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still wating〈you〉
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仕事をサボって
ライブハウスなんかに来たバツだ。
…狭くて高い階段を降りはじめたところで
踏み外した。
後ろの人がとっさに支えてくれて
落ちはしなかったけど…
「だいじょうぶ、ですか?」
しっかり支えてくれたので
男性かと思ったけど
声の主、は普通に女性。
「……あの…ありがとう、ございました」
「どういたしまして」
にっこり。
知っている…じゃなくて…
知っていた、人だった。
ふと気付くと
助けてくれた手が、
わたしの腕から手のひらに滑り
離れる寸前で留まって
…指先を握ってる。
「あ。の。」「……!!」
ぱっ、と手を引いた………ちなつ。
目を伏せて、ちょっと照れた顔で
「すみません、知り合いに似ていたから…」と
眩しそうな表情で謝った。
昔、きれいだったけど……いまはもっと綺麗。
…気付いてないのかな。
もぅ。
「ちなつ、でしょ?」
ちなつの目が大きくなって
10数年ぶりに
その口がわたしの名前を呼んだ。
「絹?!?」
「げんき?ちなつー」
「そっちこそ!」
「なんか噂で劇団入ったって聞いたよ?」
「 絹こそ…留学したとか聞いたけど」
「んー、いつの話よ?大学のときだってば」
「そっかー、懐かしいなぁ」
「で、今、なにやってんの?」
「え?、えっとね、えっと。阪急の……」
「なにそれ真面目そう!」
「うん。真面目にやってるよぉ」
お互いちょっとお酒も入ってて
なにが可笑しいのかわからないけど
階段の下でとにかく笑いが止まらない。
「ね、始まるよ絹こっちおいで、
見えないでしょ」
背の高いちなつ。
見える側を譲ってくれた。
「ん。ありがとー♪」
「ね絹、あの、さ……
そこで、ちなつの声に被って大音量で
ギターとベースが響いた。
sum41。か。
これじゃ
もう、ちなつの声は聞こえない。