた。
それは何に対しての謝罪だ?
聞いちゃいけねェ事を聞いたからか?それとも…
『私は独り身を好んでるのでね』
本当はコイツを嫁にと見合いの申し込みをしていた。
だが受け入れてはもらえなかった。
初めて会った時、畑の手伝いをする村の子達を見つめ柔らかく微笑む彼女に手を止めて見惚れてしまったのを今でも覚えている。
それから会いに行くようになって愛おしいという思いは増すばかりで…
「なぁ」
「ん?」
「もし来世ってヤツがあるなら、お前は俺と一緒になってくれるか?」
「…卿がその時まで、私の事を思ってくれてるのならね」
そう言って微笑む女に願掛けとして噛み付くように口付けた。
絶対思い続けてやるからな、と。
END