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そんな子に育てた覚えはありません
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あれから私は翌日に、数日後にはスティーブンも退院して、今では元気に職場復帰している。
今日もライブラは皆元気に犯罪者潰しですよ。
そして私は[マクロの決死圏]の騒動でアパートが倒壊して、未だ新しい部屋が見つからない(安いとこがない)ので未だにライブラの事務所に寝泊まりしている。
のだが
「…アル、だからウチに来れば良いじゃないか」
『嫌だね』
「何でそんなに嫌がるかな…傷付くんだけども、折角恋人になれたのに」
私の隣に座るスティーブンの顔を見ずに即答すると、彼は壮大に肩を落として溜息を吐く。
恋人同士になってからと言うもの、スキンシップ過多になってる君のせいですよアラン君。
ちょっと皆が目を離すと隣に来てくっつくし
気がつくと目が合うし
仕事が終わって皆が解散すれば抱きついてきて
[一緒に住めばいい]のゴリ押し…
その度に拒否してるわけです。
だってなんか
貞操の危機を感じるから……
元々女なのに正真正銘の処女より先に後ろの処女喪失してたまるか!
あと300歳にもなって童貞で処女って言い辛い。
30で童貞が魔法使いで50が大魔導士なら、300歳はなんなんだよ、賢者か?大賢者なのか?もしくはその上があるのか?その上って何だよ。
とは、言うものの…
日食もそんなに頻繁に来るわけないし、スティーブンにも悪いかな…と最近思い始めています…
いや断り続けて早二週間なもんで。
あと拒否すると次の日から更にスキンシップ増しになるので、最近ザップの視線が痛いんだ…
[うわぁ…]って目してんだ…
いい加減気付いてスティーブン先生…
いや気付いててやってるんじゃねコレ…
そろそろ皆にカミングアウトしないとまずい気がするんだけど…
その前に私はK.Kに相談したい…
助けてK.K…頼れるの貴女だけなんだ…
「そんなに嫌かい?」
『……お前と住むのが嫌なわけじゃない』
ゔゔ…
そんな捨てられた犬みたいな顔するんじゃない!
「じゃあ何が不満?」
覗き込んで、来るんじゃない
じっと見つめてくる不安そうな瞳、困って八の字になった眉…子供の頃みたいな顔するなし。
その顔弱いんだから!!
『……はぁ…わかった、行く』
「!良かった、荷物は?」
『いい、自分で持ってく』
[ヨシ]と言われた犬のように、途端に顔が明るくなるスティーブンを恨めしげに睨んでから仮眠室へと荷物を取りに行く。まぁ荷物と言っても本当に最低限しかないので、大きめのボストンバッグ一つである。
着替え五日分もあればなんとかなるもんです。
バッグ一つを持って戻れば、スティーブンが苦笑しながら立ち上がる。
「相変わらず荷物は少ないんだな…」
『この方が楽だからな』
「でも今後は心配ないんだから、物を増やしたらどうだい?」
『服を買えって?』
「そうだよ、勿体ないじゃないか」
褒められてんのか?
でもほら、ウニクロでも様になるからいいじゃん…
「なんなら俺が贈るよ」
『そこまではいい…』
「良いじゃないか、恋人に贈り物くらいさせてくれよ」
スマートにやりそうだから困る。
なんだかんだと二人で言いながらドアを開けた ら
凄いジト目で目が死んでるK.Kが立っていた。
『………K.K?帰ったんじゃ』
「報告書一枚出し忘れてたの…それよりアルっち……… 誰と、誰が、恋人だって?」
チラリとスティーブンを見ると何でもないような顔をしている。
こいつ…隠す気ハナからないな?
「僕と、アルがだよ、K.K」
「ハァッ!?ちょ、ちょっとアルっち!?何血迷ってるのよっ何でっこんなっ腹黒でいけ好かない男なんかとっ!!勿体無い!勿体無いわっ!!アルっちならもっと可愛くて素直な子が見つかるはずなのに!なんでスカーフェイスなのぉおおお〜!?」
スティーブンのサラッとした返答に叫び出したK.Kにガッシと襟元を掴まれてガックンガックンと前後に揺らされる。
の、脳味噌が揺れるっ!よ、酔う…
『け…K.K…せ、説明する、から…』
は、吐きそうだからやめてくれぇ…
「皆にもいずれ話すから、他言無用で頼むよ…K.K」
ははは、と笑うスティーブンが恨めしくて睨んでやると肩をすくめるだけでかわされた。
おのれ!!
「……それで、入院中にくっ付いた訳?」
『まぁ…そういう事だな』
簡潔に説明しおわると、真面目に聞いてくれていたK.Kの顔が困り顔になる。
「アルっち……本当にいいの?こんなので」
「こ…失礼だな」
「可愛い女の子とか、誠実な男の子とか…貴方ならすぐ見つかるのに…」
「まるで僕が誠実じゃないみたいな言い方やめてくれないか」
スルーするK.Kとスルーされるスティーブンが地味に面白い。
こういうの夫婦漫才って言うんだっけ?
「ぅうう〜勿論アルっちがいいならいいのよっ!?でもアタシ、心配でっ!!」
『俺はアランだからOKしたんだ』
「!!」
「……そう…ならもう何も言わないわ…でも!何かあったら言ってよ!?相談に乗るから!」
『ありがとう』
K.Kの勢いに押されながらも、裏表のない彼女の言葉が清々しくて純粋に嬉しい。
微笑みながらお礼を言うと少し頬を赤く染めたK.Kがキッとスティーブンを睨みつけた。
「スティーブン!アンタアルっち悲しませたらアタシがその眉間に銃弾ぶち込んでやるから!」
お、オーバーな…
「えぇ…」
で、ここで[悲しませない]と言い切らないあたりスティーブンですよねー知ってた。
「でも、悲しませるのも慰めるのも僕がしたいから眉間は勘弁してくれないか」
「『………』」
K.Kと揃って固まった。
こ
の
キ
ザ
ヤ
ロ
ウ
!
みるみるうちに私の顔に熱が集まるのがわかる。
「この…キザ男…最低っ!!」
K.Kもっと言ってやって…
私は何も言えないまま、顔を片手で覆うしかできなかった。
「アルっちが辛そうなの見たら問答無用で風穴開けてやることにしたわ…ったく……アルっち、遠慮なく言ってね…じゃあね」
スティーブンに物騒な忠告をして報告書を押し付けてから、K.Kは私に和かに手を振ってから事務所を出て行った。
あとに残された私は、顔の熱が引くのを必死で待ちながら気まずくてスティーブンの方を見れない。
「……」
『……』
「アル……帰ろうか」
うっせぇわ…
と言いたくても言えず、黙ったまま私はスティーブンの後をついて車に乗り込んだ。