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no reason〈you〉
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息子には
夜お客様が来るから、とだけ伝えたけど……。
でももう23:00。
彼は自室で夢の中だ。
「いま、マンションについたよ~」と。
LINEがきた。
息子が眠っていると思って
インターフォンを押さなかったのだと思う。
別れた夫とは大違いだ。
ボタンを押して
エントランスの扉をあけた。
待つこと数分。
ドアをそっとあけると、
ちなつがいて
…まさかの…
①スーツ姿
②赤い薔薇の花束
③甘い笑顔
①+②+③?!
びっくりしたのと
隅々まで想定外だったのと
ものすごく素敵だったので
いったんドアを閉めてしまった。
もういちどそっとあけると
「???絹なんで閉めたの~?!っ」
幻覚、じゃない……。
「ちなつ…」
「こんばんは~絹」
やたら眩しいちなつに
ちょっとくらっとする。
「ひさしぶり。会いたかった、絹。
え。あれ?絹?どーして閉めるの…」
ちなつのペースにのみこまれる。
どうしてこんなに脚が長いの?!
「ちょ…っと、まぶしくて」
「えっ。??夜だよ?」
「……どうぞ。入って」
ダメだわ。通じてないわ。
「♪おじゃまします」
靴を脱いで玄関に立って
それから…ちなつは
わたしに薔薇を差し出した。
「ありがと……おみやげね?」
嬉しそうに、頷くちなつが可愛くて
さぞモテることでしょう、と思う。
「絹、あとね、お手紙も。はい」
金の縁取りのイタリアの封筒。
たぶん……ヴェネチアの。
「……すごく…なにもかも豪華ね」
「わたしと、つきあってください」
?は?!?!?
「そんなこと急に言うの?わたし、
会えない間、ずっと会いたかったんだから!」
「っえ」
そこでびっくりするの?!ちなつ……。
「そ、そう、な、の?!////」
……赤くなった…。
これ、わたしも正直にならないとだめな案件…
たぶん。
「ちなつ、すごくあいたかった」
薔薇と手紙と、
手の甲にキスを受けとる。
「泊まっていけるの?ちなつ」
「…泊めてもらえるなら」
「もちろん」
「朝は早いの?」
「お昼には出る。けど」
「そう」
今日はあなたの話を聞く夜になる。
ちなつをバスルームに案内して
バスタオルを渡す。
「手紙。読んでね」
「うん、ごゆっくり」
リビングに戻り、
ドキドキしながら封を開ける。