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思わぬ日常
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Guten tag…アレクセイです。
現在ドイツにいます…暇です。
スティーブンを預けて7年の月日が経ちました…
私はあの日戦い方とか倒した状況を牙狩りの皆さんにバッチリ見られてしまったので、大人しく引き籠ってます。
ふふふ、スティーブンは今年成人かぁ〜
今頃任務にも引き摺り回されてるんだろうなぁ〜
ぶっちゃけ寂しいです。
ルーマニアを出て、ハンガリー、スロバキア、チェコ各地を転々とし、次をイタリアとドイツで迷った末にドイツにしたのは、ただ単にブルスト目当てでした…
肉食文化の国だから肉料理美味いっす。
シュニッツェルがカツレツに似ててだいしゅきです、好きになり過ぎて店の常連になっちゃったもんね。
しかしやる事がない、毎日のトレーニングは欠かせないけど…他にやることと言ったら周囲に牙狩りの捜査官がいないか警戒がてら散歩とかで…
平和すぎて腑抜けになりそう。
これじゃただの世界旅行やで…
で、日課の散歩も日に日に距離が伸びて、やたら閑静で広大な住宅街に来てしまったある日。
私は出会ってしまったのだ。
私より大きな体躯、燃えるような赤毛、下顎から突き出た牙。意志の強い緑の目
クラウス・V・ラインヘルツに
最初たまたま通りがかって、庭の樹から落ちた彼をとっさに助けただけだったのだが。
(何でも鳥の巣箱が落ちかかってたのを直していたらしい) 何だかよくわからないが懐かれてしまった。
何でやねん。
まさか将来のライブラのリーダーに会うとは思ってないですよ普通、わざとじゃないわざとじゃない。
大きな屋敷だなーラインヘルツ家ならこれくらいかなー?とか思ってたのがドンピシャで冷や汗かいたよ!
話を聞けば、16歳の彼は一人で屋敷から出た事がないらしかった。
外出するときは必ず執事つきで、屋敷ではトレーニングと学習の日々。
[逃げ出したいとは思わないのか?]と問うと
家族も執事もメイドも良い人達ばかりで逃げ出したいとは思わない。ただ、外に少し憧れるのだと…少年クラウスは呟いた。
全く私も情に弱くなったもので、その呟きを聞いてから。数日に一度は散歩がてら必ず立ち寄っては私が旅先で見て来たものの話をしてあげた。
目を輝かせ頷きながら熱心に話を聞く様は小さい子供のようで微笑ましく、ついつい強請られるままに会う度に話をした。
そして今日もラインヘルツ家へと繋がる通りを歩き、大きな敷地を囲む柵に沿って歩いていると、柵の向こうに大きな身体を見つけた。
「!ミスター、来てくださったのですね」
『ああ、クラウス…こんにちは』
読んでいた本を閉じて嬉しそうに近寄ってくる姿が微笑ましい。クラウスは屋敷の庭の芝に腰掛け、私は通り側で柵の基礎のブロックに腰掛ける。
『今日は日本の話だったか?』
「はい、是非に…!」
『好きだな…』
「ミスターのお話は大変わかりやすく面白いのでっ」
興奮気味なクラウスの声に思わず苦笑する。
話の合間に飛ぶクラウスの質問に答えながら、空が赤く染まり始めるまで話し込む。
ギルベルトさんが呼びに来るのを合図に話を切り上げ、帰る間際にまた約束をして別れる。
そんな日課をここ三週間は続けていた。
しかし名も名乗らない私のような男を信じて毎回話を聞きたいなんて、クラウスの持って生まれた純真さ故なのだろうか。
ギルベルトさんは心配してるに違いないのに、主人のためか何も言わずにいつも遠くで待っていてくれている。ギルベルトさん…執事の鑑やで…でも少しは忠告してあげて…
余りここに居続けると、移動し辛くなってしまうなぁ、とホテルの部屋でボンヤリ思う。
クラウスの純真さは、小さい頃のスティーブンを思い出させるのだ…小さな身体で、必死に私を追いかけて慕っていた頃の。
別れはいつだって辛いものだが、痛みは軽い方がいい。
よし決めた、明日この国を出よう。
早めに出て、ギルベルトさんにクラウスへの伝言を頼めばいい。
他の使用人でもいいけどギルベルトさんが確実だから、ギルベルトさんが出てくれるといいな…