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困惑と不安
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パタリと自宅のマンションのドアを閉めて、ドアに寄りかかり、そのままズルズルと座り込む。
両手で自分の顔を覆うと信じられないほど熱くて、顔が真っ赤になっていることは鏡を見なくても分かった。
な、にが起こった?
大崩落の時に助けたお姉さんを偶然また助けて
必死で食事に誘う姿に情が湧いて、食事してきただけなのに。
事務所に戻ったらスティーブンが何故か怒ってて…
お?息子の嫉妬か?嫉妬か?と思ったら
思ったら…
いきなり、キス…された?
しかもディープな…
そこまで整理して、また顔の温度が上がった。
[流石に…わかるだろ?]
耳に響いた、低い色気のある声を思い出す。
つまりは…そういう事。
スティーブンは、私のことを…好き?
親としてではなくて…?
あんな…あんな真剣な顔されたら[冗談だよね?]なんて思えるわけもない。
なんで私だとか、ファーストキスなんだけどとか、今私男の身体なんだけどスティーブンはバイなのかとか、色々頭がゴチャゴチャになる。
『明日から…どんな顔で会えと…』
真っ赤な顔のまま項垂れる。
今までは街で逆ナンにあったりとか、遊び半分のお誘いとかする相手ばかりだったから。こんなストレートに、真剣に想いを向けられたのは初めてで…
しかも相手が小さい頃から見てきたスティーブンで…
ああ、それに逃げるように事務所を出てきてしまった…
スティーブンを傷付けてしまったかも知れない。
謝りたいけど、変に謝るのも彼を傷付けてしまうし
どうしたらいいのだろう…
産まれてかれこれ約300年…
恋愛のれの字もしてこなかった私が、直ぐに返答なんで出来るわけがないのだ。
唇に触れると、まだそこはしっとりと湿っている。
でも、嫌じゃ無かった。
むしろ気持ちよくて、抵抗できなかった。
嬉しいような、悲しいような…なんとも言えない気持ちが渦巻く。
この気持ちは…なんて言うんだったっけ?
ピリリ、ピリリ…
『…レオか……』
《あ、アルさん?何か、あったんですか?さっき入り口で声かけたのに、反応なかったから…》
心配そうなレオの声に申し訳なくなる、そうだ、出入り口ですれ違った気がする。
《スティーブンさんもなんだか元気がないし…》
『…少し、喧嘩してな…心配かけてすまない』
《そう、ですか?何か出来ることあったら相談に乗りますからね?》
『ああ、ありがとう…』
とても優しい言葉に、思わず苦笑する。
本当にこの少年は、ごく普通で優しい一般人なのだなと思う。ミシェーラには自慢の兄だろう。
《無理しないでくださいね…》
『ああ……レオ、今度うちに来い、ハードダイブ4のダブルプレイしよう』
《えっ!?!?マジっすか!?い、行きます!》
『今度の休みにな…じゃ』
レオの優しさが有り難くて、お礼がわりにゲームに誘ってみた。
私はあまりしないのだけど。
たまたま買い物の時寄ったホームセンターで見かけて
[そう言えばレオがやりたがってたなぁ]
と思い出して買ってしまったのだ。
一人でいるより、気がまぎれるだろうし…
いつから
こんなに一人に弱くなってしまったのだろうか。
以前は一人は当たり前で、血界の眷属と戦って怪我をしても、ホテルで治るのをじっと待つのが普通だったのに。
今は怪我をしても誰かが手当てをしてくれて、家に帰るまでは誰かしらと一緒にいた。
スティーブン…
君はとても素敵な場所を作ったんだなぁ…
彼が皆に隠してまで私設部隊を持っているのも頷ける。
守りたいのだ、この街を、この街を守る…彼等を。
私がこのまま居たら、迷惑にならないだろうか…
否…確実に迷惑になる。
考えていなかったわけではない…
ただ、スティーブンとの約束を守りたかった。
けれどそろそろ…
私を狙う血界の眷属と、私の真の姿と
私が死んだ時の末路を…
彼等に…話す時なのかもしれない。
それでもスティーブンは…
私を、好きでいてくれるのだろうか
その気持ちが何なのかなんて、私は知らない。