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お仕事と天使様
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今日は半休、早く家に帰れるわぁ〜なんてルンルン気分でライブラの事務所につくと。
いつもの三人、クラっちとスカーフェイス、ギルベルトさんと…最近新しく入ったアルっちがソファに座っていた。
「やぁ、K.Kおはよう」
「おはようKK」
「おはようございます、ミスK.K」
『おはよう』
「おはよう、相変わらず早いわねあんた達…」
順々に挨拶してくる四人に挨拶を返してから、ソファに近寄ると、煙草を咥えながら本を読んでいたアルっちが顔を上げる。
「アルっち、レシピありがとうっスッゴイ好評だったわ!」
『それは良かった…』
「蜂蜜とラズベリージャムなんてよく思いつくわね!」
『ありがとう…まぁ一人暮らしが長いからな』
苦笑する顔もイケメンなアルっちに笑い返して隣に座る。全く、イケメンで優しくて料理が上手くて戦えるって…こんな高級物件で結婚してないなんて、世の中の女子は一体何してるのかしら。
『他にもリクエストがあればレシピを作っておくよ』
「ホントッ!?助かるわっありがとう〜」
アルっちの言葉に思わず抱きつく。
もーホント気がきくんだから!
こんな良い男があの腹黒男の養父だなんて信じられない、どこでアイツ捻くれたのかしら…
「あー…K.K…それで今日の仕事だけど」
「アタシ今日半休なんだから大きなのは無理よ」
腹黒男の言葉をパッサリ切り捨てる。
アルっちの優しさを見習いなさいっての!
「あぁいや、今日は珍しく何もないから全休にしてもー
「ホントっ!?やぁだスティーブン先生ったらそうならそうと言ってよ〜」
聞き捨てならない言葉にアルっちを離して立ち上がる。そうと決まればここにいる理由はないのよ!
愛しの息子達の学校が終わったら迎えに行って一緒に買い物するんだから!
善は急げとドアへと向かおうとした瞬間。
ードゴォオォン…
《大変です!八番街でDr.プラナリオが暴れています!周辺住民の方は避難してくださいっ!》
遠くで聞こえる轟音と、臨時ニュースの声。
「……やっぱり休日返上かな」
「ぅ…ううぅ〜っ!何であいつまた出てきてるのよっ!この間アンタが氷漬けにしたじゃないっ!!」
「それは…そうだけど…」
『どこかに体組織の一部を保存しておいたんじゃないか?2度同じ手を食う程馬鹿じゃないだろ』
「くぅ、う、う〜こうなったら速っ攻ブチ殺すわよ!二度と出てこれなくなるまで指の先まで黒焦げにしてやる!」
折角全休になるはずだったのに!と拳を握りしめながら事務所を出ようとすると、アルっちに肩を叩かれる。
『二度とアイツを出てこなくさせる方法ならあるぞ』
「えっ!?」
『アラン、レオとザップとツェッドに召集かけてくれ』
「え?ああ…」
『召集かけたらDr.プラナリオの所にいくぞ』
?を浮かべたまま、腹黒男が三人に召集をかけるのを待った。けど細胞一つで復活するアイツを、復活させないようにするなんて本当に出来るのかしら…
クラっちも判断しかねる、といった顔をしてるし。
どんな案なのか考えていると、腹黒男が通話を切る音がした。
「召集をかけた、じゃあ向かおうか」
ドゴォオォ、ガシャアア…
「私を倒しても無駄だ!第四第五の私がー
バキバキバキッ!
前回と同じセリフを吐こうとしたDr.プラナリオがまたも腹黒男に氷漬けにされる。ここまでは前回と一緒だけど…とアルっちを振り返る。
「で、アル、ここからどうするんだ?」
『ん…レオ』
「あっはい」
『神々の義眼は[一度見たもの]なら探せるんだよな?』
「え?あ、はい…」
『なら、細胞も生きているなら可能なんじゃないか?』
「た、多分…」
「!!成る程そうかっ!」
「どういう事?」
「つまりDr.プラナリオがどこかに隠しているだろう体組織の一部の場所を、この本体の細胞を手掛かりにレオの義眼で探しだすって事だよ」
「や、やって見ないとわかりませんよっ」
そう言いながらレオっちがDr.プラナリオに義眼を発動するのを見守りながら葉巻に火をつけ、チラリと横で煙草を吸うアルっちに目を向ける。
これで成功したら万々歳ね、やっぱりアルっち独り身なのが勿体無いわぁ…
「ありました!!三番街の地下倉庫に腕の一部が!」
「よし!レオは案内!ザップとツェッドで欠片一つ残さず焼却してきてくれ!」
「うっす!いくぞ陰毛!魚類!」
バタバタと駆けていく三人を見送って、葉巻の煙を吐き出す。本当に早く終わりそうだわ…
「流石ねアルっち」
『何度も何度も復活するなら、向こうにも何か奥の手があるはずだからな…』
「スカーフェイスったら爪が甘いのよ!爪が!」
「なっ僕だってあの時一杯一杯だったんだぞ!?」
「ま、まぁまぁ…」
ガラッ…
「キャアアアアッ!」
上がる悲鳴に三人とも瞬時に振り返る。
そこにはDr.プラナリオの手下が瓦礫から体を持ち上げ隠れていた女性に襲いかかろうとしていた。
「チッ!血弾格闘技!!」
『ダメだK.K、敵と女性の距離が近過ぎる』
技を繰り出そうとした瞬間、銃口を下げられて顔を上げる。
じゃあどうするの?と聞く前に、アルっちの姿は消えて、女性を襲おうとした手下が私達の方に吹き飛ばされてきた。
ードゴオォッ!
『これなら、巻き込まない』
その手には銀の長い棒、殺傷力の低い武器で…しかも正確にこっち側に吹き飛ばすなんて…格闘センスの凄さに改めて感心する。
ガラガラ…
「キシャアアアァ…」
「じゃ、遠慮なく…Electrigger 1.25GW!」
「絶対零度の地平!」
私の電撃弾が手下を貫通し、腹黒男の氷が吹き飛んだ手下の体液やら欠片一つ漏らさず凍らせる。
あっという間に氷の像が一体追加された。
『息ぴったりだな…』
「やっ!めてよぉこんな奴となんて!」
アルっちの呟きに思わず反応する、こんっな腹黒男と仲良しだなんて嫌だわっ!
バッと見たアルっちの後ろにペタリと地面に座り込んだ女性を見つけてハッとする。
あ…そうだわ!アルっちが助けたんだった。
「貴女大丈夫?怪我はない?」
怖がらせないようにゆっくり近寄り、女性の側にしゃがみ込むけれど、何故か反応がない。
不審に思い彼女が見つめる視線を追うと、アルっちの顔。
あら?あららら?これは、も・し・や?
『??どうかしたか?怪我でも…』
「あ、あのっ貴方…天使様ですよねっ!?」
「ん?」
「へ?」
「あら?」
遠くで聞いてた二人と声が被った。
な、な、なに!?天使って!?
問いかけるように顔をアルっちに向ければ、困ったような顔をしている…その顔何か覚えがあるの!?
「あのっ私…大崩落の時、貴方に助けていただいたんですっ!ずっと探してました!」
『あ…あの時の…』
あ・の・と・き・の!?
これはっ感動の再会なんじゃないのぉお!?
そそそっとさり気なく、二人の声が聞こえる程度まで離れてみる。ふふ、どうなるかしら。
「どうしてもお礼がしたくてっ…今日も助けて頂きましたし…こ、今度食事に行きませんかっ奢りますっ」
あらあらあら、あの子積極的じゃない!
アルっちは困ってるみたいだけど、凄く嫌そうでもなさそう…もう一押しよっ!頑張って!!
むふふ、とニヤける口元を隠しながらアルっちの息子の腹黒男を見てみる。
なっにあれ、すっごい呆然としてるっ!超ウケる!!
暫くこのネタであの男弄れるわね…
「ふむ…天使…大崩落の天使か…」
「あら?…そう言えば聞いたことあるわね」
クラっちの呟きにハタと思い出す。
大崩落、天使…そう言えば当時話題になっていた。
「大崩落の日…人々の怪我を治し、化け物を倒し、空を駆けていたという男の事だ…助けられた人々は皆彼の名前を知らず、[天使]と呼んでいた」
「ああっ!そうよ!!最初の頃新聞にも載ってたわ!それがアルっちだって…ことよね?あの子のいう事が確かだと…」
未だ女性とアルっちは交渉を続けている。
信じられない。
あの時[天使]に救ってもらったと答えた人々は、ゆうに百を超えていたのだから。
そんな数をたった一人で…
凄いと思うと同時に、切なくなった。
辛くはないのかしら…たった一人で戦うのは寂しい事、それがどんな場所で、どんな仕事であれ。
彼には、私達の知らない事がまだまだある
それを全て受け止めてあげたいけれど、彼自身の覚悟が無ければそれも出来ない…
なんて、歯痒いのかしら。
一番いいのは、身近な人がまず支えてあげる事なんだけど…
そう思いチラリと横の男をみる。
まだ口半開きで呆然としたまま二人を見てるだけ…
不安だわ…
「ほら!シャキッとしなさい!だらし無いわね!」
「っ!!」
バシッと思いっきりその背を叩いて復活させる。
「アンタアルっちの息子なんだからサポートしなさいよー?」
ママが出来るチャンスかもよ、なんて茶化して踵を返す。丁度午後になる時間だ、綺麗に片付きそうだし後日アルっちから話を聞くことを楽しみにしてバイクに跨る。
「はぁ!?ちょ、K.K!?」
「じゃ、アタシ時間だから、お先♡」
エンジンをかけ、いざ…愛しいマイホームへ。