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旅と別れ
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あれから…
お爺様と修行と吸血鬼退治の旅が始まった。
我が一族が滅亡したとのことで、他国の攻撃ではないかと母国は騒然としたらしい…と風の噂で聞いたが、
始祖に居場所を知られた私達が祖国に戻れるわけがなかった。
国境を超え、山を越え、いくつもの村を渡った。
いつ吸血鬼に襲われても良いように、時には野宿をし、町にいる時は廃墟や安宿を選び万が一のことがあっても被害が少なくなるように配慮をした。
襲われる事もあったが、その度にお爺様とまだ未熟な私も激闘し吸血鬼を退治していった。
そんな生活が延々と続き、私は13歳になっていた。
両親親戚を失った悲しみは心の奥に残っていたが、生き抜く事が死んでいった彼らの為と考えればあの日を思い出して泣く事はなくなった。
お爺様から教わることは山ほどあった。
それこそ、屋敷が健在であった頃とは比較にならないほどに…
我が一族のディミトロフに流れる[ヴェドゴニャ]の呪いの事。
その血に秘めた力や、リスク。
一族が行使出来る魔術など、頭がパンクしそうだったが、中でも衝撃的だったのは。
我が家以外の吸血鬼ハンターの精鋭達は[牙狩り]と呼ばれていると教わった時。
[牙狩り]?聞いたことあるってもんじゃない
それって血界戦線の[血界の眷属]抹殺精鋭組織のことですよね??
安宿の簡易な椅子に腰掛け、半ば呆けながらお爺様の話をきいていたが、自分の知っている血界戦線の設定にはない話が出てきた。
一つ、まだ[牙狩り]は組織ではなく吸血鬼ハンターの精鋭の総称であること。
二つ、血法を使うハンターと一族がいることは分かっているが我が一族より歴史が浅く解明されてない点があること。
三つ、我が家が[吸血鬼を完全に抹殺出来る]ことは血族以外、同業者である牙狩り達にも話してはならないこと。
確かにアニメでも牙狩りの歴史とかそんな話出てこなかったけど、そんなに歴史浅かったの?
いや我が家がおかしいのか、お爺様の話では紀元前くらいから続いてるらしいし。
『お爺様、紀元前から我が家が戦っているのでしたら何故吸血鬼はいなくならないのですか?』
約千年以上、唯一吸血鬼を抹殺出来る我が一族がいるのなら、他のハンター達と協力したら根絶やしも早かった筈である。
私の質問に、我が家の歴史を綴った書物から目を離してお爺様は口を開く。
「吸血鬼はこの世界に時たま開く[穴]からもやってくる、[穴]が開くのは不定期で、どこに開くかもわからん…それに我が家の血の力は諸刃の剣、力を受け継ぐ者の末路とその血の効果は計り知れぬ…もし他の牙狩りに知れてみろ、いい研究対象になる。」
穴、というと…前世で見たアニメでの、永遠の虚の超小型版といったところだろうか?実際に見たわけじゃないが何となくそんな感じなのだろうと納得しておく。
そんないつ何処に開いたかわからない異界の穴からやってきた眷属が人間を下僕として増やしたなら、確かにキリがないし。牙狩りと協力しようとして、我が一族の貴重な血を武器にしようと企む輩に捕まった末に実験生物化なんて確かにごめんだ。
しかも我が家の記録を見るに、[穴]に連れ去られたご先祖様が戻ってきた際には既にヴェドゴニャとしての呪いを持っていたとの事…
おい、神性存在だか人知を超えた生物か知らないけど何してくれてるんですか…
ハタ迷惑過ぎるでしょ…
成る程成る程と頷きながらご先祖様を改造した生物を呪いつつ、この世界の闇の歴史を頭に詰め込んでいった。
修行も過酷だった。
朝は朝食をとったら筋トレ、お爺様と手合わせ、その後我が家の血の使い方の鍛錬。
吸血鬼相手の実戦も少なくなかったが、実戦が30回を超えたあたりで私は数えるのを止め、当初の手足の震えも、不安も消えて、余裕すら生まれた。
それから20年、50年と年月を重ねた。
お爺様と国を渡りながら、革命と戦争を見届け。
世の動乱を利用する吸血鬼…[血界の眷属]を、[牙狩り]が組織として確立した後も、気取られぬように密かに滅し続けた。
私の容姿は30歳前後のまま老化が止まり、お爺様も70前後の容姿のままだった…
だが約100年が経った頃、ついにお爺様が倒れた。
つい数日前は未だ逞しい姿を保っていたのに。
萎びていく植物のように、倒れた日からみるみる衰弱していった。
『お爺様…』
「アレクセイ…わかっているな?」
お爺様は落ち窪んだ目を必死に開きながらも、多くは言わなかった。
『分かってます…』
しっかりと皺だらけの手を握りしめ頷くと、お爺様は安心したように細く長く息を吐き出して目を閉じると、ゆっくりと永遠の眠りについた。
徐々に冷たくなっていくお爺様を見届けて、その胸に自分の血を塗りつけた剣を突き立てる。
ピシリ
最初はゆっくりと、次第に素早く石になり、胸から順にヒビが入り塵になっていくお爺様を、陽が傾くまで見届けた。
『お爺様…有難う…さようなら』
ヴェドゴニャの一族は死した後、血界の眷属になる宿命を持つ。
それを回避するには、完全に転化する前に滅する事。
私もいつか、誰かに託さねばならない。
誰か、[牙狩り]として優秀な者を見つけて…
剣を消して、朽ちかけた部屋にある割れた姿見に目を向ける。
かつての父と似た美形の男が、そこにいた。