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戦闘訓練4
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尾白side
時折ビルが揺れて下の階からは派手な音が聞こえる。黒冷さんと複数個性の奴が接触して戦闘を始めたのが分かった。
「尾白くん!始まったね!」
「そうだね」
「さっきのびっくりしちゃった。いきなりビルが凍ったかと思ったら一瞬で溶けちゃったんだもん」
「本当凄いね、強個性の戦い方って…」
黒冷さんがいなければ俺達は足場を凍らされたまま何もできずに終わっていただろう。それこそ核に被害は無く、ヴィランと無駄に交戦することもなく平和に終わる戦い方だ。
「ほむほむが頑張ってるんだ!私達も頑張ろう!」
「おう!」
葉隠さんの言葉に答えていると無線がジジと音を立てた。
《2人とも聞こえる?》
「聞こるよ。黒冷さん始まったんだね」
無線の向こうで殴り合うような音が聞こえる。
《うん。なるべく早くそっちに戻れるよう頑張るね。あと潜入してきたのは半分野郎だけで障子の姿がない。もしかしたら時間差で潜入するか、下手したら3階を避けて4階の窓から侵入するかもしれないから警戒しといて》
「分かったよ」
《それなら葉隠は核の近くに居て。歩くな。そこで待機。気配を消して障子を欺いて》
「おお、なんかカッコイイ!分かった!」
葉隠さんは見えないから分からないけど、宙に浮かぶ無線機が核の方へ向かっていった。俺は核から少し離れて前に立つとコツン、と小さな音が耳に入った。
あ、これは、もう
「黒冷さん!障子5階にいる!」
《っ、下手した!すまん!任せる!》
「おう!」
バキンッと割れる音を最後に無線を切る。広間を飛び出した瞬間、出入り口の側にいた障子に飛び掛かり尻尾で殴りつけようとしたら咄嗟に避けられた。
「5階北側中央に核発見!」
《わーった!けどそっちに行けそうにねえ!》
「チッ、了解!」
無線から溢れた声に黒冷さんがツートーンと同格に戦っているのが分かった。ここからは俺と障子の戦い。人数が多い俺らが有利だけど、あっちは2人共良い個性だ。油断は出来ない。下手に障子を誘導して黒冷さんの元へ加勢したら逆に邪魔になってしまう。葉隠さんには俺達の隙をついて核を守ってもらうのが一番だろう。
回し蹴りを躱され、地に足が着いた瞬間にしゃがみ障子の脚を蹴ろうとするとバク転で躱される。立ち上がった障子がビィッ、と確保テープを伸ばすのを見て思わず口角が上がる。
中遠距離攻撃がない俺と障子は必然的に肉弾戦になる。俺らヴィランの今の現状からして勝利条件はただ一つ!時間制限まで核を守り抜くことだ!!
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黒冷side
「早よ沈め!!」
戦闘訓練が始まって暫くが経った。後ろ回し蹴りを焦凍の背中に繰り出すとモロに入り、焦凍の息が一瞬詰まるがそのまま脚を取られて凍らされ、背中から壁に叩きつけられる。
「そりゃこっちのセリフだ…さっさと寝てろ」
「嫌だね」
焦凍に向かって左手で炎を噴射すると身体を右側にずらして躱すのが見えて、右手で炎を噴射し距離を詰めて腹に拳をのめり込ませる。
「ガッ、カモフラージュかよ…ッ!!」
背中に肘鉄が入り鳩尾に焦凍の膝がめり込んだ。
「ぁグッ、痛ってえなクソが!!」
手を焦凍の目の前に上げて炎を噴射するとよろけた隙に距離を取り、炎を噴射して勢い良く距離を詰め横腹に蹴りを入れると同時に顔面に焦凍の拳を入れられた。
「グハッ」
「ゴァッ」
同時に攻撃が入って一瞬頭が真っ白になり、倒れそうになるが咄嗟に噴射して距離を取って焦凍を見ると焦凍も氷で滑って私から距離を取っていた。身体には霜が降りている。
「次で」
「決める」
お互いに右手を振り上げ、走り寄り、顔面を殴ろうとした時に「チリリリリリンーーー!!」間抜けな音が聞こえた。
タイムアップの知らせだ。だが勢いついた拳はすぐには止められない。それは焦凍も同じだったようで咄嗟に炎、または氷を纏ってお互いの拳目掛けて殴りつける。
バッッキン
ブォォォォォン
私達を囲うように強い風圧が巻き起こる。焦凍が纏った氷は大きな音を立てて割れた。
「はぁ……」と息を吐くと壁に背を預けてズルズルと床に座り込む。焦凍はその場で胡座で座り込んでいた。
《ヴィランチーム!WIIIIIN!!!》
「まさか同格だとは思ってなかったわ……」
「全くだ…お前にはいつも驚かされる…」
焦凍のセリフにフンッと鼻で笑う。無線を繋げると《はぁ…はぁ…》と尾白の息切れと葉隠の《うわぁうわぁ、凄い、凄いよ……》と興奮した声が聞こえた。
「尾白葉隠お疲れ。守り抜いてくれてありがとうな」
《はぁ、はぁ…はは、黒冷さんもお疲れ…》
《2人共お疲れ様!!!》
2人の声を聞いて無線を切ると階段を駆け上がってオールマイトがやってきた。
「轟少年黒冷少女!お疲れ!!凄かったな!!モニタールームにいる皆も大興奮だったよ!!」
「そっすか…」
「2人共保健室に行くかい?鼻血凄いよ」
「「え…」」
鼻を拭くとべったりと血が付いていた。夢中で気づかなかった。
「いや、放課後でいいです」
「私も」
私と同じく鼻血を拭き取った焦凍に続ける。オールマイトは「そっか!分かった。君達は先にモニタールームに戻るように!私は彼等を迎えに行くよ」と言い残して階段を駆け上がって行く背中を見た後、ゆったりとした動作で立ち上がった焦凍に手を差し伸べられる。
「ほら、行くぞ」
「ん」
手を取って立ち上がり階段を降りて行く。モニタールームに行くと「2人共凄かったよ!!」「男らしかったな!!!」「すげーよお前ら!俺らもやる気出るわ!」等言葉を投げかけられた。
「お2人共!」
タッタッタッと駆け寄る百の手には救急箱が握られていた。
「創造で作った救急箱ですわ!ささ、早く座ってください。今応急手当てしますから!」
「ありがとう百」
「………悪いな」
「いえ!」
顔に湿布と絆創膏を貼られる。
「放課後リカバリーガールの元へ行くのですね?」
「うん。緑谷みたいな大怪我じゃないから。顔だけでいいよ。ありがとう」
焦凍の顔に湿布と絆創膏を貼っている間に障子、葉隠、尾白がモニタールームに戻ってきた。視界の隅に映った爆豪が無表情でこちらを見ていてパチッと目が合ったが私が先に逸らした。
「それでは講評の時間だ。今回のベストは皆いい感じだったね!轟少年の最初の一撃!ビル一棟丸ごと凍らせるのは素晴らしかった!ヴィランを拘束し且つ無駄なく核を取り押さえられたはず!けれどそれの計画を瞬時に崩した黒冷少女は見事!
尾白少年葉隠少女を傷つけないように彼等の周りだけ火炎温度を調整したのかな?至難の業だよ。
核に衝撃を与えないように3階の戦闘も5階の戦闘も組手メインで行われた。ビルへの危害は最小限!
葉隠少女も気配を消して核の側に待機していたのは良かった。障子少年の個性の五感から消え、あたかも居ないように装い、尾白少年と戦っている間に少しずつ気づかれないようにズラして距離を取る。素晴らしい!」
ここまで褒められるとは思わなかったな。ちょっと照れくさくなる。
ポリポリと頬を掻く。何時の間にか手袋とブーツを履いた葉隠が焦凍とは反対側の隣に座って講評を聞いていた。
「ほむほむのおかげだよ〜ありがと!」
「いや、2人のおかげだよ」
「ううん!」
ふふんっと楽しそうに笑う葉隠。顔には出ていないがムッと焦凍が拗ねたのが分かった。
百は気付いたら尾白と障子の顔に湿布を貼っていた。
「よォし!この調子でどんどん行こう!!!」
オールマイトの掛け声に「「「おう!!」」」と皆が応え、授業が再開された。
ボーッとしながらモニタリング、時々会話しているとあっという間に授業は終了した。
オールマイトから私達は保健室利用書を受け取り、ゾロゾロとモニタールームを出る。更衣室で制服に着替えようとコスチュームを脱いだら身体中痣だらけで皆に心配された。
「焔女の子なんだから…轟も加減してくれればいいのに…」と零す耳郎に「それじゃ訓練する意味ないだろ」と返すと「そりゃぁ…そうだけどさぁ…」と言葉を濁した。
教室に戻ると緑谷以外、既に皆席に着いていてHRを終えると切島が「皆反省会しようぜ!!」と声をかけて回っていた。
「黒冷!反省会!参加するか?」
「すまん保健室行くから無理」
「あーーそっか!じゃあ轟も不参加だな!また誘うわ!」
「そうしてくれー」
「爆豪!反省会!!」と爆豪に寄ってった切島を見送ってリュックを背負い、焦凍の元へ向かう。焦凍の方も準備が出来ていたようで利用書を片手に待ってくれていた。
「行くか」
「保健室どこにあるのか知ってんの?」
「今朝たまたま見つけた」
「なら宜しく」
「ん。で今日の夕飯は?」
「肉じゃが。サバの味噌煮。味噌汁。サラダ。その他諸々」
「それと蕎麦な」
「ねーよ」
絶対に茹でねーからな。