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個人把握テスト
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「1-A……1-Aってどこ…」
校舎を歩き回りながら1Aの教室を探す。
校舎に入るまでは順調だったのに考え事して歩いていたら知らない廊下のド真ん中に立ってて一瞬思考が停止した。
あやふやな記憶を頼りに昇降口へ戻ろうと試みるものの、戻ってる気がしなくて困っている最中だ。入学式に間に合わなかったらどうしようと思い、ふと顔を上げたら「1-A」と大きく書かれた扉を見つけた。
運がいい。
静かに扉を開けると既に数名の生徒が座っていた。
その中でもポニーテイル女子の……ダイナミックボディが目に入って自分の胸と見比べる。胸から顔を上げると見慣れたツートンヘアーが面白いくらい目を丸くしていた。焦凍はガタッと立ち上がり、無言でズンズンと歩き寄ってくる。
「聞いてねえぞ焔」
「言ってないからな」
「驚いた」
「そっちのが効果的だろ?」
「ヒーローにはならないんじゃなかったのか」
「事情が変わった」
「……また、一緒になれてよかった」
「私も」
いかにも怒ってますと言いたげな気迫が消え、目元を緩ませて和らかな雰囲気と細い声で呟いた。
扉の前にいると邪魔になるから黒板に書かれた名前順の指定席まで移動してリュックを机の下に置く。
さっきまで後ろにいた焦凍は、自分の席に着くなり座って頬杖をついていた。
「君!」
焦凍の元へ行こうとしたとき声をかけられて足が止まる。声がした方を見るとどこかで見たことあるような眼鏡男子が立っていた。
「俺は私立聡明中学出身、飯田天哉だ。同じ1-Aのクラスメートとしてこれからよろしく頼む!」
「黒冷焔。よろしく」
ロボみたいな動きをしながら自己紹介してきたこの眼鏡、実技試験の説明会場で質問してた奴じゃなかっただろうか?受かったのか。
それにしてもキャラが濃い。
言うだけ言って自分の席に戻った彼を見て周りの生徒の顔をまだ見ていなかったこと思い出し、ぐるりと見渡す。その中でも目を奪われたのは隣の席に座るカラスのような頭をした男子生徒。見間違いでなければ、あの時肘をぶつけてしまった受験生だったはず。
パチリと目が合い、会釈すると会釈が返ってきた。
焦凍の隣に立つとカラス頭の男子生徒を横目に「あいつと知り合いか?」と問われ「説明会ん時、肘ぶつけちゃった人」と応えれば「気をつけろよ」と注意された。
「轟さんのお知り合いですか?」
隣の席に座っていたダイナミックポニーが話し掛けてきた。
「ああ。同じ中学の親友だ」
「まあ!そうだったのですね」
平然と応えた焦凍と目を輝かせるダイナミックポニー。それはそうと何時の間に友達から親友に変わっていたんだろうか。ずっと友達だと思ってたよ。
「私は八百万百と申しますわ!よろしくお願い致します」
「黒冷焔だ。よろしく」
「ボーイッシュな方なのですね」
「そうでもないと思うけど…」
「ですが些かスカートが短すぎる気がしますわ」
「カーディガン着てるからだと思うよ」
「あっ、本当ですわ…すみません」
「気にしないで」
恥じらうように口元を隠す八百万。喋り方、態度その他諸々を見る限りきっとお嬢様なんだなぁ…
「八百万は一般を受けたの?」
「いいえ!推薦入学ですわ!」
「推薦?焦凍と一緒か」
「…………そうだったのか?」
「酷いですわ轟さん!」
「わりぃ。全然周り見てなかった」
あの頃の焦凍は中学でも周り見てなかったから入試内容しか覚えてないだろうな。
「焔さん」
「え」
突然名前を呼ばれて驚くと「あっ、すみません…」と謝られる。
「親しくもありませんのに突然の名前呼びは失礼でしたね…」
「いや…あんまり名前呼びされないから驚いただけ」
「じゃ、じゃあ焔さん……と呼ばせていただいても…」
「いいよ」
「ありがとうございます!」
プリプリしながら嬉しそうな笑顔を浮かべるお嬢様の隣にムスッとした顔の焦凍。
「焔さんも私のこと百って呼んでくださって結構ですわ」
「わかった。百って呼ばせてもらう」
「ええ!」
先程よりもプリプリし始めた百と先程よりもムスッとする焦凍を眺めていると荒々しく教室の扉が開けられる音がして、さっきよりも増えた生徒達の目が集まる。
「あ?見てんじゃねえぞモブ共」
爆発した頭と赤色のつり目をした会いたくなかった男がそこに居た。目を逸らそうとした瞬間、パチッと目が合う。
「てめェ能面レイプ目女!」
「なんだクソ爆発頭も受かったのか。おめでとう」
反射的に返事をしてしまった。
「当然だカス!!これで正々堂々と真っ向からてめェをブッ潰せる!!」
「はは。やれるもんならやってみろボケ」
「誰がボケだクソ女ァ!!」
ギャンギャン騒ぎながら爆豪が席に着いたのを見て自分も戻ろうとしたとき手首を掴まれ、振り向くといつも以上に無表情な焦凍に「知り合いか?」と聞かれて「同じ試験会場にいた奴」と適当にあしらい席に着く。リュックから教科書やら持ってきたものを机の中に仕舞って周りを見渡すと生徒はほぼ着席しており空いている机は残り2つだけとなった。
「机に足をかけるな!雄英の先輩方や机の製作者方に申し訳ないと思わないか!?」
「思わねーよ、てめーどこ中だよ端役が!」
飯田と爆豪の声が教室内に響き渡って2人を見る。視界の端に教室の扉が開いているのが見えてそっちに視線を滑らせると緑髪のモサモサした男子が突っ立っていた。
「ボ…俺は私立聡明中学出身、飯田天哉だ」
「聡明〜〜〜〜!?くそエリートじゃねえかブッ殺し甲斐がありそうだな」
「ブッコロシガイ!?君ひどいな、本当にヒーロー志望か!?」
ガタッと机に乗り出す爆豪と心底驚いた表情をする飯田。
誰に対しても同じような態度を取る爆豪はあれが通常運転なんだな。ヒーロー科ってどこの学校もこんなんなのか…?
飯田は扉の前で突っ立ってるモサモサを見つけると爆豪を無視してそちらに歩む。
「俺は私立聡明中学の……」
「聞いてたよ!あ…っと僕、緑谷。よろしく飯田くん…」
「緑谷くん…君はあの実技試験の構造に気付いていたのだな。俺は私立気づけなかった…!!君を見誤っていたよ!!悔しいが君の方が上手だったようだ!」
ロボのような動作をしながら話し続ける。
緑谷の顔をよく見ろ飯田。全然知りませんでしたって顔してるぞ。
苦笑いする緑谷の後ろからひょっこりの触覚が長いボブカットの女子生徒が顔出したのが見えた。
「あ!そのモサモサ頭は!地味めの!!」
パァッと花が飛ぶような可愛らしい笑顔を浮かべたボブカット。
「プレゼント・マイクの言ってた通り受かったんだね!!そりゃそうだ!!パンチ凄かったもん!!」
「いや!あのっ…!本っ当あなたの直談判のおかげで…ぼくは…その…」
「へ?何で知ってんの?」
「〜〜…」
「今日って式とかガイダンスだけかな?先生ってどんな人だろうね。緊張するよね」
ボブカットと緑谷の距離が少しずつ近づき始めた頃、廊下の方から男性の声が響いた。
「お友達ごっこしたいなら他所へ行け」
その声にボブカットの言葉が詰まり、3人の視線が廊下に向く。そこに何があるの。ここからだと見えない。
「ここは…ヒーロー科だぞ」
ヂュッと何かを吸い出す音がしてから廊下から寝袋が生えた。
「「「(なんか!!!いるぅぅ!!!)」」」
クラス全員の心が一致した瞬間だった。
「ハイ静かになるまで8秒かかりました。時間は有限、君たちは合理性に欠くね」
寝袋からは清潔感のないボサボサした髪に剃られていない髭と眠たそうな目つきのくたびれた男性が出てきた。
「担任の相澤消太だ。よろしくね」
「「「(担任!!?)」」」
「(まじか)」
担任の相澤先生がゴソゴソと寝袋の中を漁って体操服を取り出す。
「早速だが体操服着てグラウンドに出ろ」
「入学式は?」「ガイダンスは?」「いきなり何やろうっての?」と戸惑い、言葉が飛び交う中「いいから早く更衣室行って着替えろ」と念を押されて先生の指示に従い更衣室へと向かう。
更衣室内で着替えながら数少ない女子同士の自己紹介が始まった。名前だけ聞いて適当に聞き流していると「わっ!」と大声が耳元で聞こえた。
「? なに?」
隣には芦戸が驚いた表情で私の肩を見ていた。そこには敵にやられて付いた消えない古傷が残っている。
芦戸だけじゃなく皆の視線が肩に集中してワラワラと集まってきた。
「クロロンその肩どうしたの!?」
「(クロロン?) 昔ちょっとヘマして」
「ちょっとのヘマで付くような傷ではありませんわ!」
「昔何があったのかしら?」
「……色々と?」
「色々とって…あんたね…」
耳郎が苦笑した。
「早く着替えねえと集合場所分かんなくなるぞ」
「あっ」
「そうね。早くしましょ」
着替え終えてから更衣室を出ると少し離れた所に焦凍が立っていた。私を見ると口パクで「遅え」と言ってから外に向かって指を指して歩き出す。
その後ろを追い掛けると背後で百達がコソコソと何か喋っていたが特に興味もなく聞き流した。