-
また会う日まで
-
YATTIMATTAZE!
血凍道の使い手の方が女性だし怪我してるしでつい格好つけていつもの調子で倒しちゃったぁぁあ!
アカン、これはアカン…
牙狩りに私の一族が[血界の眷属を抹殺できる力]を持ってることは!
知られちゃ!いけないのに!
何でかって!?
応用できないかどうかの実験コース
血族ならいいんだね☆という強制子作りコース
死んだら血界の眷属になるの?抹殺手段はそのうち見つけるから殺しちゃいましょうコース
以上三択のどちらか、または全部がきっと待ってるからさぁぁあああっ!!
※内心こんなに叫んでいますが、顔は真顔で医療班に治療を受けています。
あ、こんばんはアレクセイです…
心の中で叫んだら少し落ち着きました…
少し…少しね…
現在激戦した場所から牙狩り隊と一緒に撤収して住民のいない家屋で治療を受けてます…まぁすぐ治るんですけど、黙っとく。
医療班いわく、肋骨と上腕の骨折、打撲、裂傷…中々のオンパレード。
本当はちょっと内臓もイッてたけど、内側に近いほど治りが早いから気合いで治しました。
内臓損傷なんて気付かれたら牙狩りの息のかかった病院に担ぎ込まれて監視されちゃうもん…
そんなわけで今包帯グルグル巻き、わぁ〜包帯の白がまぶし〜い。
スティーブンが心配そうにこちらを見てるんだけど、反対側で先に治療が終わってたお姉様の殺気が凄まじくて、どっちにも顔向けられない…やだ怖い助けてクラウス坊っちゃん、レオでも可。
「それで、お前達は一体何者だ」
お姉様が殺気を消さずに問いかける。
私よりも酷い怪我なのに寝込まずに座ったままなのだからその根性恐れ入る。
『言ったろう、同業者だ』
「牙狩り本部にはお前のような力を持った奴のデータはない」
『フリーなんでな…』
「……あんな血法、聞いたことがない」
『血族しか扱えない秘術でね…』
地鳴りが…地鳴りが聞こえる気がする!
ゴゴゴゴゴゴという地鳴りが!お姉様から!
ごめんなさいこれ以上言えません実験動物も強制子作りも暗殺もいやだよー!!
「……助けてくれた事は礼を言う…一歩間違えれば全滅だった」
『二匹目が長老級じゃなければ、アンタでも勝てたさ』
これはお世辞じゃない、怪我をしたとは言え技のキレも判断も的確だった。
流石今代の血凍道の使い手だ、重症にはなったろうが、二匹目が長老級じゃなければ勝てただろう。
「世辞はいい、確証がない勝負が一番危険なのは良く知っている」
お姉様は私の言葉に一瞬目を見開くもシビアな言葉を口にする。ああ〜なんか分かった気がする…スティーブンのあの堅実さはこのお姉様の影響かぁ。
「で…頼みたい事と言うのは」
『……俺の力は血族しか扱えないと、先程教えたな…それで』
「その少年か…」
「!?な…アル、どう言うことだよ」
動揺して声を荒げるアランを宥めてお姉様を見る。
『話が早くて助かる、俺と彼は血の繋がりがない…だから常人以上の戦闘術を教える事は不可能だ…アランお前も分かっていただろう?」
修行の旅の最中に、ある程度までは私の力の事はスティーブンに話しておいた。
だからとっくに分かっていたはずだ、今のままじゃいくら修行したって同じようには戦えないと。
それでも共にいたのは、私と一緒に居たいと思ってくれて居たから…
「それは…」
『幸いお前の血は氷属性だ、エスメラルダ式血凍道とは相性がいい…秘めた力をそのままにしておく気か?』
部屋に沈黙が落ちる。
選択肢はあるようでない、スティーブンも分かっている。強くなるには、私から離れてこのお姉様について修行するしかない事を。
「約束だって…言ったじゃないか」
『…そうだな、それは悪いと思っている…だがお前の為でもある』
修行の最中に訊いたことがある。
[何のために強くなりたい?]と…
彼は[アルと肩を並べて戦えるようになりたい]と言った。
その願いを、叶えてやりたい。
「…助けて貰った礼もあるし、私も後継者が欲しいと思っていたからな…私は構わない」
『どうする?』
「アルは…狡いな……分かったよ」
泣きそうでいて、決意の篭った声に少しホッとする。優しく頭を撫でてやってからお姉様に手を差し出した。
『アレクセイだ…アランの事を宜しく頼む』
「…フランチェスカ・エドワーズだ…任せろ、扱きまくってやる」
しっかりと握手をして、契約成立。
後日この町から牙狩りが完全撤収する時に、スティーブンを迎えに来てもらうと言う約束をして、二人で家屋から出た。
ホテルへ帰る道すがら
ひたすら 無言
うっ、分かってたけどこの空気辛いっ!
あの家でてからスティーブンがずっと俯いて今にも泣きそうなんですけど!
ど、どうしたらいい…なんて声かけよう…
下手な慰めはダメだ…元凶は私なんだ…
おおお、落ち着けまずは煙草を一服…
「……アル…」
『…なんだ…』
変な声出そうになった!
「アルは…俺がもっと強くなるためにこうしたんだよな?」
『…ああ』
「じゃあ……俺が強くなったら、一緒に戦ってくれる?」
その言葉に、顔を上げてスティーブンを見る。その顔はもう泣きそうではない、決意と、覚悟と信念が見える笑顔。
その笑顔が眩しくて、目を細めながら頷いた。
『ああ…約束する』
「今度破ったら簀巻きにするからね」
『…それは勘弁してくれ』
ひぇ…早くも腹黒の片鱗が出だしておる…
爽やかな笑顔が余計怖いよ!
ご機嫌とりに明日からは二人でマジ観光しよう…
思い出を作っておくためにも。
次の日から町の観光をしまくった。
店を回って買い食いをし、写真を撮り、ささやかな贈り物をした。
そして3日後…
13歳のスティーブン・A・スターフェイズは
血凍道の師匠と共に去って行った。