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戦闘訓練
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次の日
「んじゃ次の英文のうち間違ってるのは?おらエヴィバディハンズアップ盛り上がれーー!!!」
「(普通だ)」
「(普通だ)」
「(くそつまんね)」
「(関係詞の場所が違うから…4番!)」
「(やばいこの落書きめっちゃオールマイトに似てる)」
午前は必修科目、英語等の普通授業。
英語教師はプレゼントマイクで面白可笑しく騒がしくやるもんだと思ってたらとても静かで普通だった。簡単過ぎて退屈しのぎにノートの端に描いたオールマイトの似顔絵が思った以上に上手く描けてテンションが上がった。
4時間目の英語が終わって昼。食堂に寄り予め先に席に着いて手作りの弁当を広げているとカタンと右隣の席に焦凍が座る。
「なんだ弁当持ってきたのか?俺のも作ってくれればよかったのに」
「やだよ。どうせ蕎麦しか食わないんだから」
「いいじゃねえか蕎麦」
「お断り」
テーブルに置かれた冷蕎麦をジト目で見る。
焦凍の奴下手したら3年間昼飯蕎麦じゃないんだろうか。蕎麦から焦凍に視線を滑らせるとコテリと首を傾げられた。
昼飯を平らげた私達は教室に向かう。焦凍はずっとそわそわしていて思わず温かな気持ちになった。だって午後の授業はヒーロー基礎学。オールマイトの時間だ。
「わーたーしーがー!!普通にドアから来た!!!」
HAHAHAHA!と豪快に笑いながら登場したオールマイトにクラス中が騒めく。
「オールマイトだ…!!すげえや本当に先生やってるんだな…!!!」
「銀時代のコスチュームだ………!画風違いすぎて鳥肌が………」
「(あれ…ちょっと痩せた…?)」
気の所為か、私には彼が少し痩せたように見えた。
「ヒーロー基礎学!ヒーローの素地をつくる為様々な訓練を行う科目だ!!単位数も最も多いぞ。早速だが今日はコレ!!戦闘訓練!!」
手にBATTLEと書かれたプレートを掲げるオールマイトに興奮するクラスメイト達。
戦闘訓練か、1Aの皆がどんな個性を持っているのか詳しく把握できていない以上油断することはできない。
「そしてそいつに伴って…こちら!!!」
何もない筈の壁がガゴッと音を立てて動き出す。中から番号が振られたケースが並べられていた。
「入学前に送ってもらった個性届と要望に沿ってあつらえた…戦闘服(コスチューム)!!!」
「「「おおお!!!」」」
「着替えたら準備グラウンド・βに集まるんだ!!」
「「「はーい!!!」」」
「格好から入るってのも大切なことだぜ少年少女!!自覚するのだ!!!!今日から自分は…ヒーローなのだと!!」
ガタガタと席を立ち一斉に皆が更衣室に向かって教室を出た。
「ちょ、ヤオモモ!」
「うわぁ布面積無さすぎ……」
更衣室の端で着替えていると後ろから芦田と麗日の声が聞こえた。先程チラ見した時に確認したが確かに百のコスチュームは布面積があまりにも無さすぎて咄嗟に目を逸らした。
見てはいけないものを見たような気がしたからだ。
「ピッタリだ。凄いな」
黒の手袋をはめて息を吐く。
私のコスチュームは白と紫がベースになっている。上着は口元を隠すように襟が鼻の高さまで引き伸ばされ、フードが付いており半袖で臍辺りまで短い丈。中は紫の長袖。パンツは紫の7分丈で肩紐が付いていたが腕は通さずにそのまま下ろした。靴はコスチューム用の紫スニーカー。
冷却コーディングを施してもらったため全体的にひんやりしており、通気性を良くしてもらった。
汗を流すのがあまり好きではない上で加えた機能だ。
「わぁ!黒冷さんすっごくかっこいいね!!」
「ほんとだ、イケメンだ」
「焔さんらしいコスチュームですわね!」
背後から葉隠、耳郎、百の順で声が聞こえた。振り返ると6人は既に着替え終わりずっと私のことをみていたようだった。
「なんだ、終わってたなら言ってくれればよかったのに」
「みんな黒冷ちゃんに見惚れてたのよ」
「え、そんなに?」
「ええ。だってあなた本当に凄いもの。腹筋も割れてとても鍛えられた体に高身長なのだから見惚れるのも無理ないわ。それから私のことは梅雨ちゃんって呼んでほしいの」
ケロケロと楽しそうに笑う蛙吹に吃る。
「え、あ、うん、わかった梅雨ちゃん。私のことは呼びやすいように呼んでもらっていいよ。みんなも」
そういうと「宜しくね焔ちゃん!」「焔って呼び捨てでもいいかな…?」「クロロン〜!!」「私も焔ちゃんって呼ばせてもらうわね」「ほむほむだー!!」と合唱する。
「お前ら元気だな…」
「皆さんずっと焔さんのこと気になってらしたんですよ」
「そうなの?」
「ええ。ちょっと焔さんはその…近寄りがたい雰囲気があったものですから…」
「ああ…なるほど」
固まって更衣室を出ると少し離れた所に焦凍が立っていて目が合うと何も言わずに歩き出す彼の背中を追うように歩く。
わざわざ待ってくれる彼の優しさがほんのりと胸を温めた。「悪い」と百達に断りを入れて焦凍の隣に並ぶ。
「よかったのか?」
「うん。それよりいつもありがとね」
「別に礼を言われるようなことなんかしてねえよ。待ちたかったから待ってただけだ」
「そっか。ありがとう」
「だから、」
「いいから黙って受け取っとけよ」
強制的に黙らせて歩みを進める。グラウンドβに続くトンネルを通り抜けると既に殆どの生徒達が着いていて最後にトンネルを潜って来たのは緑のスーツを身に纏った男子生徒だった。
「さあ!!始めようか有精卵共!!!戦闘訓練のお時間だ!!!」
*****
「あ、デクくん!?かっこいいね!!地に足ついた感じ!」
麗日が緑スーツに話しかけるのを聞き流す。
あれ緑谷だったのか、顔を全体的に覆われると誰だか分からないな。そういや焦凍も左側全部氷で覆ってたっけ。
「焦凍、ダサいよ」
「うるせえ。そういうお前は白身に付けるなんて珍しいこともすんだな」
「うっせ。気分だわ」
目はオールマイトに向けたままの会話。
「良いじゃないか皆、カッコイイぜ!!」
生徒を見渡したオールマイトが緑谷を見た途端、口元を抑えて笑いを堪えるように震えた。ガションと音を立ててガンダムを連想させるような姿をした男が手を挙げる。
「先生!ここは入試の演習場ですがまた市街地演習を行うのでしょうか!?」
この声…あいつ飯田だったのか。
「いいや!もう二歩先に踏み込む!屋内での対人戦闘訓練さ!!ヴィラン退治は主に屋外で見られるが統計で言えば屋内のほうが凶悪敵出現率は高いんだ。監禁・軟禁・裏商売…このヒーロー飽和社会ゲフン、真に賢しい敵は屋内(やみ)にひそむ!!君らにはこれからヴィラン組とヒーロー組に分かれて2対2、もしくは3対2の屋内戦を行ってもらう!!」
「基礎訓練もなしに?」
コテンと首を傾げる梅雨ちゃん。
「その基礎を知る為の実践さ!ただし今度はブッ壊せばオッケーなロボじゃないのがミソだ」
なるほど。確かにロボットなら遠慮も加減も何も考えずに再起不能にすれば終ってしまうが相手が人間ならばそうはいかない。ヴィランはヒーローを殺せてもヒーローはヴィランを殺せないのだ。そういった加減や思考、そして自分には何が足りていないのか、これからどうすればいいのかを知るのに良い訓練だ。
「勝敗のシステムはどうなります?」
「ブッ飛ばしてもいいんスか」
「また相澤先生みたいな除籍とかあるんですか………?」
「分かれるとはどのような分かれ方をすればよろしいですか」
「このマントやばくない?」
「んんん〜〜〜聖徳太子ィィ!!!」
上から百、爆豪、麗日、飯田、青山の質問に唸るオールマイト。先生って大変だな。
耳を立てながら自分の手を見下ろし、グーパーと握って広げるのを繰り返す。
「いいかい!?状況設定はヴィランがアジトに核兵器を隠していてヒーローはそれを処理しようとしている!ヒーローは制限時間以内にヴィランを捕まえるか核兵器を回収する事。ヴィランは制限時間まで核兵器を守るかヒーローを捕まえる事」
大きな両手で小さなカンペを持って説明するオールマイト。
自分で考えた設定忘れちゃうからわざわざメモったのかな。教師経験ゼロだもんね、初めてだもんね。
教師を頑張る彼の姿に心が和んだ。
「コンビ及び対戦相手はくじだ!」
「適当なのですか!?」
「プロは他事務所のヒーローと急造チームアップする事が多いし、そういう事じゃないかな…」
「そうか…!先を見据えた計らい…失礼致しました!」
「いいよ!!早くやろう!!」
オールマイトが何時の間にか持ってきていたくじ箱を適当な順番で引いていく。番が回ってきて箱に手を突っ込み、最初に触れたボールを掴み上げて確認するとIと書かれていた。
私が引くより先にくじを引いていた焦凍に「なんだった?」と尋ねられた。
「Iだって」
「俺はBだ」
「別かぁ…まぁこの確率で同じ方が無理だわな。うぇぇ…焦凍と当たりたくねえ…」
「俺はお前と戦ってみたいけどな」
「えええ…やだよ…お前絶対にめんどくさいもん…」
「酷ぇな」
フッと笑う焦凍を苦虫を噛み殺したような顔で見返す。
「続いて最初の対戦相手はこいつらだ!!Aコンビがヒーロー!!Dコンビがヴィランだ!!」
HERO、VILLAINと書かれた箱に両手を突っ込んで出したボールにはAとDが記されており、その言葉に反応を見せたのが緑谷と爆豪だった。
「ヴィランチームは先に入ってセッティングを!5分後にヒーローチームが潜入でスタートする。他の皆はモニターで観察するぞ!飯田少年爆豪少年はヴィランの思考をよく学ぶように!これはほぼ実践!ケガを恐れず思いっきりな!度が過ぎたら中断するけど……」
「「…………」」
オールマイトの言葉に緑谷と爆豪は言葉を返さず、引き続き説明を加え、戦闘訓練場となるビルにAチームDチームを残して残りの生徒達はオールマイトを追って地下のモニタールームまで移動した。