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USJ 6
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風が止み、土埃が晴れ、ボロボロになったオールマイトの姿が現れた。
「やはり衰えた。全盛期なら 5発も撃てば充分だったろうに300発以上も撃ってしまった。さてとヴィラン。お互い早めに決着つけたいね」
「チートが…!衰えた?嘘だろ…完全に気圧されたよ。よくも俺の脳無を…チートがぁ…!」
苛立ちを隠さない死柄木がガリガリと首を掻く。
「全っ然弱ってないじゃないか!!あいつ…俺に嘘教えたのか!?」
「…………どうした?来ないのかな!?クリアとかなんとか言ってたが…出来るものならしてみろよ!!」
背後に黒モヤを広げ、奇声を上げる死柄木を見ていたらソッ…と焦凍にお姫様だっこさて驚きで目をパチパチさせる。
私の身長は174cmと長身で焦凍との差は2cmしかない。そんでもって鍛えているから筋肉はついてるし腹筋も6パックに割れてるのにこんなにも軽々しく抱き抱えられて驚かない奴なんかいない。
「さすがだ…俺たちの出る幕じゃねぇみたいだな…」
「緑谷!ここは退いたほうがいいぜもう。却って人質とかにされたらやべェし…」
切島の言葉に反応せず緑谷はずっとオールマイトを見ていた。彼も私と同じく秘密を共有する者…オールマイトが虚勢を張っていることが分かったんだろう。
「さぁどうした!?」
強がるオールマイトを見て死柄木と黒霧は何やら話し込んでいるように見えた。
「主犯格はオールマイトが何とかしてくれる!俺たちは他の連中を助けに…」
「緑谷」
動き出す3人と立ち止まったまま動かない緑谷。ブツブツと何かを呟いているが小さくて何を言ってるのか分からない。
「み…!」
声を掛けたと同時に緑谷はボキンッと音を立てて一瞬にしてその場から消えた。行き先は想像できる。オールマイトの方を見ると案の定緑谷がいて、オールマイトを飲み込まんとする黒霧を殴り飛ばそうと拳を握っていた。
「オールマイトから離れろ」
ワープゲートを通して死柄木の手が緑谷の頭を捉えた。触れようとした瞬間、バンッ!と入口の方から銃声が聞こえた。
「次はなんだ!?」
皆して入口の方を見るとそこには飯田が雄英にいるプロヒーローを掻き集めて戻ってきた姿があった。
「遅えんだよヒーロー…!」
私を抱える腕に力が籠もるのが伝わる。バンバンバンバンバン!と鳴り止まぬ銃声に身体を撃ち抜かれる死柄木。黒霧のゲートに身を飲み込ませるがズルズルと前の方へ引き摺られる。
入口の方で13号が個性を発動して飲み込もうとしていたが死柄木は黒霧と共に消えてしまった。
「焔、急ぐから揺れる。耐えられるか」
「ん」
後ろで切島が「緑谷ぁ!!大丈夫か!?」と安否の確認を取っているの聞きながら入口の方へ早足で向かっていく。
「……悪ィ…助けられなくて」
「ん」
気にするなを意を込めてパシパシと叩く。
「気にすんなって?……無理だよ…だって…」
「?」
「……なんでもない」
思いつめたように顔に影を落とす焦凍の頬を撫でる。驚く彼に微笑むと弱々しく笑顔が戻ってきた。
トントン…と階段を登ると教師達とクラスメイト、それから気を失っている相澤先生が見えた。
「怪我人です救急車呼んでください」
「なッ!!」
「!黒冷くん!?」
「黒冷…!」
「焔ちゃん!」
声を上げるクラスメイトと息を飲む教師達。ブラドキング先生の肩から降りた校長が駆け足で近寄ってきた。
お久し振りですと挨拶出来ないのが悲しい。
「焔ちゃん意識は…あるね。両足と片腕の骨折、喉もダメだやられてる。血を吐いてるから内臓もやられたのかな?ごめんちょっと服を捲りたい。轟くん彼女を床に下ろしてほしい」
「は、はい…」
ネズミがペラペラと喋っているのだ。焦凍が驚くのも無理はない。この人が校長だって知ったらもっとビックリするだろうなぁ。
優しく地面に寝かされると校長が遠慮なくベッ!と上着もろとも服を捲りあげた。
「こりゃ酷い。確実に内臓をやられてるね」
「校長先生、警察に連絡しました。救急車も3台手配済みです」
「ありがとうミッドナイト」
飯田によって連れて来られた教師達はチリチリになって生徒を捜しに向かった。その間に警察と救急車が到着して私と相澤先生は運び込まれた。
「もう大丈夫だからね、安心して、目を瞑って…」
搬送中救急隊員によって掛けられた言葉に従って目を瞑る。私はよくやく意識を手放すことができたのだった。
*****
敵連合side
ズズ…
黒霧のワープによって転送された先は客足のない、じんまりとしたBAR。
「ってえ…両手両脚撃たれた…完敗だ…脳無もやられた。手下共は瞬殺だった…アイツは連れ出せなかった…子どもも強かった…平和の象徴は健在だった…!話が違うぞ先生……」
《違わないよ》
BARのカウンターの一角に置かれたモニターから男の声。
《ただ見通しが甘かったね》
《うむ…なめすぎたな。敵連合なんちうチープな団体名で良かったわい。ところでワシと先生の共作脳無は?回収してないのかい?》
先生と呼ばれた男とはまた別の男の声。
「吹き飛ばされました。正確な位置座標を把握出来なければいくらワープとはいえ探せないのです。そのような時間は取れなかった」
いつの時代も戻ってきていた黒霧が言葉を返す。
《せっかくオールマイト並みのパワーにしたのに…まァ…仕方ないか…残念》
「パワー…そうだ……一人で…オールマイト並みの速さを持つ子どもがいたな…」
《…………へえ》
「あの邪魔がなければオールマイトを殺せたかもしれない…ガキがっ…ガキ…!」
《悔やんでも仕方ない!今回だって決して無駄ではなかったハズだ。精鋭を集めよう!じっくり時間をかけて!我々は自由に動けない!だから君のようなシンボルが必要なんだ。死柄木弔!次こそ君という恐怖を世に知らしめろ!》
「………分かったよ、先生…」
《あぁ、そうだ、彼女は元気だったかい?》
「元気だったよ…ヒーローなんか目指しちゃってさぁ…呑気だよなあ……あ、そうだ…アイツ、氷使ってたよ」
《氷?》
《ふっ、ふ、ふははははははは!!そうか!氷か!!フハハハハハッ!!!》
「せ、んせい…?」
突然笑い出す男の声に死柄木は戸惑う。
《はは!いや、なに…彼女にあげた個性が上手く混じり合ってくれたようで何よりだよ》
「個性…?アイツにやったのか?」
《ああ!あげたさ。とっておきの個性を。なんせあの日は彼女の誕生日だったんだから………》
《先生の悪趣味も昔から変わらんなぁ…》
《……彼女と再会するのが今から楽しみだァ……》
不気味な笑い声がBARを包んだ。