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USJ 2
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「すっげーーー!!USJかよ!!?」
レスキュー施設内に入るとそこは何処かのアトラクションを連想させる空間だった。そして内部の入口前の広間には宇宙服の人が立っていた。
「水難事故、土砂災害、火事…etc。あらゆる事故や災害を想定し僕がつくった演習場です。その名も……ウソ(U)の災害(S)や事故(J)ルーム!!」
「「「「(USJだった!!)」」」」
「スペースヒーロー13号だ!!災害救助でめざましい活躍をしている紳士的なヒーロー!」
「わーー私好きなの13号!」
緑谷ってにヒーローに詳しいんだな。
「焦凍知ってた?」
「当然だろ」
「そうなの…」
わーわーと騒がしいクラスメイト達。知らないの私だけだったのね。
キョロキョロと辺りを見渡していた相澤先生が13号の元へ向かう。何か話しているようだがここからだと聞こえない。13号が3つ指を立てると先生の雰囲気が悪くなった。話し終えた13号がこちらを向く。
「えー始める前にお小言を一つ二つ…三つ…四つ…」
「「「「(増える…)」」」」
「皆さんご存知だと思いますが僕の個性はブラックホール。どんなものでも吸い込んでチリにしてしまいます」
「その個性でどんな災害からも人を救い上げるんですよね」
「ええ…しかし簡単に人を殺せる力です。皆の中にもそういう個性がいるでしょう」
ギュッ
握る拳に力が入る。
「超人社会は個性の使用を資格制にし厳しく規制することで一見成り立っているようには見えます。しかし一歩間違えれば容易に人を殺せる《いきすぎた個性》を個々が持っていることを忘れないでください。
相澤さんの体力テストで自身の力が秘めている可能性を知り、オールマイトの対人戦闘でそれを人に向ける危うさを経験したかと思います。
この授業では…心機一転!人命の為に個性をどう活用するかを学んでいきましょう。君たちの力は人を傷つける為にあるのではない。救ける為にあるのだと心得て帰って下さいな」
人を、救う為にある、力…
自分の両手を見下ろす。
救えるのだろうか…自身の力で。父のように…闇の中で孤独に耐えていた母のように、叔父のように…私は人を救えるのだろうか。
脳裏に浮かぶのは最悪の日。あの頃の私は何も出来なかった。恐怖にただ怯えているだけだった。立ち向かえるだろうか、この恐怖に。私は勝てるのだろうか。
力をつければ……人を…
「以上!ご静聴ありがとうございました!」
「ステキー!」
「ブラボー!!ブラーボー!!」
パチパチパチと拍手喝采が響く。13号の演説が終わり、柵に寄り掛かっていた相澤先生が動く。
「そんじゃあまずは…」
ブルッ
突如臭った嫌な雰囲気に身体が震えた。
「一かたまりになって動くな!!」
「え?」
知ってる、私は知ってる、この嫌な臭いを、醜い汚臭を、穢らわしい空気を、私は知っている。
震える自身の身体を抱き締め、一歩二歩と後ろに下がる。様子の可笑しい私に気づいた焦凍が「焔…?」と見てきた。
「アイツだ…アイツが来た……」
小さく呟いた声に焦凍は弾けるように前を向いた。
*****
轟side
相澤先生が「一かたまりになって動くな!!」と叫んでから焔の様子が可笑しい。ガタガタと震え、自身を抱き一歩、また一歩と後ろに下がる。顔は薄ら青白く、目は見開かれている。尋常じゃない。こんな焔は今まで見たことがない。
「焔…?」
「アイツだ…アイツが来た……アイツが、また、アイツが……」
《また来た》それを聞いて思い浮かぶのは黒冷一家が皆殺しにされた大事件。アイツアイツと一つ覚えのように同じ事を繰り返す焔の肩を抱いて前を向く。
「何だアリャ!?また入試ん時みたいなもう始まってんぞパターン?」
「動くな!あれはヴィランだ!!!!」
「「「「!!!」」」」
ざわついていた周りが一瞬で静まる。
「13号に…イレイザーヘッドですか…ああ、あの子も居ますね……先日頂いた教師側のカリキュラムではオールマイトもここにいるはずなのですが…」
「やはり先日のはクソ共の仕業だったか」
黒いモヤから大勢のヴィランが現れる。その中でも黒モヤの異形型の男と目が合った。正確には俺じゃなくて焔を見ている。肩を抱く腕に力が籠もる。
「どこだよ…せっかくこんなに大衆引きつれてきたのにさ…オールマイト…平和の象徴…いないなんて…子どもを殺せば来るのかな?」
全身に手を付けた不気味な男が笑う。
「あれ…違う……アイツじゃない……同じ臭いなのに違う…なんで…?」
ガタガタと震えていた焔が呟く。まだ震えは止まっていないようだが先程より酷くはないが顔色は戻っていない。
「大丈夫か?」
「全然大丈夫じゃないけど大丈夫」
「大丈夫じゃねえだろソレ…」
ははは…と力無く無表情のまま笑った焔はフードを被った。焔を連れてヴィランが見える位置まで移動して様子を伺う。
「ヴィランンン!?バカだろ!?ヒーローの学校に入り込んでくるなんてアホすぎるぞ!」
「先生侵入者用センサーは!」
「もちろんありますが…!」
後ろで八百万達の会話を聞く。センサーがあるのに反応しないなら答えは簡単だ。
「現れたのはここだけか学校全体か…何にせよセンサーが反応しねぇなら向こうにそういうことが出来るヤツがいるってことだな。校舎と離れた隔離空間。そこにクラスが入る時間割…バカだがアホじゃねぇ。これは何らかの目的があって用意周到に画策された奇襲だ」
頷いた焔が言葉を続ける。
「オールマイトがマスコミの注目を集めてる今、最高峰の雄英にヴィランが侵入してきたなんて…マスコミに餌撒いてるようなもんだ…これから面倒なことになるよ…」
あーヤダヤダ…と首を振る。
焔が心配しているのは学校のこれからでもマスコミのことでもなく、叔父さんのことだろう。将樹さんは心配性だから焔は叔父に心配を掛けたくないのだ。けれど彼と雄英は深い所で繋がっている。この事態もすぐ耳に入るだろう。
「13号避難開始!学校に電話試せ!センサーの対策も頭にあるヴィランだ。電波系の個性が妨害している可能性もある。上鳴おまえも個性で連絡試せ」
「っス!」
「先生は!?一人で戦うんですか!?あの数じゃいくら個性を消すっていっても!!イレイザーヘッドの戦闘スタイルはヴィランの個性を消してからの捕縛だ。正面戦闘は………」
相澤先生はゴーグルを付け、首に巻いた捕縛武器を緩める。
「一芸だけじゃヒーローは務まらん。13号!任せたぞ」
階段を飛び越えて中央広間へ向かっていった。捕縛武器を駆使して戦う姿を背後に13号の指示に従って移動する。
扉前まで移動すると突然目の前が黒いモヤで立ち塞がれた。
「させませんよ」
「「「「!!」」」」
「初めまして。我々は敵連合。せんえつながら…この度ヒーローの巣窟、雄英高校に入らせて頂いたのは平和の象徴、オールマイトに息絶えて頂きたいと思ってのことでして。本来ならばここにオールマイトがいらっしゃるハズ…ですが何か変更あったのでしょうか?まぁ…それとは関係なく…」
モヤが揺れて広がろうとした時、爆豪と切島が先陣切って前へ飛び出した。爆破と硬化で黒モヤを殴りつける。
「その前に俺たちにやられることは考えてなかったか!?」
「危ない危ない………そう…生徒といえど優秀な金の卵」
「ダメだどきなさい二人とも!」
一度広がったモヤが元に戻る。爆豪と切島に叫ぶ13号。
「えっ、あ、」
斜め後ろに居た焔の周りに黒いモヤが纏わりつく。
「焔!!!!」
焔を掴もうと手を伸ばすが届かず、黒いモヤに飲み込まれて消えてしまった。俺の叫びに皆の目が集まる。
「黒冷さん!!」
「クロロン!!」
「焔をどこへやった!!!」
「イレイザーヘッドの元に送りましたよ。彼女には少々用がありまして」
「てめぇ…!」
その言葉に反射的に振り向くと焔は相澤先生と背中合わせに中央のヴィランを蹴散らしていた。二人の元へ向かおう走り出した時黒いモヤが大きく広がり、咄嗟に足を止める。
「私の役目はこれ…散らして、嬲り、殺す」
「皆!!」
黒いモヤに飲み込まれ、気づくと土砂ゾーンの上空に飛ばされて現在落下している。
「早くセントラルに行かねえと…けどその前に」
土砂ゾーンを見下ろすと既に複数のヴィランが待ち構えていた。
「こいつらをどうにかしなきゃな」
着地すると同時に土砂ゾーン全て凍らせて視界に入ったヴィラン全員を氷漬けにする。
「子ども一人になさけねぇな。しっかりしろよ。大人だろ?」
近くにいたヴィランに向かって歩み進める。
「散らして殺す…か。言っちゃ悪いがあんたらどう見ても《個性を持て余した輩》以上には見受けられねぇよ」
「こいつ…!!移動してきたとたんに…本当にガキかよ…いっててて…」
オールマイトを殺す…初見じゃ精鋭を揃え数で圧倒するのかと思ったがフタを開けてみりゃ生徒用のコマ…チンピラの寄せ集めじゃねぇか。
見た限りじゃ本当に危なそうな人間は4〜5人程…焔が飛ばされた中央広場だ。アイツのあの異常な様子は気になるがヴィランの顔見てから少しずつ正常に戻っていたようだし、さっき見た限り上手く身体も動いている。
奴等は焔に用があるとも言っていた。心配なことには変わんねぇが俺が次にとるべき行動はーーー…
「なあ。このままじゃあんたらじわじわと身体が壊死してくわけなんだが」
「……!」
「俺もヒーロー志望。そんな酷え事はなるべく避けたい。あのオールマイトを殺れるっつう根拠…策って何だ?」