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戦闘訓練2
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屋内対人戦闘訓練が始まった。
複数あるモニターでヒーロー側とヴィラン側の双方の動きを見ることは出来ても音声は一切流れない。
ヴィラン側は爆豪と飯田の2人。核兵器を設置すると同時に爆豪が個性を使って勢いよく部屋を飛び出して行ってしまった。飯田は扉の近くまで走り寄り大声で叫んでいるように見えた。恐らくは「爆豪くん!!!」とでも言っているんだろう。作戦も相談もなしに出て行ってしまったから飯田は核兵器の側を離れられなくなった。
一方のヒーローチーム、緑谷と麗日は窓からビルへと潜入を成功させていた。こちらは訓練が始まる前から言葉を交わしていたみたいだし、ちゃんとコミュニケーションは取れているようだった。
「ヴィラン側は全く連携がとれてないな」
「そうね」
隣に並ぶ焦凍の言葉に頷く。ビル内を猛スピードで飛び回る爆豪は完全にブチ切れた表情をしている。何故キレているのか全く分からないが個性把握テストの時といい…爆豪は緑谷に執着しているのが見て取れた。
「お前がヒーローならどう動く?」
「ヴィランが爆豪と飯田だろ?2人共機動力があるからなぁ…どっちが核を防守するかによる。飯田なら足場固めるし、爆豪なら全身凍らせる」
「どのみち凍らせるわけか」
「そっちの方が手っ取り早いからな。氷が核に触れても衝撃が無ければ爆発することはないし、ヴィランは身動き取れなくすれば無駄に抵抗はできない。足掻くならその前に捉える」
「ならヴィランだったら?」
「全力でぶちのめす」
「答えになってねぇよ」
いや十分だわ。
会話している間に緑谷と爆豪が廊下の角で接触。爆豪の奇襲を想定していたようで爆破から緑谷は麗日を守るため押し倒し床に伏せた。緑谷が起き上がった途端に爆豪の右の大振りが繰り出される。その行動を読んでいたのか体を懐に滑り込ませて右手を掴んで一本背負いを決めた。
お互い何か叫んで言い合っている。緑谷は涙目で必死な形相だし、爆豪は先程の怒りよりも強いものを露わにしている。
「アイツ何話してんだ?定点カメラで音声ないとわかんねえな」
「小型無線でコンビと話しているのさ!持ち物は+建物の見取り図。そしてこの確保テープ!これを相手に巻き付けた時点で捕えた証明になる!!」
「制限時間は15分で核の場所はヒーローに知らされてないんですよね?」
「Yes!」
「ヒーロー側が圧倒的不利ですよねコレ」
「相澤くんにも言われただろう?アレだよ。せーの!」
「「「Puls「あ、ムッシュ爆豪が!」」」
私と焦凍を除いた生徒らが盛り上がっている所を遮るように言葉を重ねた青山。皆の目線がモニターに移動する。
爆破で一瞬にして緑谷へ距離を詰めると同時に麗日が2人に背を向けて走り出す。爆豪を任せて核を探しに行ったんだろう。この状況ならそうせざるおえない。
緑谷が爆豪の足に確保テープを巻き付けると爆破で攻撃し、それを躱す。
個性も使わず渡り合う緑谷に爆豪は驚いたような焦っているような表情を浮かべた。
隙をついて爆豪の視界から消えるようにビルの廊下を走り出す緑谷にボンボンと両手で爆破を繰り返して何やら怒鳴っているように見える。
「なんかすっげーイラついてる。コワッ」
チラリと横目にオールマイトを見てから焦凍を見る。オールマイトはオールマイトで何か考えているように眉間に皺を寄せ、焦凍は涼しい顔でモニターを見上げていた。
核側のモニターを見ると既に麗日は核と飯田を見つけていた。柱に隠れて飯田の様子見をしていたが何故か突然噴き出す。笑うの我慢していたのが一気に来た感じだ。それによって飯田が麗日を発見した。
一方緑谷は爆豪と遭遇。爆豪はコスチュームの1つに加えた手榴弾のようなタンクの右手側の栓を抜くとビルが半壊する威力の爆発が起きた。
「授業だぞコレ!」
「……!!緑谷少年!!」
驚愕に染まるモニタールーム。
「アイツ殺す気かよ…」
心の中で呟いたはずが声に出た。
「爆豪は緑谷になんらかの執着があるみてぇだからな」
「だよな…やっぱそう見えるよな…」
「ああ」
焦凍とお互いに頷き合う。誰から見てもそういう風に見えるんだろう。私達と似たような会話が周りにも飛び交っていた。
舞っていた煙が薄れると緑谷は間一髪の所避けて廊下の端で伏せていた。その表情は恐怖や怯えに染まっている。
飯田、麗日側は攻防を繰り返し、飯田に向かって駆けると彼の直前で自身を浮かせて核一直線に向かっていく。飛び付こうとしたとき麗日を上回るスピードで核を抱えて移動する飯田。麗日は床に転がり落ちた。
「目眩しを兼ねた爆破で軌道変更、そして即座にもう一回…考えるタイプには見えねえが意外と繊細だな」
「慣性を殺しつつ有効打を加えるには左右の爆発力微調整しなきゃなりませんしね」
「才能マンだ才能マン。ヤダヤダ…」
麗日側を見ていた間に焦凍や百達は緑谷側を見ていたようでそちらの会話をしていた。
彼らのモニターを見ると爆豪の右の大振りが緑谷の右肘にモロに入ってそのまま腕を鷲掴みし、床に叩きつけた所だった。
「リンチだよコレ!テープを巻きつければ捕えたことになるのに!」
「ヒーローの所業に非ず…」
「緑谷もすげえって思ったけどよ…戦闘能力に於いて爆豪は間違いなくセンスの塊だぜ」
咄嗟の判断力に優れているんだろう、それだけ彼が努力したというのは分かるけど…分かるけどやってることが酷い。
やっぱり私は爆豪が好きになれない。嫌いだ。彼の戦い方は思い出したくないトラウマをチラかせる。
「はぁ…見てらんない…」
「大丈夫か?」
俯いて目頭を揉む。声を掛けてくれた焦凍に「大丈夫」と応えてモニターを再び見上げた。
緑谷が起き上がり爆豪から距離を取る。そこでまた何か話しているみたいだった。
お互いに右腕を構えて走り出す。隣の核側のモニターで麗日が柱にしがみついた。
緑谷と爆豪が接触、緑谷に加減のない爆発を浴びせるると同時に緑谷は上に向けてパンチを繰り出し風圧で天井に大きな風穴を開けた。
核がある部屋は緑谷達が居た部屋の真上あったようだ。個性で無重力にした柱をバットのように振り翳し、風圧で壊れ浮いた瓦礫を飯田と核に向かって殴り付けた。瓦礫に混ざって自身も浮かせて核に飛び付いた所でAチームとDチームの戦闘訓練は終了した。
「ヒーローチーム…WIIIIIN!!」
爆豪の攻撃を受け止めた緑谷の左腕はボロボロ。何か1つ2つと言葉を残して気絶して倒れた。
「少年少女達はここで待っていてくれ。私は彼等を迎えに行く」
地上へ走り出すオールマイト。モニタールームは粛然としていた。誰も発せられなかった。あまりにも衝撃が強すぎる戦闘。まさか一回戦目からこんなものを見せつけられるとは思わなかったからだ。
モニターを見ると既にオールマイトは彼らの元へいた。緑谷はハンソーロボによって保健室へ運び込まれ、オールマイトは3人を連れてモニタールームに戻ってきた。
爆豪は何も言わず、顔に影を落として放心しているように見えた。
「まぁつっても…今回のベストは飯田少年だけどな!!!」
「なな!!?」
オールマイトの評価に驚く飯田。
「勝ったお茶子ちゃんか緑谷ちゃんじゃないの?」
「何故だろうな〜〜〜?わかる人!!?」
「ハイ、オールマイト先生」
百が間も無く挙手する。
「それは飯田さんが一番状況設定に順応していたから。爆豪さんの行動は戦闘を見た限り私怨丸出しの独断。そして先程先生も仰っていた通り屋内での大規模攻撃は愚策。緑谷さんも同様の理由ですね。麗日さんは中盤の気の緩み。そして最後の攻撃が乱暴すぎたこと。ハリボテを核として扱っていたらあんな危険な行為出来ませんわ。相手への対策をこなし且つ《核の争奪》をきちんと想定していたからこそ飯田さんは最後対応に遅れた。ヒーローチームの勝ちは訓練だという甘えから生じた反則のようなものですわ」
静まり返るモニタールーム。
「ま…まぁ飯田少年もまだ固すぎる節はあったりするわけだが…まあ…正解だよくう…!」
百にグッジョブを送るオールマイト。百はフンッと鼻で笑って仁王立ちすると「常に下学上達!一意専心に励まねばトップヒーローになどなれませんので!」と言い返した。