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個人把握テスト2
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昇降口を出て着いた先はグランド。既に男子達は全員が集まっていたようで私達が最後だったらしい。
いつもの癖で焦凍の隣に移動。相澤先生は生徒の人数を確認する。
「全員居るな。これから個性把握テストを始める」
「「「「個性把握…テストォ!?」」」」
「入学式は!?ガイダンスは!?」
「ヒーローになるならそんな悠長な行事出る時間ないよ」
「……!?」
突っかかってきた麗日を相澤先生はバッサリと切り落とした。
「雄英は自由な校風が売り文句。そしてそれは先生側もまた然り」
「「「「………?」」」」
「ソフトボール投げ、立ち幅跳び、50m走、持久走、握力、反復横飛び、上体起こし、長座体前屈、中学の頃からやってるだろ?個性禁止の体力テスト。国は未だ画一的な記録を取って平均を作り続けている。合理的じゃない。まぁ文部科学省の怠慢だよ」
ボールを手に取り、爆豪を見る。
「爆豪、中学の時ソフトボール投げ何mだった」
「67m」
「じゃあ個性を使ってみろ。円から出なきゃ何してもいい。早よ。思いっ切りな」
円に入った爆豪にボールを投げ渡すと軽くアップをしてから大きく振りかぶる。
「んじゃまぁ……死ねえ!!!」
ボォォンッと爆破させ、爆風にボールを乗せて吹っ飛ばす。爆風が近くにいた私達に勢いよく襲い掛かり、ブワッと髪が浮く。
「「「「(……………死ね?)」」」」
「まず自分の『最大限』を知る。それがヒーローの素地を形成する合理的手段」
相澤先生が手に持つ端末には705.2mと表示されている。恐らく爆豪が投げたボールの距離だろう。それを見た生徒達がざわついた。
「なんだこれ!!すげー面白そう!」
「705mってマジかよ」
「個性思いっきり使えるんだ!!さすがヒーロー科!!」
「んん…困ったな。どの種目で活かそう…」
「左は使いたくねえな…」
ボソッと呟くと焦凍もボソりと呟いた。
「………面白そう…か」
相澤先生の声が聞こえた。
「ヒーローになる為の三年間、そんな腹づもりで過ごす気でいるのかい?よし、トータル成績最下位の者は見込み無しと判断し、除籍処分としよう」
「「「「はあああ!?」」」」
グランドに1Aの絶叫が響き渡った。
そして先生は前髪を掻き上げてあくどい笑顔で言う。
「生徒の如何は先生の《自由》。ようこそこれが雄英高校ヒーロー科だ」
「………」
背筋がゾワリとした。
「最下位除籍って…!入学初日ですよ!?いや初日じゃなくても…理不尽すぎる!!」
生徒を代表するように麗日が叫び、周りの生徒はうんうんと頷く。そんな生徒達を見ながら掻き上げた髪を下ろす。
「自然災害…大事故…身勝手な敵たち…いつどこから来るのかわからない厄災。日本は理不尽にまみれている。そういうピンチを覆していくのがヒーロー。放課後マックで談笑したかったならお生憎。これから三年間、雄英は全力で君たちに苦難を与え続ける。
《 Plus Ultra 》さ。全力で乗り越えて来い。さてデモンストレーションは終わり。こっからが本番だ」
*****
相澤先生の指示に従い、全員が一緒に体力テストを回ることになった。バラバラになってテストする程人数が多いというわけでもなく一緒に回った方が先生も実力を把握しやすいから、とのこと。うちのクラスは21人いて番号21番が1人でやるのは競い甲斐がないから最後は3人組で行うようだ。
生徒の個性を観察するにも持ってこいな時間。ポケットに突っ込んだ手を閉じたり開いたりして体操しておく。
まず第一種目、50m走。
蛙吹の走り方がまんま蛙なのに5秒代ってのが凄かった。あと飯田が3秒04だった。早い…恐らくこのクラスで1番早いんじゃないだろうか。
「焔」
「んー」
「お前どうやって走る」
「炎逆噴射して飛ぶ」
「逆噴射」
「そう言えば個性見せるの初めてだっけ?」
「ああ」
芦戸がクラウチングポーズとってる隣で後ろ向きに座る無駄にキラキラしてる奴がスタートの合図で腹からレーザー出して飛ぶ姿を見ながら会話をする。
途中でレーザーが切れて芦戸に抜かされ、ゴールした後に「一秒以上射出するとお腹壊しちゃうんだよね」なんて言ってて周りから変な顔で見られていた。
次にスタートラインに立ったのは緑谷と爆豪だった。
「爆速!!」と言いながら両手でボンボンと爆発させてゴールした。
「焦凍どうやって走んの?」
「氷で」
「持久走もそれ?」
「走るより早い。焔は?」
「飛ぶ」
「言うと思った」
「次、切島と黒冷。早く来い」
「呼ばれたから行ってくるわ」
相澤先生に呼ばれてスタートラインに立つ。赤髪のツンツンしたやつが「俺、切島鋭児郎!実は入試の実技会場一緒だったんだぜ!よろしくな黒冷!」ニカッと笑って自己紹介が終わった途端に「START」の掛け声。両腕を後ろに構えて炎を噴射して一気に飛ぶ。
「3秒09!」
「まぁまぁだな」
もっと速く行ける気がする。
「お前すっげえな!!」
ゴールし終えた切島に褒められた。
「どうも。言い忘れてたけど私は黒冷焔、よろしく」
「よろしくな!」
「うん」
中学と高校ではこんなにも違うものなのか。凄いなとしみじみ思って焦凍の元まで戻ると入れ違いのように「轟!」と呼ばれて「行ってくる」と言い残して行った。
焦凍は氷の生成を重ねて滑るようにゴール。終わったあとは左で氷を溶かして戻ってきた。
「個性初めて見た」
「そういや個性見せてなかったな」
「お互い様だな」
「そうだな」
なんて会話をしている間に第一種目は終了した。
第二種目、握力。
体育館に移動してからすぐ相澤先生に握力計を握らされて私のテストは一番最初に終わった。
「左42、右44か…」
「中学ん時と変わりねえな」
「うっせえ。そういう焦凍はどうなんだよ」
「凍らせて握力掛けたらs「やっぱもういいや」そうか?」
「凍らせりゃよかったじゃねえか」と不思議そうな表情で言われたが生憎自分の個性全てを見せる気は更々無いのでいざという時まで炎だけでやり通すつもりなのだ。
手の内全てを晒すのが怖いとどこかで思ってる自分がいるからかもしれない。
後ろの方で「540キロて!!あんたゴリラ!?タコか!!」「タコってエロイよね………」なんていう会話が聞こえてきた。
第三種目、立ち幅跳び。
再びグランドに移動して行われる。これも逆噴射で飛べるのだが身体が黒くなるまで飛び続けることが出来るわけで悶々と考えながら適当な所で着地したら「3052m」と私を追い掛けてきたロボットから数値が聞こえてきて、着地ミスったと少しばかり反省した。
「飛びすぎだろ」
「体力尽きるまで行けんぞ」
「マジか」
「マジ」
この会話を相澤先生が真後ろで聞いてたことに2人して気づかなかった。
第四種目、反復横飛び。
「これはどうしようもないわ」
「氷張ればできねえわけでもないが…」
50m走の時とは変わって「黒冷!轟!」と名前を呼ばれて、顔を見合わせながらも2人で反復横飛びを終わらせた。
76回だった。
第五種目、ボール投げ。
一番最初に来た場所に皆でぞろぞろと歩いてゆく。個性駆使してボール投げで結果を残すには……爆豪のパクって飛ばすのが一番な気がする。
「次、黒冷」
「はい」
麗日が無限を出してから指名されてボールを受け取り、円に入る。ボールが溶けない程度の火炎温度で入試ん時よりも小さい小指の第一関節の3分の1くらいの球体をボールと掌の間に浮かせて……ボールを振りかぶりつつ、皆に気づかれないように球体が触れる掌の部分だけ氷を張ってから、ちょん…と触れる。
「死ねゴミクズ共」
ボォォォンッ!!
爆豪が起こした爆発と同等な爆発が巻き起こってボールはすすぐ様見えなくなった。
「「「「(ええぇ……?)」」」」
「(黒冷さんってもしかしてかっちゃんと同種の…?)」
「(お前な……)」
先生の持つ端末からピッと音がして無言で数値を見せてきた。
810.3m
「まぁ、いい感じじゃない?」
球体がもっと大きけりゃ記録は倍以上は伸びたと思うけど、ボール燃やさない程度の火炎温度であの技使って吹っ飛ばすには今のが限界だ。
2回目は1回目より劣ったが同じような記録が出た。
「次、緑谷な」
円から出て戻ると「あれどうやったんだ?」と焦凍から聞かれたが「ナイショ」とだけ言っておいた。ジト目で見られたが無視だ。
「さっきの、俺にも出来るか?」
切羽詰まった表情の緑谷を見つめていると同じく緑谷を見つめながら視線はブラさずに問われる。
「無理じゃないかな…あくまで私の個性だから出来るものだし。焦凍のは混じりっけがなくて綺麗だから尚更」
「それってどういう」
意味だ、の言葉を上乗せするように「個性を消した」と相澤先生の声が響いた。
「つくづくあの入試は…合理性に欠くよ。おまえのような奴も入学出来てしまう」
髪が逆立ち、首に巻いていた布がふわふわと宙に浮く。布の下に隠されていたゴーグルを見てピンッと来た。
「消した…!!あのゴーグル…そうか……!!」
視ただけで人の個性を抹消する個性
「抹消ヒーロー、イレイザー・ヘッド!!!」
ざわざわと小言が飛び交って騒がしくなる。隣の焦凍に「知ってるか?」と目で聞かれて無言で頷く。
母と同じ、個性殺しの個性だ。といっても母の場合は無効化が正しいのだが。
「見たとこ…個性を制御できないんだろ?また行動不能になって誰かに助けてもらうつもりだったか?」
「そっ、そんなつもりじゃ…!」
緑谷の体に布が巻き付きついてグイッと引っ張られる。
「どういうつもりでも周りはそうせざるをえなくなるって話だ。昔暑苦しいヒーローが大災害から一人で千人以上を救い出すという伝説を創った。同じ蛮勇でも…おまえのは一人を救けて木偶の坊になるだけ。
緑谷出久、おまえの力じゃヒーローにはなれないよ」
「………」
逆立った髪がフ…と落ちる。
「個性は戻した…ボール投げは2回だ。とっとと済ませな」
緑谷はブツブツと何かを言いながら投球ポーズを取る。彼が入試時に何をしでかしたかは知らないけど、あの様子から相澤先生が緑谷に目を付けてるってことだけは良く分かった。
今までの体力テストで緑谷は特別目立った成績は残せていない。こういう所で発揮できる個性ではないと思っていたから特に気にも留めずにいたが2人の会話からして何かあるんだろう。そしてその何かが今、発揮されるということなんだろう。
緑谷が腕を振りかぶる。
「………ッ、今」
「SMASH!!!」の掛け声でボールが一瞬にして空へ消えていった。
「!」
緑谷の個性はパワー?ブースト?というかあの威力…どこかで見たことあるような、それに掛け声だってオールマイトの……
オールマイト?
変色した指先をギュッと握って拳を作り「先生……!まだ……動けます」と言い切った。
似てるんた、オールマイトの個性に。いやでも考えすぎかもしれない。増強型の個性って結構いるし…単に似てるだけなのかも。
そうだよ、考えすぎだ。
別に…もしオールマイトと同じ個性だとして、だからなんだって話だ。私には関係ないだろ……関係ないはずなのに、なんで…こんなにも心がザワつくの。
ザザザ…
意識が飛ぶ。見下ろした自分の両手は真っ赤に染まっていて、横には死んだ母がいて、怯える弟がいて、首を掻き苦しむ兄がいて、目の前には父の首を掴んでわたしをみおろして、嗤う…スーツ姿のおとこがわらって…
わらって、わらってわらってわらってわらって
【可哀想に……独りぼっちになっちゃったね】
【僕を恨まないでほしいな】
【恨むなら君たちを裏切ったヒーローを、救えなかったオールマイトを、ワン・フォ……】
ドンッと脇腹に衝撃が走って意識が戻る。衝撃の元を見ると心配したような顔をする焦凍がいた。
「大丈夫か?急に目がブレて……」
「……大丈夫。ちょっと昔を思い出してただけ」
「………そうか」
「うん」
「……わりィ」
「何が?」
突然謝ってきた焦凍に首を傾げる。
「脇腹に鉄肘を入れた」
「ああいいよ。むしろありがとう」
「おう」
こちらで会話していた間にボール投げが終わったらしく「次は持久走だ」と言って歩き出した先生の後を皆が追っていた。
「早く行こう」
「ああ」
追い掛けて最後尾に並ぶ。
その後の体力テストも順調に終えて遂に結果発表が来た。
「んじゃパパッと結果発表。トータルは単純に各種目の評点を合計した数だ。口頭で説明すんのは時間の無駄なので一括開示する。ちなみに除籍はウソな」
「「「「…………!?」」」」
先生が持つ端末から結果が表示される。私の名前は上から3番目、3位にあった。
「君らの最大限を引き出す合理的虚偽」
ハッと笑う相澤先生に「「「はーーーーーーー!!!!??」」」と悲鳴を上げるその他諸々の生徒。
「あんなのウソに決まってるじゃない…ちょっと考えればわかりますわ…」と百が呟いた。
「俺は気づかなかったぞ…」と自分の両手を見下ろしてボソりと呟いた焦凍に「嘘じゃなかったと思うよ」と訂正を入れておいた。
相澤先生から見て、このクラスの《見込み無し》が《ナシ》だったのだろう。つまりヒーローの素質をプロヒーローに認められたわけだ。
「そゆこと。これにて終わりだ。教室にカリキュラム等の書類あるから目ぇ通しとけ」
くるっと踵を返して帰っていく相澤先生。ピタッと立ち止まり「緑谷」とフルフル震えている彼を呼んだ。
「ばあさんのとこ行って治してもらえ。明日からもっと過酷な試練の目白押しだ」
先生のサインが入った保健室利用書が手渡されたのを見た。のそのそとした足取りで歩く集団の最後尾を歩く。
「今日の夕飯、お前ん家何食うんだ」
「悩んでる」
「蕎麦な」
「分かったオムライスね…ってまた家で食ってくつもりか?」
「お前の飯美味いから」
「帰ったら冬美さんの飯が待ってるでしょうに」
「焔の食って姉さんのも食う」
「なんなのお前」
お前の胃はブラックホールか。
他愛もない会話をしながら昇降口へと向かっていく。
高校初日は初っ端から濃かったが何とか無事に過ごすことが出来た。初日からこうだとこれから先三年間はもっと凄いのだろう。そしてこの道を、父が、母が、叔父が通ってきたんだと思うと柄にもなく頑張ろうと思えた。
学校が終わってからは焦凍と買い物をして家に帰り、夕飯を食べながら体力テストで「もっとこうすりゃよかったんじゃねえか」「ならお前はこうしたら…」と案を出し合って時間は過ぎ去り、1日が終わる。
高校生活は始まったばかりだ。