-
Sk8er Boi〈ちな〉
-
着いたのは
六本木の、
びっくりするような場所にあるマンション。
そして高層階。
…普通じゃない。
エントランスをくぐるとき
きちんとした服で良かった、と思った。
なんてったって、
今お姫様抱っこしてる。
怪しい…。
あ、でも
女同士だし?
セーフでしょ?
いや逆にアウトかな……。
ドキドキしながら
たどり着いたドアの前で
絹をそっと降ろす。
「大丈夫?」
足元、ふらついてる。
お風呂とかで転びそうだなぁ。
心配だなぁ。
「うん……大丈夫」
綺麗で見とれる。
緩く巻いた髪、
微かにシャネルの香り。
俯いてると睫毛の影が長い。
美白が流行なのに
イタリアのマダムみたいに日焼けした肌。
健康な清潔。
まだ今晩、一緒にいたいけど
…迷惑、かな。
「絹、あの…」
「うん、」
息子さんの名前、千奈津くん?
読み方は「ちなつ」なの?
どうしてその名前にしたの?
聞きたいことも
話したいこともたくさんあるのに
今、ひとつも出てこない。
……ふてぶてしくなんか、ないな。
絹が先に口を開いた。
「ね。ちなつ、コーヒーでも飲んでいかない?」
断るなんて選択肢はなくて、
期待してしまう。
絹も
まだ一緒に居たいって
思ってくれてるの?
広すぎるガラス張りの
リビングに通された。
すすめられてソファーに座ると
目の前の夜景に圧倒される。
東京タワーが見える部屋って
ほんとにあるんだな。
絹の後ろに
東京が光ってる。
絹は蝶みたいだ。
キラキラした中をふわふわ飛んでいて
「たぶん無理」って思っても
手を伸ばして
つかまえたくなってしまう。
「ちなつ、いまコーヒーいれてくるね」
ほら、すぐ逃げる。
気付いたら
その腕を引っ張っていた。
座ってるわたしに
覆い被さる体勢になった絹は
びっくりして目がまるくなってる。
目の前に
絹の、唇。
重ねて、
そっと舐めて、
一瞬舌を絡めた。
そして離れる。
止められなくなる前に。
なのに、
慣れてるのね?と少し不満そうにしたのが
可愛いすぎて
止めるのを、やめた。
「……ちなつ」
「うん、」
「わたし、昔ちなつとキスした」
「……忘れられてしまったかと……」
「忘れてない。ファーストキスだもの」
「上手になったね、絹」
「その言葉、そのままお返しする」
「褒めてくれてるの?」
「うん」
「よかった」
じゃあ。
もういちど。
もう、中学生じゃない。
この先も知ってる。
絹にもっと触れたい。
だんだん熱を帯びる、口付けの音が部屋に響く。
「っ、ん……。もう母親よ?」
「さっき、聞いた」
キスの合間に絹は
まだ逃げる言い訳を、探してる。
そんなの、探させたくない。
言い訳なんてしないで。
両手首をつかまえる。
耳に唇を移す。
「……っ、ぁ」
可愛い声が漏れた。
「絹、あのね」
やっと言える。
「好きで、好きで、……あいたかった……」
耳元で唇をつけたまま
囁く。
そのまま、
抱き締めてキス。
今晩はずっとこうしていよう。