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八つ当たり
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あれから数日、スティーブンと仕事上の会話だけして目を合わさない日を過ごした。
スティーブンも気を使って私に必要以上に声をかけてこないし、私も何を話したらいいかわからなくなっているので。
二人ともきっかけがないまま、何となく気まずい日々が続いている…
それを何となくクラウスやK.Kも気づき始めていて、事務所にいるのが何となく息苦しい。
そして本日は、朝から事務所にはギルベルトさんとスティーブンの三人のみ
ギルベルトさんの美味しい紅茶を飲みながら、なんとなく気まずい空気が流れている…
ハマーが美術館に行くと言うことで、クラウスが監視と護衛の任に朝から出ているのだ。
嫌な予感はしていた、その話を数日前に聞いた時。
そう…[マクロの決死圏]である。
私のアパート…無事で済むかな…
重たく感じる空気の中、思考を別の心配に置き換えていると、事務所にレオがやってきた。
某巨大ロボットアニメで出てくるロボットに似た、球状機体に乗ったCV子安のミジンコを連れて…
えー…リ・ガド氏の話だと?
超危険菌物でありテロリスト菌類のゲムネモを追って、ここHLまでやってきたと…
で…細胞組織の超強化加速分裂術式に成功した…
との情報を入手し、その術式をだれかに行う前に拘束したい…と。
いざという時のために持ってきた…ええと
超巨大決戦兵器ハイベルグ・ラグギガラムド・オメガバルスオンQがレオの後頭部に直撃して大破した為に。
ウイルス構成型術式破壊砲フルドラ・ラドリクト・ヒューベイザー7000ARを完成させたものの、
従来機のグラグ・ギガラムド・ベーダバルスオンの修理が終わってないとかで…
今あるフルドラ……長いわ!
つまり今ある武器で、なんとかしなきゃならないと言うことで…レオとリ・ガド氏の手には余りそうなのでライブラにやってきたと…
まぁ話は分かったし、クラウスからの緊急連絡もあって…
後頭部にまたもリ・ガド氏の一撃を食らって地面で身悶えるレオに治癒をかけてやる。
《まず間違いない!いいかぁレオナルド、恐らく80%以上の確率で、君の友達が菌テロリスト・ゲムネモの術式を掛けられている。》
「…えぇ?」
《細胞組織超強化加速分裂負荷によって、千切れた筋繊維が更に太い筋肉を形作り。折れた骨が更に頑強に繋がっていくように!瞬時かつ無限に、そして強制的に繰り返される爆発的ボディービルだっ!》
「あ…ええと…ってことはつまり…」
《ぶん殴るのも捩じ伏せるのもまずい、何もかもが、倍返しで戻ってくる》
話が、長いよ…
ついていけないとばかりに、私はレオの治癒を済ませて立ち上がる。
「ん?アル?何処へ…」
「クラウスの応援に行ってくる…」
スティーブンの声に簡潔に返事をして、ヒラヒラと手を後ろ手に振り事務所を出る。
一歩外に出てから近場のビルの屋上に鎖を引っ掛け、蜘蛛男宜しく飛んで移動する。こっちの方が早いんだぜ…
ビルからビルへ、風を切りながら移動していると遠くにハマー&ブローディとクラウスが見えた
が
「[僕の!百裂拳!!]」
なんか見事に巨大な塊が遠くに飛んでったんですけど
あれ…これ私応援に来た意味なくない?
取り敢えず久しぶりの二人に声をかける為に鎖を解いて着地する。
『よぅ…ハマー、ブローディ』
「あーっ!アレクセイ兄ちゃん!久しぶり!」
《あぁ?アレクセイじゃねぇかぁ、相変わらず美人だなぁお前!》
『久しぶりだな…二人とも、大丈夫か?』
「全然へいきー!アレクセイ兄ちゃんは応援にきたの?」
『そんな所だったんだが…』
《生憎今吹っ飛ばしちまったぜぇ》
「アレクセイか…すまないが、これからスティーブン達と合流する。」
クラウスが吹き飛んだリール君の位置を確認しつつ振り向く、吹き飛ばしただけじゃまた更に巨大化してるだろうしね…
『その方が良いだろうな…』
今頃風船みたいに膨らんでるんだろうなー…
そして
日が暮れて、ビルよりも巨大になってしまったリール君を助ける為に作戦が練られたわけだが…
AプランとBプラン…
Aはチェインにリール君の体内に潜ってもらいゲムネモの姿を捕捉次第、リ・ガド氏開発の術式解除砲で砲撃するプラン。
Bはギルベルトさんの操縦する飛行機でリール君の頭に接近後。
レオの義眼での視覚共有を使ったソニック誘導で、リール君の体内に潜り。
ゲムネモの姿を捕捉次第、リ・ガド氏開発の術式解除砲で砲撃するプラン。
チェインは今まさに
女子会でベロンベロンで応答出来ず。
プランBしか手段がないことを知ってる私は小型飛行機に乗り込むレオに近寄った。
『レオ』
「アルさん…」
『友達…助けてやれ』
「!はいっ!」
『それと…リ・ガド氏』
《んん?》
『あとで少し話がある』
《ふむ…わかった》
レオは首を傾げていたが、機装医師であるリ・ガド氏は何となく察してくれたようだ。
軽くレオの肩を叩いて送り出し、ギルベルトさんに合図する。
「では、参りますよ」
「お願いします!」
友達の為に命を張るレオは、なんて眩しいのだろう。
[友達を助ける]ただそれだけの[普通]が出来なくなってきた現代で、自身がとても貴重な存在だということに、レオは気付いていない。
きっと指摘しても[当然のことじゃないですか]
なんて言うのだろう。
彼になら託せるだろうか、もしもの時…
もし私が、死んだ時…その後を
「…ダメだ」
「ふむ…地上班からオイレ1へ、作戦Bで決行。繰り返す、作戦Bで決行、これより陽動に入る!」
作戦が始まった。
俺も一応陽動組だから、技を仕掛けなきゃならない。
皆技名を叫んで殴るから…なんか自分の攻撃方法が寂しくなってきてこの間考えたやつ、叫ぶかね〜
「エスメラルダ式血凍道!」
「ブレングリード流血闘術!111式!」
「[絶対零度の槍!!]」
「[十字型殲滅槍ェッ!]」
相変わらずトップの二人は格好いい。
うちのスティーブンが格好いいのは当たり前ですがね…
頼れる背中って奴でしょうか…
さてさて、私も…と両手の中指の指輪をくるりと回して手の内側に石の部分を持ってくると、そのまま握り込む。
握り込んで石を押すと、石が回転し中から針が出て出血を促す。
皆の扱う採血ギミックと同じような物で、
[ヴェドゴニャの一族]に古来から伝わるものだ。
だが血法使いの採血ギミックとは異なり、ヴェドゴニャは再生能力が高いので。
一度握ったら針は指に刺さったままである、
地味に痛いけど仕方ない。
針を戻すには石を180度回さないと元に戻らない仕組みである。
血が滴るのをそのままに、力を発動して銀へと変える
『ー銀の蔓牙(Srebrna trka)』
ジャララララッ!
鋭い刃を付けた鎖が、巨大なリール君の足先に深々と突き刺さる。そのまま鎖を引っ張れば皮膚が避けるのだが、彼の再生速度に攻撃が追いつかない。
まぁ、知ってましたけどね…
攻撃を続行しながら、レオ頑張れ〜と念を込めて上空をチラリと見る。
成功しなきゃ街壊滅で破壊されてった私のアパートの引っ越し代出なくなっちゃうし、リ・ガド氏に大事な用があるんだー
『銀の大鎌っ(Srebrna koska)』
今度は大鎌に変形させて斬りかかる、さっきよりも深く斬り裂けるが、斬り裂いた端から逆回しのように再生していく。
「[絶対零度の剣!]」
「[斗流血法!刃身の伍 突龍槍!]」
「[刃身の拾弐 双炎焔丸っ!]」
「[血殖装甲!]」
「[STRAFINGVOLT 2000っ!]」
うーん…まぁ陽動だから倒す必要はないとは言え
正直、血界の眷属より厄介なのでは?
『…キリがないな、倒す必要ないとは言え』
「レオナルド君が上手くやってくれる事を祈るのみだ…十字型殲滅槍ッ!」
私の呟きに真面目に答えながらも、攻撃を続けるクラウスを眺めながらため息をつく。
こんな時ですらスティーブンと会話がないのも…
我ながら複雑…
と、チラリとスティーブンをみると、
バチリと目が合ってしまった。
「……」
『…っ!』
ドクリ、と心臓が高鳴る。
何も言わず
スティーブンは楽しそうに、だが優しげに目を細めただけだった。
それにどう返せばいいのかわからず、直ぐに視線をそらす。
この自分の行動が、自分で首を絞めていると言うのに…
何でもないように同じように笑い返してやれば良いものを、何故できなかったのか…
なんだかムカムカしてきた。
地面に鎌を突き立て、鎌を水銀に変化させて地面に染み込ませる。
『っ…銀の、剣森(Srebrna Svord Forest)!』
ドカッ!バキャッ!ドゴォッ!!
発動させれば、リール君の足先周辺が地面から突き出た剣山で覆われる。
「どぅわっ!?あ、あっぶねぇ!アレクセイさん何すんだっ!!」
悲鳴をあげて串刺しになりそうだったザップが紅女郎蜘蛛で退避して着地してきた。
『悪い、加減を間違えた…』
「嘘だっ!今のぜってぇわざとだ!!」
そうですね、八つ当たりです。
ギャーギャー喚くザップに、銀の剣の柄をお見舞いして黙らせておく。
レオ、早くしてくれ…じゃないと私…
私……
八つ当たりでザップ殺しそう…