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Sk8er Boi〈you〉
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玄関まで送ってくれたちなつを、
……そのまま帰すなんて
できなかった。
「ちなつ、コーヒーでも飲んでいかない?」
とりあえず
ソファーに座ってもらった。
なんて…絵になるんだろう。
ただそこに、ゆったり居るだけなのに。
夜景を後ろにしたちなつが
わたしを見詰めてる。
そんなに見ないでほしい。
そんなふうに見ないで。
逃れるように
コーヒーを淹れにキッチンへ……と思った瞬間
ぐいっ、と強く腕を
ひっぱられた。
「コーヒーの前に、絹、」
どちらからともなく
唇を重ねた。
再会の印。
深い意味なんてない筈。
それにしては…丁寧なキス。
「ちなつ……慣れてるのね?」
「……え?」
よっぱらったわたしを
送ってくれたあげく、絡まれて
ほんとに申し訳ないけど、
何故か一瞬、腹が立った。
ほんと、申し訳ないけど。
「慣れてない、よ」
「ふぅん?」
意地悪で睨んだら逆に
強い強い視線で返された。
「絹は、
慣れてないのが良いの?」
答える前に
すうっ、と
ちなつの手が伸びてきて
わたしの顎のしたに指を添える。
……吸い寄せられる。
わたしのファーストキスは
この唇だった。
もういちど、唇を重ねる。
柔らかく舌が絡んでゆく。
「ん……っ」
そんなつもりはなかったのに、
声が漏れてしまう。
「絹…」
抵抗してみる。
「っ、ん……。もう母親よ?」
「さっき、聞いた」
優しく強く両手首をつかまえられた。
柔らかくて、強い。
ひとは歳を重ねるだけで
こんなにも魅力的になるもの?
後で
聞いてみたい。