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ライブラ
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こんにちは、アレクセイです。
レオと知り合った時点でいつか嫌でもスティーブンと再会することはわかっていたけれど、災難の最中で再会だとは思いませんでした。
怪魚に食われかけるし、血塗れになるし。
でも一番心臓に悪かったのは、スティーブンに抱きつかれたことですかね…
背も私より高くなって、脚もスラリと長くて、元々美少年だった顔は凛々しい美青年へと変わっていた。
そして宮本ボイスが、耳元で…
顔が真っ赤になりそうなのを気合いでどうにかし、必死に頭の中で素数を数えてやり過ごした後。
何故かライブラ御一行と一緒に事務所に連れてこられた。
危機感、もとう?
スティーブンは私が血界の眷属ハンターだって知ってるからいいけど…
特にクラウス…リーダーさんよぉ。
『…いいのか?俺は部外者だぞ』
事務所に通じるドアの前で、クラウスがドアノブを握る前に問いかけた。
ホイホイついて来ちゃったけど秘密結社だろうがい
「スティーブンと親密な仲であるようだし、貴方ならば信頼できる」
『…そうか』
なんか随分と信頼されてる気がします。
他五名の視線が痛いんで、早く説明したいです。
スティーブンは皆の目の前で私に抱きついたのが余程恥ずかしかったらしく、顔を片手で覆ったまま無言である…
フォロー入れてよ!
エレベーターを降り、大きな両開きのドアを開くと懐かしい老紳士が迎えてくれた。
「おかえりなさいませ、皆様…そしてお久しぶりでございます」
『お久しぶりです。ギルベルトさん』
ギルベルトさんの穏やかな姿勢に癒される…
ゾロゾロと事務所に入り、それぞれの定位置に落ち着いたものの…皆無言…
肝心のスティーブンも未だ無言。
ギルベルトさんが淹れてくれた紅茶をゆっくり堪能できるのはいいことだけども、早く復活せんかい。
ちょっとイラッとしたので、弄ってやることにした。
『しかし、抱きつかれたのはアランが8歳の時以来だな』
「な…そっ!そんな昔の事だすことないだろっ!?」
途端にバッと反論してくる。
慌てるスティーブン貴重。
「あ、あ、あのぉ〜…」
向かいのソファでレオが恐る恐るといったように手をあげる。なんか横にいるザップに肘で小突かれてるのを見ると脅されたな…しかしようやくここで質問か。
はいレオ君、と指差したいのを我慢して視線だけむける。
「お二人は…どう言った関係なんですか?」
いい質問ですねぇ…
うんうんと頷いて煙草を灰皿で揉み消す。
『俺はアランの…育ての親だ』
沈黙
「「「「「はぁああ〜っ!?」」」」」
レオ、ザップ、ツェッド、K.K、珍しくチェインの声まで綺麗にハモった。そうだよねーそういう反応になるよね。
「で、でも同い年くらいにしか見えませんよっ!?」
「幼馴染の間違いじゃなくてっ!?マジなのっ!?」
「ジョジョジョジョークに決まってんだろ?」
ザップよ…咥えようとした葉巻逆さまだぞ。
うーん余り詳しくは話せないしなぁ…
皆の質問に少し考えてから当たり障りのない所まで教えることにした。勘が良い人は気付くだろうが、その時はその時。
『本当だ、8歳のアランを拾って鍛えたのは俺だ…あと、俺はギルベルトさんよりも年上だぞ』
「「「「!?!?!?」」」」
「おや、それはそれは…お若く見えてお羨ましい限りです」
動じないギルベルトさんは癒しだなぁ…
ご覧よ他のメンツはクラウスとスティーブンを除いてパニックに陥っておりますよ…ふふ
『厄介な呪いが原因でこれ以上見た目の歳をとらないんだ…』
嘘じゃないぞぉ、一族の血の呪いが元の長寿だもん!
というか名乗らなくていいのか?
「はぁ…呪い…ですか…」
「でも若いままってちょっと羨ましいわっ」
『良し悪しもあるぞ…』
あとスティーブン、そろそろ助け舟だしてくんない?
なんかまだまだ自己紹介出来なさそう…
チラリとスティーブンを見ると、それだけで察したのかハッとした顔で咳払いをする。
「んんっ!あー…改めて紹介しよう、僕の養父のアレクセイだ…気付いた者もいるだろうが、彼も血界の眷属を狩るハンターだ…」
『今更だが改めて…アレクセイ・ディミトロフだ…宜しく』
「K.Kよ」
「チェイン・皇です」
「ザップ・レンフロ…」
「ツェッド・オブライエンです」
ようやっと自己紹介も終えて一息つく、ザップがすんごい不満そうなのはあれか、新人いびりしようと思ってたのにイビれない立ち位置の奴かよつまんねぇーって奴か、流石ザップ。
「…でもあんな血法聞いたことねぇっすよ」
「あれは…金属のように見えましたが…」
少しの沈黙の後葉巻を吹かしながらザップがぼやくのに合わせて、ツェッドが礼儀正しく質問してくる。
ツェッドを見習えよザップ…
『俺の一族しか扱えない門外不出だからな…牙狩り本部にも情報はないだろう』
「スカーフェイスが貴方を牙狩りって言わなかったって事は、フリーなの?なんでまた…」
『そういう事だ……理由だが…』
どうしようか、今ここで言うのもなぁ…
と…おいスティーブンすごい怖い顔してるぞ
そうだね知ってるの君だけだもんね、私がバラした後々の危険性のこと考えてるね?
『まぁ…おいおい分かるだろう…』
「ふむ。しかし貴殿が話に聞いていたスティーブンのお父上とは…」
『話?どんな話だ?』
クラウスの声に耳がダンボになる。
え、気になるウチの息子クラウスにどんな風に私のこと話したの
「養父にして師匠であり、世界中を変装しながら飛び回り、痕跡を見つけた時には別の国にいると…」
『…間違ってないな』
つーかそのまんまやん?
「あ、でもあのカフェでの変装、顔は弄ってないのに今とはまるで別人に見えますよね…」
『人は少しの接し方や口調、見た目の特徴で騙されるものだからな…』
冷戦時に暗躍したスパイ達の技だぜ!
成る程〜と頷くレオを横目に紅茶をもう一口。
カフェの仕事楽しかったからリラックスしてたしなぁ…ああ紅茶美味しい、癒される。
「ん?カフェ?……少年、アルはあのカフェで働いていたのか?」
「えっはい、アルさんの料理美味しくて通ってたら仲良く……あ…」
「もしかして…あの時の…」
『ああ、この前レオに渡したサンドの一つにお前の好物入れといたからな…今頃気付いたか』
「随分懐かしい味だと思ったんだよ…あの時少年を問いただせばよかった…」
ため息を吐くスティーブンをニヤニヤしながら見てやる。わからないお前が悪いのだよ。
スティーブンの好物…それは
独特の香りと癖がある…そう、パクチーである。
私はパクチーのよさが全然わからないのだけども…
スティーブンは何故か少年の頃から好きでよく食べるので、体にも良いしとスティーブンのサラダにはパクチーを入れたりしていた。
「えっサンド?サンドってこの間レオっちが買ってきた?」
「あぁ!?あん時の!?」
「クリームチーズ入りスモークサーモンサンドの?!」
なんだなんだ、突然皆の目の色が変わったぞ
と…K.Kが早足で私の所に歩いてきたと思ったらガッシリと両手を握られた。
「アレ!貴方が作ったの!?」
『あ…ああ…』
「お願いっ!あのタンドリーチキンのレシピ教えてっ!」
『?構わないが…』
「よっしゃ!ありがとぉおお〜アルっち!」
凄い勢いで抱きしめられた、く、苦しい…
K.Kの腕の隙間から、ザップに絞められてるレオが見えた。
一体あのサンドで何があったんだ??
クラウスは楽しそうにみんなを見てるだけだし。
スティーブンを見れば、なんだか分からないがまた顔を手で覆って溜息をついている。
なんだその反応は、たすけれ…
こうしてなんだかよく分からないまま、私は秘密結社ライブラの仲間入りをした。
ーグゥゥウ…
「は、腹減った…」
レオの腹が壮大に鳴った…
そう言えば食い損ねてたもんな…パストラミサンド…
『…レオ、後で作り直してやるから』
「あ、アタシも食べたい!」
「私も!」
「俺も食う!」
「僕もいただきたいです」
「あ、僕の分も頼むよ」
「私も是非」
ええい全員か!!いいだろう全員分作ってやんよ!
『……ギルベルトさんキッチン貸してください』
「ほっほっほっ、勿論でございますよ」