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お金稼ぎとひと騒動
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こんばんは、アレクセイです。
無事ギルベルトさんに伝言を頼んで飛行機に乗り込み、今度はアジアや中東各国を7年かけて旅しました。
そして現在はアメリカに飛んで
ネバダ州はラスベガスに居ます。
貯めてたお金も不安になってきたので、なんか良い仕事ないかなーと思ってたらカフェで意気投合?したのがカジノのオーナーでした。
腕の良いディーラーが一人辞めてしまって困っているというので、早速働かせて貰うことにした。
手先は器用なんだぜ!
しかしまぁ賃金がいいのなんの、暫くここで稼ごうと決めて早二年、球捌きも今ではお手の物。
狙った場所に球を入れるなんてことも出来るぜ!
今日も今日とてルーレットを回して、たまに客に勝たせて勝機を見させてからボロ負けさせるというのを繰り返していたら、最近常連となった客の声がした。
「ハァイ、アル…調子はどう?」
『こんばんは、ミス…中々ですよ』
「それは良かった、ふふ…今日は黒の23に賭けるわ」
『珍しいですね、いつも最初は赤でいらっしゃるのに』
「たまには、ね…」
ふふ、と笑う40代くらいの美女の客はシャンパンの入ったグラスを傾けながら山のようにチップを積む。
[負けるのがわかっていて]わざとだ。
一見すると最初から私が勝つと思っているからか、もしくは勝つ自信があるからとみれるだろうが。
それは違う、何故ならこの女性は血界の眷属…
故に[球の動きが予想できる]
彼女は大勝ちもせず、そこそこ負けてそこそこ勝ったら帰っていくので上客としてスタッフに顔を覚えられていた。
最初は普通の気前のいい客かと思ったのだが、何回目かの来店時に彼女が傾けるグラスに姿が映らないのを見て確信した。
私はなにか?血界の眷属ホイホイでもついてんのか…
いやついてたわ[血の花嫁]っていうの…
でも女の眷属は関係なくない??
大崩落が起こるまでは牙狩りに居場所特定されたくないんですけど?せめてあと二年待って欲しかった!!
『…赤の10です』
「負けちゃった…ねぇアル、今度仕事上がりに飲みに行かない?」
逆ナンキター!!
すっごい嫌な予感する!これ行ったら最後翌朝どころか永遠に帰れない奴!!
ど、どうする…流れでどっか人気のない所に連れ出して殺ってしまおうか!?
『ミスにお声がけ頂けるなんて光栄です、では今度…』
「ふふ、良かった…アルったら誰のお誘いも受けないんだもの、ゲイなんじゃないかって噂立ってるわよ?」
『それは困りました…私はヘテロですよ』
嘘は言ってません
本当は女で、恋愛対象は男性です。
「私はお眼鏡にかなったと思っていいのかしら?」
『さぁ…それはまたの機会に』
「あら釣れない」
うおお、甘ったるい香水の匂いも真っ赤な口紅も豪奢なドレスもなにもかもムカつくこの女!
我慢だ…我慢…今度この女が来た時は二人きりになれるのだ、願ったり叶ったり…真夜中の海沿いとかでブチ殺すチャンスが作れたと思えば…
心をなんとか平静に保ちながら、次のゲームを始める。その後も女性は勝ったり負けたりを繰り返し、少しプラスになり始めた時、出入り口から大きな音がした。
マシンの音と人の声に支配されていたフロアに、悲鳴と慌ただしい足音が響き出す。
「やぁね、何かしら…」
『失礼、ミス…様子を見てきます』
ゲームを中断し、そっと足音の方へとマシンの並ぶフロアを抜けて柱の陰から覗き込む。
「このカジノに爆発物が仕掛けられているとの通報がありました!ただいまから捜査しますので皆さん誘導に従って避難してください!!」
途端に響く悲鳴と焦燥の声とはんばパニックで走り出す客とスタッフ。
Oh……
機動隊のような服に身を包んだ集団から、頭一つ分以上飛び出た見覚えのあり過ぎる二人を見てバッと柱に隠れた。
な、なんでスティーブンとクラウスがいるかな!?
え、いやちょっとは他の牙狩りが来てあの女始末してくれないかなーとは思っていたけども!
あの二人が良いなんて思ってません!!
多分あの女性目当てなんだろうけどももももも
チラッと柱の影からまた様子を見ると、一般客とセレブを分けて避難させているし、鏡張りになっている壁がある通路をわざと通らせている。
な、成る程ー!セレブわけておけばターゲットわかりやすいし、特別にとった部屋に避難を…とか言って連れ出せる。
やっぱりスティーブンがいると違うね!
いやぁ…しかし二人共立派になったなぁ…
「おいアル!何してんだ早く逃げろ!」
『あ、ああ…』
おっといけない。
同僚の声に我に返る。
こうなりゃオーナーには悪いがトンズラだぜ!
あばよラスベガス!稼がせてもらったぜ!!
牙狩りの隊員に気付かれないようにスタッフルームにダッシュする。ロッカーの荷物を握りしめ、万が一の為にもっていたウィッグと帽子を眼深に被ると、制服の上からコートを羽織って素早く避難させられる一般客に紛れた。
内心バレないかドッキドキだけれども、ここで裏口からとか屋上から逃げようとした所で包囲してあるんだろうから無駄である。
怪しまれて捕まっちゃいます!
他の客に習って早足で歩き、二人がいる方に顔を向けないようにしつつ、横目で様子を伺いながらドアを抜ける瞬間。
スティーブンと目があった気がした。
あ、やべ。
カジノの外にでて避難した客に紛れ、野次馬に紛れながら不自然にならない程度に家までダッシュした。
ごめんスティーブンお父ちゃんまだ牙狩りには行きたくないなぁああ!
安いボロアパートの階段を駆け上がり、ドアを壊さんばかりの勢いで開いて少ない荷物を鞄に詰める。
抜け目ないスティーブンのことだからあのどさくさでもきっと隊員を私に向かわせてる。
命の危険はないっていっても、私はまだ直接会えましぇん!
机に今月分の家賃だけ叩きつけるように置いて、屋上へ登り建物の上を駆けて移動する。
道混んでるからタクシーよりこっちのが早いわ!
in 飛行機
『キツイ…』
直ぐに出る便に飛び乗ってエコノミークラスのシートにグッタリと身を預けながら目を閉じた。
血界の眷属相手よりもキツイかもしれない、コレ。
主に精神的な意味で…