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ルーマニア
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Bună acolo、アレクセイです。
スティーブンの修行を始めて、早くも5年が経ちました。
ハードな修行をスティーブンは泣き言一つ言わずに耐えて、身体の柔軟性はV字開脚どころかI字開脚にまで出来るまでになった。
途中ザコとの戦闘にも参加させていたので、戦闘も長老級は無理でもザコには引けを取らなくなりました。
ただちょっと前に出過ぎなので、その度に口を酸っぱくして注意するんですけど。
13歳になったスティーブンは背もぐんぐん伸びて、私の肩程にまで成長した。
顔立ちも美少年から美青年へと変わる微妙なバランスである。
声変わりもはじまって、着実にCV宮本のスティーブン・A・スターフェイズに近づいてきていた。
そんなわけで、直ぐそばで見つめられると少し心臓に悪いです。
そして私達は現在、ルーマニアの片田舎に来ています。
フランスでの基礎訓練を終えて、世界各国を旅しスティーブン修行をする中。
私は密かに血凍道の使い手の行方を追っていた。
しかし対血界の眷属の秘密組織ゆえに、情報が出てこない出てこない。
それっぽい情報を掴んでも[化け物専門の奴らがいるらしい]どまりで、[氷使い]とか[炎使い]とかキーワードすら出てこない。
隠蔽のエキスパートもいないとやっていけないのはわかる、一般に情報がポンポン出回ったら一般人に紛れた血界の眷属に即座に叩かれてしまう。
でももう少し情報あってもよくない?
どうにかこうにか、裏の情報屋でかなり腕が立つ人物を探し出してやっと
[ルーマニアの片田舎で行方不明事件が相次いでおり、血凍道の使い手が派遣されるらしい]との情報を貰ったのである。
高い情報料だったぜ…
「ポリスが多かった…行方不明事件が起きてるって空港できいたけど…アル、まさか」
『そのまさかだ…こんな大っぴらに動くのはザコと思いたいが、長老級の危険もある…ブッキングは避けたいがな…』
「牙狩りに任せておけばいいんじゃないのか?」
『別件で野暮用があってな…』
小さなホテルの部屋に荷物を置いて、煙草に火をつける。
スティーブンは荷物から血界の眷属について書かれているメモ帳を取り出して復習を始めた。
「そんなに重要な用なのか?」
『ああ…ちゃんと後で話す』
見上げたスティーブンの顔に
[俺には言えない事なのか?]と書いてあるのを読み取って頭をクシャリと撫でた。
こういう時に子供らしい顔を見せるから可愛くて困る。
野暮用というのはスティーブンを血凍道の使い手に預ける為の話し合いなのだが、今ここで言えるはずもない。
ごめんね、と心の中で謝ってからソファに腰を下ろした。
「血闘神がいれば…アルが出なくたって…」
『あの人はいまだ行方が掴めないからな、仕方ない』
私がブッキングは嫌だ、と言ったのを気にしてくれているらしい。
裸獣汁外衛賤厳氏が行う滅殺と私の血の力での抹殺は違うのだし、いないなら仕方ない。
きっと、今も世界のどこかで血界の眷属を滅殺しているのだろう。
ブレングリード流血闘術だって使い手になるクラウス坊っちゃんはまだ9歳。
レオナルドに至ってはまだ生まれてすらいない、産まれていても0歳。
レオナルドの神々の義眼あってこそブレングリード流の999式が成せるのであって。
もし長老級だった場合、今の時代で長老級を相手出来るのは裸獣汁外衛賤厳氏か私しかいないのだ。
ああやだやだ…闘いたくない、本当はスティーブンと旅をしていたい…
それにメインは血凍道の使い手とのコンタクト…スティーブンに血凍道を会得させるためだ。
私の術はヴェドゴニャの呪いを受けた血族しか扱えない、だから基礎の戦闘までしか教える事ができない。
とても歯がゆいが仕方ないことなのだ。
彼との約束を破ってしまうことになるので、今は話したらきっとスティーブンは混乱する。
話すのは、別れの時だ。
夕方、日が暮れる前にホテルを出た。
危ないと忠告してくれるフロントのお姉さんを笑顔でやり過ごし、人が疎らな町を歩く。
町を歩いている人はポリスか、観光客、そして多分観光客に紛れている牙狩り。
観光するフリをして観察してみれば、やはり何人かは隙がなかった。
町並みの写真を撮ったりしてウロウロしていると、ポリスが心配して声をかけてくるので、これ幸いと情報を聞き出すことにした。
「町の西は今規制がかかってるから行けないぞ」
『犯人が見つかったんですか?』
「わからねぇ、なんせ下っ端には教えてくれないもんでね…でもポリスじゃねぇ奴らもいたから行かないにこしたことはないよ」
『ええっ他国の犯罪者とか?』
「まーその可能性もあるわな!ものものしいスーツの奴ら…ありゃ只者じゃねぇ」
ベラベラ喋るなぁ、このおっさん
下っ端とはいえポリスがそんなこと一般人に喋っちゃダメなんじゃないのか?
おっさんの減給を気にしつつも情報は欲しいので、これ幸いとドンドン話を聞き出す。
『お話ありがとうございます。気をつけますね』
暫く美味しいレストランの話をきいたりして談笑した後、ポリスに礼を言って別れた。
「間違いなく西だな」
『ああ、スーツの奴らは牙狩りだろう』
「今すぐ向かうか?」
『いや…その前に腹ごなしだ』
苦笑するスティーブンを横目に地図を見て店の場所を確認する。
腹が減っては戦は出来ぬ…
ポリスが教えてくれたレストランで夕食をとろうと、私達は足を反対側にむけた。