-
USJ 7
-
轟side
「16…17…18………病院に搬送された彼女と両脚重傷の彼を除いて………ほぼ全員無事か」
施設前に掻き集められた1Aの皆を警察官が確認する。他の教師達は警察官と共に念入りにUSJ内をチェックしたり、ぶっ飛ばされた脳無の回収に付き合ったりしていた。
焔が救急車に乗せられ、俺も一緒に付いて行きたい一心だったが救急隊員の人に止められ、焔にパシパシと太ももを叩かれて俺にしか分からないような笑顔を向けられたらもう何も言えなくなってしまい学校に残った。
心配で心がざわついて落ち着けない。ましては好きな女一人守れずのうのうと無傷で突っ立ってる自分が許せない。
クシャと髪を搔き上げる。
「あの、轟さん…」
ボロボロな八百万に声を掛けられる。
「なんだ」
「ぁ、いえ…なんでもありません…」
何かを言いたそうにしているがそれよりも自分に腹が立って「チッ…」と舌打ち。
わいわいと騒がしい周りがウザい。焔の状態を見ていながらも何も無かったかのようにザワザワと騒ぎ、笑顔を浮かべる奴等がイラつく。
辺りを見渡すと爆豪だけが笑顔を浮かべず普段の耳障りな騒がしさも無く、ただ一人静かに立っていた。
「とりあえず生徒らは教室へ戻ってもらおう。すぐ事情聴取ってわけにもいかんだろ」
「刑事さん。相澤先生と焔ちゃんは…」
蛙吹が刑事に話しかけるのを見て刑事に向き合う。刑事は通話を繋げていたスマホを俺達に向けてスピーカーにした。
「《両腕粉骨骨折、顔面骨折…幸い脳系の損傷は見受けられません。ただ…眼窩底骨が粉々になってまして…目に何かしらの後遺症が残る可能性があります。女子生徒の方は両脚粉骨骨折、右腕粉骨骨折…肋骨2本の骨折と内臓出血…首を強く打たれて喉に外傷があります。彼女は現在手術中で…綺麗に治るとは思います》だそうだ…」
「ケロ…」
「っ…」
「………」
医者の診断内容に眉間に皺が寄る。隣に立っていた爆豪は息を飲み、内容を聞いていた生徒ら全員が沈黙した。
「13号の方は背中から上腕にかけての裂傷が酷いが命に別状はなし。オールマイトも同じく命に別状なし。彼に関してはリカバリーガールの治癒で充分処置可能とのことで保健室へ」
「デクくん…」
「緑谷くんは…!?」
麗日と飯田が刑事に問う。
「緑…ああ彼も保健室で間に合うそうだ。私も保健室の方に用がある。三茶!後頼んだぞ」
「了解」
刑事が保健室へ向かって歩み進める。三茶と呼ばれた警察官は猫の顔をしていた。
「セキュリティの大幅強化が必要だね」
「ワープなんて個性ただでさえものすごく希少なのによりにもよってヴィラン側にいるなんてね…」
ネズミ野郎とミッドナイトの会話が耳に入る。
「塚内警部!約400m先の雑木林でヴィランと思われる人物を確保したとの連絡が!」
「脳無だ」
爆豪が小さく呟いた。
「様子は?」
「外傷はなし!無抵抗でおとなしいのですが…呼びかけにも一切応じず口がきけないのではと………」
部下の報告を聞いて「ふむ…」と顎に手を当て、ネズミ野郎の元へ行く。
「校長先生、念の為校内を隅まで見たいのですが」
「「校長先生!?」」
小さな声ではあったが爆豪と重なり、思わず目を見合わせた。
「ああ、もちろん!一部じゃとやかく言われているが権限は警察の方が上さ!捜査は君たちの分野!よろしく頼むよ!」
校長の許可を得た刑事は部下に指示を出す。俺達生徒はミッドナイトの指示によりバスに乗り込んで教室に戻ることになった。二人席を一人で乗る予定だったのに隣には何時の間にか爆豪が座っていた。
「………」
「………」
バスの中は行きとは違い、肌を刺すような痛い静寂に包まれたまま校舎へと向かっていった。
*****
時間は経って夜の20時半。スマホを握りしめて自室の布団の上で将樹さんの着信を待っていた。
あの事件から教室に戻るとミッドナイトが相澤先生の代わりにHRを行った。明日は学校が臨時休校となったので焔の見舞いに行きたいのだ。けれど病院が分からず将樹さんなら知ってるんじゃないかと思って電話を掛けてみたが繋がらない。着信履歴を見てくれることを願って待っているのが今の現状だ。
「焦凍ォォ!何をしている!さっさと訓練場に来い!!」
「うるせえクソジジイ黙れ消えろ」
「なっ!」
「こっちはそれ所じゃねえんだよ」
襖の前を仁王立ちして叫ぶ親父に苛立ちを隠さずに言い返す。元々口は悪かったが焔の影響もあってか尚に拍車が掛かった気がする。
学校からのヴィランの侵入があったと連絡が奴にも来ていたはずだ。それでも平然と初めから何事もなかったかのように接してくる事に更に苛立ちを加速させた。
「引きこもっていた所で何も出来んだろ貴様は。それにお前はオールマイトを超えなければならない!そんなことをしている暇などお前にはない!!」
「うるせえな……焔が一大事だっつーのに…クソが…」
スパァン!
勢いよく部屋の襖を開けられて見下ろしてくる親父を睨み返す。
「またあの女の事か。表に出ろ」
「行かねえ」
「来い」
「行かねえ」
「あんな価値もない女と関わるな。相手は選べ」
ブチン
親父の言葉に耐えていた怒りが一気に増幅し、そして弾けた。
「よくも…そんなことが言えるな…アイツのこと、何一つ知らねえくせに…ッ!」
「ああ。どうでもいい」
怒りを抑えきれなかった俺はつい口を滑らせた。言ってはいけない、彼女のことを。
「てめェはあいつが……アオスビルフの娘だとしても同じ事が言えんのか?!」
「…………は…?」
親父は目を真ん丸に見開いて驚愕した。今までに見たこともないような顔をして。
それを見て “しまった”と自分の過ちに気付いた。
「出て行け!」
無理矢理親父を部屋から追い出すとバシンッと襖を閉める。
誰にも言わないと約束したのに破ってしまったことを後で焔に謝らないといけない。
再び布団の上に胡座をかいてスマホを握る。早く、早く将樹さん…と祈るように待ち続けた。
_________
_____
___
「ん……」
瞼裏がチカチカと淡く白色に光っている。目を擦って周りを見渡し、壁に掛けられた時計を見上げる。
「1時……」
何時の間にか俺は眠っていたらしい。霞む目でチカチカと輝くものを見るとスマホの画面が光っていた。
目を凝らして見ると将樹さんから10分前に着信が入っていたようで一気に頭が覚醒した。
身体を起こし、スマホを取って将樹さんに電話を掛けると1コールもしない内に電話が繋がった。
「将樹さん!」
『焦凍くん?今時間大丈夫なのかい?昨日は色々と疲れたろう…明るくなってからでも良かったのに』
「すっかり目が覚めたので気にしないで下さい」
『そうかい…無理はしないでくれよ』
「ご心配ありがとうございます。それで焔は…」
『さっきまで見舞いに行ってたんだ。ほむなら大丈夫だよ。手術も無事に成功した』
「そうですか……よかった…」
『ほむのこと、運んでくれたんだろう?ありがとう』
「いえ…俺は、何も出来ませんでした…」
USJでの事件を思い出す。
俺はあの時、土砂ゾーンでヴィランを全て凍らせた後尋問せずにすぐセントラルへ迎えば焔を救えたかもしれねえんだ。だから将樹さんにありがとうと礼を言われるのはお門違いだ。
『そんなことないさ。君は君の出来る全力をやりこなしたんだろう?自分をそう責めてやるな。焔が大怪我で済んだのだって…焔が自分に出来る最大限のことをしたからだ』
「っ……」
『それでいて二人とも無傷とは言えなくても今こうして生きている。それだけで嬉しい。……焦凍くん、本当に無事で良かった』
「将、樹さん……」
『怖かったよね…救けられなくてごめんね…』
「あ…っ!」
『傍にいてあげられなくて…ごめんね』
ポロポロと流れる涙がズボンを濡らす。
怖かった。俺はずっと怖かったんだ。生徒用に準備されたヴィランは大したこと無くとも不気味なヴィランの狂気や脳無の圧倒的な力に心の何処かで怯えていた。
何より焔の傷ついた姿が耐えられなかった。グチャグチャに曲がった腕と脚…口から溢れる血が何よりも怖かった。死んでしまうのではないかと恐怖で震えた。彼女を抱き抱えた時に伝わって来た体温があまりにも冷たかった……このまま凍りついて動かなくなってしまうのではないかと…同時に自分の無力さに腹が立ったんだ。
救けてほしかった。彼女を失うんじゃないかという恐怖から救い上げてほしかった。
でもそんな恐怖から救い上げてくれたのは焔自身だった。時折安心させようと俺を撫でる手と失おうとする意識を無理矢理掻き集めていた彼女が俺を安心させてくれた。
「だい、じょうぶです…焔が、いてくれたから…」
『……そっか』
「病院…教えてくれませんか…?明日臨時休校なので見舞いに行きたいんです」
『○×病院って所だよ。雄英から近い大病院。俺が行った時はまだ意識が戻ってなかったから…明日目覚めるか分からないけど…』
「分かりました」
『それから明日は一応リカバリーガールを連れて見舞いに行くから…先行ってほむが目覚めてたら伝えておいてほしいな』
「はい。ありがとうごいます」
『いいえー。それじゃあもう寝なさい』
「はい…おやすみなさい将樹さん…」
『おやすみ焦凍くん』
通話を切ってスマホに充電器プラグを差し込むと引き出しから寝間着を引っ張り出して漸く制服から着替えた。
風呂は明日の朝でいい。早起きすれば問題ない。あそこの病院は何時から見舞いが出来るんだったか。兎に角焔に会いたい。会って早く安心したい。
バサッ
寝間着に着替えると布団に転がり毛布を被って睡眠体制に入る。
見舞いに何を言おう…その前に何か見舞い品を持って行った方がいいだろうか。あいつ花好きだったっけ…?
ぐるぐると考えているうちに睡魔が訪れ、2度目の眠りについた。