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再確認
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「んー…今度ばかりは、正直ダメかと思ったね」
「だが君は生き残った。チームの仲間と共に…流石だスティーブン、アレクセイ」
「いや、ここだけの話…あの時どういうわけか一瞬相手の動きが止まったんだ。あれが無くてアルも来てなかったら、今頃僕は他の場所に安置されてるよ」
「そいつ…頭の中身がなかったってのは、ホントですか?」
「ああ、もしかしたら首だけで何処か遠くから僕等を眺めていたのかもしれない……
血界の眷属…何度戦っても、全く理解の追いつかない存在だな…」
セントアラニアド中央病院の病室でライブラメンバーの話を聞きながら椅子に座ってぼーっとする。
クラウスに名前を呼ばれた気がしたが、現在私の頭はそれどころではない。
怒りに身を任せて色々やらかしたよね…
あとでスティーブンによる尋問のお約束が入っていますし、とても心穏やかじゃない…
こんな時こそ煙草吸いたいのに、当然ながら病院内は禁煙だし。
一応看護士に手当してもらった際に数日はダメと念を押された…
良いじゃん病気じゃないんだし…それにもう包帯の下は傷痕すらないわ!
ボーッと宙を見つめていると、ふと影がさして、
見上げてみるとクラウスが心配そうに見下ろしている。
「アレクセイ、怪我は大丈夫かね?」
『ああ、もう何ともない』
「十数発被弾したと聞いたが…それも例の呪いの?」
『そんなとこだ…心配しなくてもちゃんとしたヒューマーだよ、俺は』
何となく投げやりに返事をすると、レオ達の視線がこちらに向いた気がした。
大丈夫だとわからせるために、体に巻かれた包帯をパラパラと解いてやる。
血が僅かについた包帯が床に落ちたが、私の肌には昔の傷以外に銃痕はない。
スティーブン以外が驚いて息を詰める気配がした。
『言ったろ?もう傷はないから大丈夫だ、クラウス』
目線を合わせてみれば、小さく息を吐く偉丈夫に苦笑する。
「なら、良いのだが…」
『アランも想定より怪我は軽いそうだから、多分数日後には復帰出来るさ…』
「そうか、それは良かった…二人ともお大事に」
「ああ、ありがとう」
本当だったら何週間か入院する羽目になる所を、骨のヒビと内出血、打撲にまで回復させたからなぁ。
これも後々皆に種明かししなきゃならないんだけど…気が重いわぁ。
ゾロゾロと病室から去っていくメンバーを見送ってから、床に落ちた包帯を拾って巻いていく。
「……アル」
はいきた
『……何だ』
「改めて、ありがとう…」
『俺が居なくてもお前なら大丈夫だったよ』
「例えそうだったとしてもさ…嬉しかった」
やけに優しげな声に、ついスティーブンを見てしまった。
う、わ、何だお前何だその顔!イケメンが照れたって更にイケメンが増すだけだわ!!
顔に熱が集まって、赤くなってるのがわかる。
慌てて目をそらして、拾った包帯をゴミ箱に投げ込む。
不自然じゃなかったよね、今の…
「…なぁ、アル……
……君…本当は女性なんだろ?」
一瞬思考が停止した。
え、このタイミングで突然その質問くる??
『突然それか…』
「君から託された本を読み込んだからな…俺が気付かないと思ってたかい?」
『半々ってとこだな…』
「手厳しいな……君以上に長命なヴェドゴニャの血を引く人物は、あの家系図だと1000年も前の期日のみだ…しかもその人物も…」
『………察しの通りだ……それで?俺が女だと気付いて見る目が変わったか?』
何だか少しイラっとした。
女だからといって突然態度を変えられるのはゴメンだ、まさかスティーブンがそんなことする奴だとは思わないが。もしそうなら幻滅する…
「まさか!俺は君が男だからとか、女だからとか、そんな事で好きになった訳じゃない」
なんかサラリと言いやがりましたよコイツ
やめろ、また顔が赤くなんだろ。
「ただ確認しておきたかったのと…元の姿に戻りたくないのかと思ってね…」
『……まぁ、戻りたくない訳じゃないし…こんな口調だが、俺の中身は間違いなく女だよ』
「方法は…無いのか?」
『……アラン、お伽話の真実は残酷なんだ』
本に記載は無かっただろう。
それもその筈、[マクロの決死圏]の騒動がひと段落ついた時、リ・ガド氏に私の呪いについて相談してやっと、悪魔で仮説としてだが[一部の呪い]なら解けるかもしれない…との情報をもらったのだ。
しかしその手段が牙狩りにあるまじき行為なので、私は心の中で即却下したのだった。
「…と言うことは、あるんだな?」
『……話を聞いてたか?』
「聞いてたさ、あるなら試してみる価値はあるだろ」
『俺がやりたくない』
ズッパリとスティーブンの提案を否定する。
そりゃお前はやるでしょうよ、でも私が嫌だわ
駄目、却下、ホント無理。
「なんで」
『お前に負担をかける』
「俺は何でもするさ、君のためならね」
ま た そう言うっ!
思わず頭を覆う、ほんとこの男はっ!
私そんな子に育てた覚えはないんですがっ!?
今すぐフランチェスカさんのとこに殴り込みに行きたい。
『……よくもそんな歯の浮くような台詞が出るな…』
「それって、俺が口説いてるってわかってるのかな?」
え…墓穴掘った?私もしかして
『お前な……』
ああもうどう誤魔化そう…と思っていたら
目の前に気配を感じて顔を上げる。
「あの時怒ってくれた事…自惚れていいかい?」
おかしいな、目が逸らせない
身体が、動かない
「アル…好きだ」
ゆっくりと、スティーブンが身を屈めてくる。
伸ばされた手が、私の顔を捉えて
ゆっくりと唇が重なる
見開いた私の目が、スティーブンの細められた熱のこもった目と合う。
ドクドクと鼓動がうるさい
ああ、駄目だ…
受け入れたらきっと戻れないのに
そう思いながらも…目を閉じた
それを合図に、スティーブンの舌が滑り込んでくる。
『ん…』
舌が擦れ合う感触が、気持ちいいのに
時折鳴る水音が部屋に響く音が恥ずかしい
何度も角度を変えて、吐息を交換する
だらりと垂らされていた手が、ゆっくりとあがる
駄目だ
駄目だ
もしもの時、辛くなる
なのに
なのに私の手は
するりとスティーブンの肩に回されていた。
『アラン……私も好きだ』