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湧き上がるモノ
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本日、私、アレクセイは
スティーブン達が攻める本丸とは別行動。
凶悪犯罪組織が取引で使うもう一つの現場の制圧…
が任務です…
一週間ほど前…
ライブラ構成員(機動隊)との打ち合わせにて、
都合が悪いと声をあげたK.Kに、この後の展開を思い出して思わず小さく[あ]と声が出た。
あかん、この話スティーブンが重症負うやつだ。
今日までスティーブンとまともに話せていないことなんて頭からすっぽ抜けて、血の気が引いた。
スティーブンのわざとらしーい嫌味と皮肉の入った台詞を聞き流し、折れたK.Kの叫びにも似た了解の声の後。
慌てて[俺もアランと同行する]と言ったのだが
[アルには万が一のことを考えて別動隊の護衛も兼ねていて貰いたい。君に任せたいんだ]
なんて言われてしまって…
渋々頷いてしまったのだった。
[万が一]がないのを知ってるのは私だけ。
何でも起きる街HLとは言え、私の言うことは次元すら違うのだ。
信じてもらえる可能性は低いし、隊員の不安や不信を煽るわけにもいかなかった。
そして現在………銃撃戦なう…
アクション映画ばりに銃弾飛び交ってるんですけど。
いや、うん…私は見えるからいいんだけど。
『[銀の蔓牙]…』
銃弾飛び交う中を、銀の鎖で弾いてガードしながら突撃する。至近距離まで近付いたら鎖の先に付いた刃で敵のヒューマーの脚の腱を切り裂いて立てなくする。
ブッ殺すのはビヨンドだけにしておく…
何故って種族によって急所が違うから!!ビヨンドの皆さんは漏れなくやり過ぎくらいに首切り裂いたりしちゃいますよっ!
「くっ!てっめぇええっ!」
「死ねぇえっ!」
おお、ゾロゾロとビヨンドの皆さんが出ていらした…
カモですね、鴨がネギしょってってやつ
『下がってろ…』
「あ?けどアレクセイ…」
『巻き込まれたくなきゃ下がってろ』
前進しながら銃撃を続けていた機動隊員達を下がらせて、私を蜂の巣にしようと次々飛んでくる銃弾を左手から伸ばした鎖で弾きながら、片方の鎖は地面に刺して水銀化させる。
『ー[銀の剣森]ー』
ドンッ!ドカドカドカドカッ!
ビヨンドの串刺し盛り合わせ、一丁あがり。
シン…と静まり返る中技を解除すれば、ドサドサと穴だらけになったビヨンド達が地面に落ちる。
うわちょっとやり過ぎたかな…
地面に広がるビヨンド達の血と、臓物のかけらに目を細める。
ふと嫌に静かな事に気付いて、何かあったのかと下がらせていた機動隊員を振り返った。
「さ、流石…スターフェイズの師匠…」
「や、やべーなあの技」
うん…ビビらせちゃったね…
ごめん急いで制圧してスティーブンのヘルプに行きたいのよ…
『…怪我はないか?』
万が一かすってでもいたら大変だからね!
「大丈夫だ…問題ない」
「これで一気に道が拓けた、助かるぜ」
流石ライブラ構成員、驚いたのは一瞬だったようで。
直ぐに何でもないように応えてくる。
穴だらけのフロアを抜け。
皆銃を構え直して、私を先頭にしてスリーマンセルで行動を開始する。
残るはこの先の部屋の制圧だけである。
中の様子を他の機動隊員に訊こうとした時…
. …ドォオンッ…
遠くで、なんか…
ミサイルか何かが何処かに当たったような音が…?
ヤバイ
考えるより身体が動いた。
「お、おいっアレクセイ!?突撃する気か!?」
『ー[銀の狼牙ッ](Silver Volfram)』
最後の部屋への扉に一気に走り込み、銀の日本刀で扉と扉の前に構えていたビヨンドごと切り裂く。
『[銀の 蔓網 (Srebrna povrće)』
ビシャビシャと身体や顔にかかる血飛沫も構わずに走り抜け。
流れるように日本刀を変化させ、両手に銀の網を作り部屋の奥からの弾丸をガードする。
「ひっ!畜生!あたれぇっ!」
「くるなぁああ!」
怯えるビヨンド達の声と銃声や弾丸の雨なんて気にしない。天井高くまで飛び上がり、こちらに飛んでくる銃弾ごと…フワリとシーツをベッドにかけるように銀の網で一網打尽にする。
地面に達した銀は、接触面から張り付いて固まり、硬化する。
「ぐ、が…と、れねぇっ!?」
「か、硬っ…ビクともしねぇ!」
「頼むぅ!命だけは!」
網から逃げようとして失敗するもの
網を壊そうとするもの
命乞いをするもの…
それら全員を眺め見てから、後ろから私に続き意を決して突撃してきた機動隊員に振り返る。
『多分、これで制圧完了だ』
「あ、ああ…そうみたいだな…」
「…でもこれ、どうやって運ぶんだ?」
『ああ、今運びやすくする…』
そうだった、このままじゃ確保・収監できない。
隊員の声にはっとして、組織の奴らにかかっている銀に触れる。
すると網状に固まっていた銀は更に大きさと形状を変え、あっという間に組織の構成員一人一人の手枷となった。
『これなら大丈夫だろう…』
「助かる、しかし万能だなぁ」
『そうでもない…不便もあるさ』
「そうかぁ?便利過ぎると思うがな」
制圧完了したせいか、隊員の口も自然に軽くなってきていた。
緊張がとけてるとこ悪いんだけど…私行くよ?
『ーじゃあ、後頼めるか?』
「へ?どこ行くんだ?」
『嫌な予感がするからな…本丸の方に』
「…牙狩りの勘ってヤツか」
『まぁ、そんなとこだ…』
多少弾受けたけど貫通してるから大丈夫…
割れた窓から鎖を遠くのビルへ伸ばして、飛び移っては屋上を駆ける、を繰り返す。
スティーブンはこの話では死なないのは分かっているし、程度でいうなら地下鉄の時の方がスティーブンの怪我は酷かったろう。
なのにこんなにも、焦っている自分が不思議だった。
空から見るビルを目印にしながら駆けていると、ようやく煙と轟音が上がる建物をみつけた。
すぐ近くのビルの非常階段の手摺に鎖を引っ掛け、遠心力を利用して飛び上がる。
壊れた屋根の一部から見える影は、間違いなくスティーブンと血界の眷属だ。
既にスティーブンは膝をついて、血だらけになっている。
彼がこんなにも血を流す所を目の当たりにするのは初めてで…
苦痛に歪んだ顔と、ボロボロの姿に
プツリと 私の中で何かが切れた
窓を割り入り、大きくスライディングしながら埃を巻き上げ、スティーブンの前で低く体制を取る。
「ーっ!?な…」
『アランに…手を出すな』
一直線に走ってくる血界の眷属は、私の姿を認めてもスピードを落とさない。
上等だとばかりに、先程撃たれた傷から流れる血を全て操る。怒りに、頭が沸騰しそうだ。
ゆらゆらと全身の銃痕から立ち昇る血が銀に変わる。
血界の眷属が腕を振りかぶった瞬間。
ーズドドドドドドドッッ!!
雨のように、鋭利な銀の槍が血界の眷属に降り注ぐ。
その勢いの激しさに瞬く間に埃で視界が白く染まるなかでも、血界の眷属から目を離さなかった。
ふわりと何処からともなく吹いた風で埃が晴れると、そこには幾多の槍に貫かれ、氷漬けにされた血界の眷属の姿…
『……無茶したな?』
「君こそ…その傷…っ」
まだ怒りに震える頭のまま、スティーブンに向き直り怪我の度合いを目視する。
隊服はあちこち裂けたり穴が空いてボロボロ…
額と…口も中も切れてるな…脇腹が何本かイッてる。
腹部も…内臓にもダメージがありそうだ。
脚だけは無事なあたり流石だ。
『アラン…』
「な、何だい?」
苦しそうに腹を抑えつつもヘラリと笑うスティーブンの目の前にしゃがみ込み、その顔を両手で固定する。
『ジッとしてろよ』
「……へ?」
プツリ、と自分の八重歯で舌を傷付け、口の中が血で溢れるままにスティーブンと唇を合わせる。
隙間から口の中の血を送り込むのに気付いて頭を引こうとするスティーブンの後頭部を抑えつける。
中々強情で飲み込まないのにイラつきながらも頭を固定した手は離さない。
少しして、やっと喉が動いたのを確認してから唇を離した。
『そのままでいろ、一番酷い箇所を治す』
呆然としたまま答えないスティーブンをいいことに、彼の胴体に手を滑らせ、血を媒介に力を送り込んだ。
大崩落でもやらなかった手法だが、これが一番早くて効果が高い。
手から伝わる力の波を把握し、内臓と骨が修復されたのを確認してから手を離す。
『…これで大分楽だろう……』
「……あ、りがとう。」
呆けたようなお礼を聞きつつ立ち上がり、血で真っ赤になっている自分の唇を拭った。
未だに頭の奥が怒りでチリチリして落ち着かない。
グラハム達が組織のボスを捕獲したのを見ながら、忌々しげに氷の像となっている血界の眷属を睨みつけた。
「………アル」
『……何だ』
「君も病院に行こう、出血が酷い…」
『俺は放っておけば治る』
「ダメだ」
イライラしたままぶっきら棒に返事をしていたら、ガシリと腕を掴まれてしまった。
本当に放っておけば治るのを、知ってるだろと言わんばかりに横目で睨む。
「消毒だけでもしよう…頼む」
『………』
縋るようなスティーブンの目に、頭の奥で燻っていた怒りが少しずつおさまっていくのを感じた。
小さく息を吐くと、それを肯定と受け取ったのかスティーブンが私の腕をとったまま外の路地で待機している車へと歩き出した。
スティーブンに腕を引かれるままに歩く…
その間、私は自分の変化に戸惑っていた。
こんなに激しい怒りは、初めてだった。
家族が殺された時だって、怒りよりも悲しみが深かったし。
誰かが殺されたり酷い目を合っているのを見ても、苛立ちこそすれ…ここまで頭が焼けるような怒りは無かった。
ボンヤリとスティーブンの背中を見る。
小さかった時とは違う、逞しくて広い背中。
私を越した背丈…私よりも大きな手…
ああ、そうか…
やっとわかった
私は
スティーブンが好きなんだ。
自覚した途端、さっき血を口移ししたことに羞恥がこみ上げてきた。
あかん、顔あっつい。
これ見られたらあかんやつ。
逃げ出したくて、さり気なくスティーブンの腕を振り払おうとするが、かなりガッシリと掴まれていて逃がしてくれそうには無かった。
『アラン…別働隊への連絡をしてくるー
「俺からしておくから問題ない」
『K.Kにも…』
「それはグラハムがしてくれた」
こいつ…何が何でも連れてく気だ!
いつからこんな強情になった!?畜生!
本気で振り払ったらスティーブンの腕折っちゃうし、逃げられないっ!!
「アル、君に聞きたい事が色々あるんだ」
ニッコリ…と爽やかな笑顔で振り返るスティーブンに思わず固まった。
あ、これ
スティーブンの気がすむまで逃げられない奴だ。