-
over my head〈you〉
-
お酒は強い。
なのに酔った。
先日、ライブハウスの
爆音の中で再会したちなつは
律儀にディナーに誘ってくれた。
待ち合わせ場所に5分前に行くと
やたら格好いい立ち姿の人がいた。
なんてゴージャス、と思ったら
…ちなつだった。
しかも…ちいさくて美しい
桔梗のブーケを持っていて。
「はい、これ。絹」
「?え?」
「再会の記念に」
「あ、りがと」
「その髪型、似合う…。綺麗」
「……///…」
「さ、絹?行こう。
和食なんだけど、きっと気に入るよ♪」
「うん」
You really know how to treat a woman.
予約してくれていたお店は
夜景の見える特別な席で
ちなつが特別に用意してくれたのだと解った。
もう一度言う。
お酒は強い。
なのに酔った。
食事中ずっと
ちなつが蜂蜜のような
甘い笑顔を向けてくれて
嘘なんかつける筈もなく、
できるだけシンプルに
近況を話した。
バツイチ子持ちの、シングルマザー。
ちなつは、驚いたみたいだけど
同情するでもなく、呆れるでもなく、
ちゃんと聞いてくれた。
ほんと、昔から変わらないのね。優しい。
失敗と年齢を重ねたわたしは
ちなつの目には
どう、映ってるの?と思ったら
胸の奥がチリチリ痛んだ。
息子の名前を聞かれたけど
言えるわけない。
飲むしかなくなって。
デザートにたどり着く前に
完全に酔っ払った。
帰りのタクシーの中で更に
名刺も領収書もクーポンも、
ぱんぱんに挟んである手帳を
派手に落としてしまって
ちなつが全部広い集めてくれた。
「ちなつー、ありがと。
でも……なんで一緒にのってるのー?」
「絹、だって、ひとりで帰せないよ」
……優しすぎるのもどうかと思う。
後ろのシートにふたり並んでいると
陶器の肌、端正な横顔
長い脚、どう目を逸らしても
どれかが必ず目に入る。
……
You’re the most handsome man I’ve ever met.
いや、まって。
ちなつは、男じゃないし。
タクシーを降りるとき
段差に躓きそうになったわたしを
ちなつは軽々と抱き上げた。
「……ちょ!」
「転ばないように。ね」
「歩けるってば」
「はいはい。で、何階なの」
「……21階……」
「了解♪」
わたしだけでなく、
鞄まで抱えてくれてる。
なんでこんなに軽々と?
腕のなかで
ちなつの微かな香水の香り。
それからつるりとした
上質なシャツの感触にふと気付く。
…お洒落してきて、くれたのに。
「ちなつ」
「ん、」
「ごめんね、よっぱらって」
「なに、言ってるの今更」
ほんとに可笑しそうに
クスクス笑うちなつに抱えられて、
わたしは
カレッジに通ってる歳の女の子みたいに
どきどきしながら
(コーヒーはいかが?って言うべき?
家に上げていいの?)
…そんなことを思ってる。