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合宿へ行こう1
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丸井とのやり取りがあったせいで、教室へ足を踏み入れた真田は余計に緊張してしまう。自分の机に向かうと、隣の席の坂崎は机に突っ伏していたが、人の気配にのそのそと顔を上げた。
「…お疲れさま。」
「あ、ああ…起こしてしまったか?」
「んーん、まだ寝てなかったよ。」
「そうか、うむ…。」
少しぎこちない動きで鞄から教科書を取り出して机にしまう真田を何とはなしに眺めていた坂崎は、やがて目を合わせてじーっと見つめる。
「真田くん、何かあった?」
途端、ピタっと動きが止まってしまった真田を見ながら坂崎は首を傾げる。
「いや、その、特には…」
「……ほんと?」
真田は片手で目元を覆いふーっと息を吐き出すと何かを決意したような面持ちで改めて坂崎と目を合わせた。
「…実はな、部活の事でお前に少々頼みたい事があってな。」
「…テニス部の?私に?」奈都奈
「ああ。実はライバル校から合同合宿の誘いを受けてな、練習中の雑務を手伝ってくれる人員を出さねばならないのだが、坂崎に同行してもらえないかと考えている。」
「私テニスのこと全く分からないよ。」
「それは大丈夫だ。仕事の範疇はテニスの知識が必要なところには及ばない。昼休み、詳細を話すから無理そうであれば断ってくれて構わない。」
「そう?じゃ、とりあえず話聞くよ。」
「すまないな。」
とりあえず、役目は果たせた真田は再び息をつくのであった。
一方、柳のクラスに突撃した丸井とジャッカル。
「やーなーぎー!!!」
「んな大声出すなよ!」
「騒々しいな。どうした?」
既に着席して読書中であった柳に、丸井は先ほどの出来事を話すと柳は特段驚いた様子もなく、相手の女子生徒を特定した。
「おそらく坂崎奈都奈で間違いないだろう。弦一郎とは一年の時から三年間同じクラス、席替えでもほぼ8割の確立で隣になり、坂崎があまり体調が優れない事が多いのに気が付いた弦一郎が何かと世話を焼いている。互いにボディータッチを行うのも特に厭わないが本人が言ったように交際には至っていない。周囲からはどちらかと言えば兄弟や親子のように見られているな。」
いつも通りの柳とは裏腹に、丸井とジャッカルは口をあんぐり開けて驚いた。
「あいつに赤也以外にそんな面倒見てやってる相手が居るなんてこれっぽちっも知らなかったぜ…」
「だろうな。クラスメイトや風紀委員等の一部方面では有名だが。」
「いややっぱ隅におけーねーだろぃアイツ!」
そこで柳はふと時計に目をやると苦笑を浮かべた。
「もうすぐ予鈴が鳴るぞ。ここでのんびりしていていいのか?」
「うわ!やべー!!また昼休みな!」
丸井はやはり来たときと同じくバタバタと騒々しく教室を出て行った。再びジャッカルの腕を掴んで。
「こら!手を離せ!お前とは違うクラスだ!」