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新たな始まり
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…世界の皆さんこんばんは、ある日突然前世を思い出してしかもこの世界が前世で見ていたアニメと同じ世界だと気付いて早200年以上…アレクセイです…
今、私は目の前でスープとパンを貪り食っている少年に内心頭を抱えています…
あの後、目眩を覚えながらスティーブンと名乗った少年の鎖を壊し。
半壊した部屋を出てスタッフや客どもを軒並み気絶させて簀巻きにした後、091に通報してやった。
少年を売ったという施設との取引書類も見つけ出してわかりやすい場所に置いておいた。
仲良く豚箱に入ってしまえ、と内心悪態をつきつつ
私はこの警察も施設もやだという少年を小脇に抱えて、コソコソと泊まっていた安宿に帰ってきたわけです。
『…歳は』
「8歳」
『…親は』
「母さんは病気で、父さんは事故で死んだ」
『親戚は…』
「いない」
『お前の力は?』
「…怪我すると周りが凍る」
モッグモッグとパンを頬張りながらスラスラ答える少年にミルクの入ったマグを渡してやりながら溜息をつく。
確定です。
容姿からして嫌な予感はヒシヒシと感じてましたが…
番頭の必殺技の言葉は? A.スペイン語
ここ…そういやスペインやったで…
番頭の技の特徴は? A.氷
怪我して周りが凍るって、血が氷属性ってことですねわかります…
そんなわけで…
将来有望な牙狩りが目の前にいる訳ですが…
こんな壮絶な過去だとは思わないでしょうよ。
てっきりクラウス坊っちゃまと同じで、エスメラルダ式血闘術を扱える一族の親戚筋と思ってたんですが…
ええ…何、スラム出身で孤児で売られかけたって…
二次創作でよく見たことありますけど…
ええーまじか…
片親見つからないとかなら探し出そうと思ったけど
こりゃ親戚居たとしても無理そうだ。
「……俺、やっぱり施設に入れられるのか?」
今までハキハキスラスラと質問に答えていた少年の不安げな呟きに顔を上げる。
えっ…か、勘違いさせた!?
「俺…何でもするよ…だから施設には戻さないで」
そう言った少年…スティーブンを見て思わず固まる。
彼にとって、施設がどれだけ辛い場所だったのかは私にはわからない。けれど彼は今必死に自分の道を考えて、自分で進もうとしている…
生き方を選ぶ事の許されなかった私にとって、それはとても…とても眩しく見えた。
『わかった…付いて来ても良い、ただし…』
「…っ…」
嬉しそうにしつつも、何を言いつけられるのかと不安に揺れる赤胴色の瞳を覗き込む。
深くて綺麗な色だ。
『地獄の修行をする…根をあげるな、いいな?』
「…わかった」
少し怯えた目をしつつ、決意を宿した瞳に苦笑してガシガシと癖の強い髪をかき回した。
「 わ!」
『食べたらさっさと寝ろ、明日は早いぞ』
ボッサボサになった頭を最後に指先で直してやってからソファーに移動して横になる、勿論ベッドはスティーブン用だ。
明日はスティーブンの服や旅に必要なものを買わなきゃならないので、早寝することにする。
お風呂は明日の朝入ることにしてさっさと毛布を被った。
「…あの……ありがと」
小さく聞こえた声に、聞こえないふりをしつつ、毛布で顔を隠したままそっと微笑んだ。
翌朝
幼き番頭は朝が弱かった…まぁ子供じゃ仕方ないわなと、思いつついくら見つめても起きないスティーブン少年の寝顔を堪能する。
改めて見ても幼い顔をしてるとはいえ、特徴は私の知っているスティーブン・A・スターファイズの面影がある…む?この顔があのスティーブンになるわけだからこの場合逆なのか。
小さい頃から整った顔のスティーブン少年の天使の寝顔を見る事が出来るとは…有り難や有り難やと心の中で拝んでおく。
しかしずっと寝させているわけにもいかない、今日は朝から彼の服を調達して、食料をある程度買っておかなくてはいけない。
私は既にお風呂に入ってピカピカ、朝食もすませて準備万端なのである。
仕方ないと心を鬼にして、スティーブン少年が包まっている毛布を勢いよく剥いだ。
ゴッツ!!
「ッ!?〜〜!」
あ、やべ…勢いよくやり過ぎちゃった。
毛布にスティーブンの足が引っかかって、毛布を剥いだ勢いのままベットの反対側に落ちた…
鈍い音したけど大丈夫かな…
そー…っと反対側を覗き込もうとした瞬間、ガバリと擬音が立ちそうなほどの勢いでスティーブンが起き上がる。
あ、大丈夫だったみたい…良かった気絶してなくて
「何すんだよ!」
『…すまん、しかし朝早いと言ったろう』
落とすつもりは無かったんじゃよ…
不可抗力ってやつです。
でも朝早いって言ったのに全く起きないのも良くないと思うのだよぼかぁ
『顔を洗ってこい』
まだ納得いかない顔をしてぶすくれるスティーブンの
背中を押してバスルームに連れて行く。
ぶすくれた顔も可愛いなと思ったのは内緒だ。
スティーブンが顔を洗ってる間に、せかせかと彼の朝食を作る。
作ると言ってもキッチンなんて付いてないので、バケットをカットして昨日買っておいた野菜やベーコンを挟んだサンドウィッチ…なんかこれサブウェイっぽいね…あとミルク…カルシウムは大事だからね。
紙ナプキンで包んで食べやすいようにしていると、スティーブンがひょこりと顔を出してこちらを見ているのに気づいた、可愛い…
『朝食が出来たぞ』
途端に顔を輝かせる姿は年相応の少年そのもので、可愛いらし過ぎて、可愛すぎてつらいっ…つい私は目をそらしながら脳内で転げ回った。
脳内ローリングがおさまって、スティーブン少年が大きく口を開けてモシャモシャと齧り付く姿を眺めながら一服…ああ、天使が、天使がおるで。
「もうこの街をでるのか?」
ごくんっと最後の一口を飲み込んで顔を上げるスティーブンの口元を見て一瞬固まる。
口元ベッタベタやで君…可愛い
さっと綺麗なナプキンをとってぐいぐい口元を拭ってやる。
「わっ…んぶっ」
『夕方には街をでる、それまで買い出しだ…』
中々頑固でテカテカとスティーブンの頬に張り付いて取れないベーコンの油をとった所でナプキンをゴミ箱に放り込む。
あー眼福眼福。
「…そう言えば…あんたの名前、きいてない」
顔を拭かれたのが余程恥ずかしかったのか、ほんのり母を染めながら上目遣いで問いかけてくるスティーブンと目が合ってしまった。
やめてっ!トキメキ死ぬ!必死で胸を掻きむしりたい衝動を押さえ込んで我に返る。
何回固まりゃいいんだ私は…
あ、やべ、自己紹介まだだった…
『俺はアレクセイだ…』
「アレクセイ…」
『アルでいい』
「…うん…ええと、俺…ミドルネーム、アランって言うんだ」
どうしてくれようこの可愛い生き物!?
暗にアランと呼べと言うことですよこりゃあ!
私寿命の前にトキメキ死ぬんじゃないかな?!
『……アラン』
「何?アル…」
大丈夫かな今私鼻血出てない?
『自分の服は自分で選べ』
「それって…」
『行くぞ』
もう駄目、直視できないっ
ガタリと音を立てて椅子から立ち上がり、少ない荷物をつめた鞄を背負う。
足早に扉を開ければパタパタと軽い足音が後ろを付いてきた。
決して私はショタコンではないと誰にともなく言い訳しておく。