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USJ後
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黒冷side
ピッ…ピッ…ピッ…ピッ…
一定に刻まれたリズムが聞こえ、ゆっくりと目を開ける。視界には白い天井がいっぱいいっぱいに広がっていた。
「ぁー…」
見覚えのある光景だ。
前にもこんなことがあったなぁなんて呑気に考えていたらヒョコっと焦凍の顔が入ってきた。
「焔…?」
「しょー…?」
「起きたか…良かった……いいか焔。お前喋るな。分かったか?絶対に喋るな」
同じ事何度も言わなくたって分かるよ、おバカ…
焦凍はナースコールを押すと『どうなされましたか?』とナースセンターから看護師の声が聞こえた。
「焔が目覚めました」
『分かりました。担当の者を呼んで今すぐそちらに向かいます』
「お願いします」
無線が切れて再び焦凍が視界に映った。
「今は15時20分。ヴィランが侵入して来たのは昨日。ほぼ丸一日が経ったぞ」
まだそんなんしか経ってなかったんだ
「お前…骨が粉々で両脚と右腕手術したんだ」
そうだったんだ
「目覚めて良かった」
大丈夫だってばそんな顔しないでよ
目を細めて笑うと焦凍にぺちんと額を叩かれた。
「将樹さんがリカバリーガール連れて見舞いに来てる」
そか…叔父さん来てるんだ…迷惑掛けちゃったな…
「迷惑掛けたって考えてんだろ」
何でバレた
「なんでだろうな」
教えてくれたっていいじゃんか
「ナイショだ」
ケチ
焦凍の言い聞かせるような一人言を心の中で返していたら病室の扉が開いて白衣を着た男性の医師と女性の看護師…それからスーツを着こなした叔父さんとリカバリーガール、包帯でミイラのようにグルグル巻きにされた相澤先生が入ってきた。
「ミイラ…?」
「轟も来てたのか」
相澤先生のまさかの姿に焦凍も驚いた様子だった。
「無理はしないでそのままでいいよ」
医師が私の前に指を一本立てた。
「これが見えるかい?指を目で追ってみて」
人差し指が右へ左へと移動するのを追う。
「口を開けられるかい?」
コクンと頷いて口を開けるとペンライトで喉に光を当てた。
「うん、このくらいならリカバリーガールの個性で治るだろう」
ほっと息をついた医者が離れる。入れ替わるようにリカバリーガールが傍まで寄って来た。
「無茶したねぇ全く…個性使うよ」
チュ〜〜〜
リカバリーガールの伸びた唇が左腕に触れて身体が軽くなる。試しに「あー、あー」と声に出してみると痛みは全く感じられず問題なく喋れた。
その様子を見て「よし」と安堵した医師とカルテに書き込んでいた看護師が叔父さんと先生を見た。
「焔さんは2週間は絶対安静です。両脚と腕は自然に治すのが一番でしょう。3週間ほどしたらリカバリーガールの個性で治癒して頂いて大丈夫です。その間車椅子での生活になってしまいますが耐えてくださいね」
医師の言葉に「はぁい」と頷く。
「絶対に無理はさせないように。治るまで個性の使用は禁止します。雄英体育祭への参加は以ての外です。絶対にダメです。相澤さんもご了承下さいね」
「分かってます」
「あなたも重傷だったんですから暫くの間個性の使用は禁止です。いいですね」
「はい」
「君は何度言っても聞かないんだから」
「いつもすいませんね」
皮肉を込めて謝る相澤先生。この人達は会話からして付き合いが長いように見えた。
「焔さんは今日退院されても大丈夫ですよ」
「早くないですか?」
焦凍と聞き返した。
「安静ならば大丈夫です、が霧灯さんは色々とお忙しいですよね?」
「無理矢理有給取るから大丈夫です。それなりに地位高いので融通は利きます」
「あまり部下の方々を振り回さないであげて下さいね」
「無理ですね」
「全く…君らは…」
「君らってそれ俺も入ってます?やめてくださいよ。コイツと一括りは嫌です」
「喧嘩売ってんか相澤」
「いや全く」
あっけらかんとした態度で会話する相澤先生が叔父さんとタメで話せる関係であったことに驚きが隠せない。リカバリーガールが「はぁ…あんた達は昔っから変わってない…」と溜息を吐いた。
「将樹さんと相澤先生知り合いなのか?」
「私も初めて知った」
聞いて来た焦凍に返事する。医師と看護師、リカバリーガールが病室を出て行くと室内には叔父さんと先生、焦凍と私の4人が残った。
ベッドの近くに重ねられていた椅子を並べて3人が座る。上半身を起こそうと身を捩れば焦凍と相澤先生が手を貸してくれた。
「ほむ大丈夫そうかい?」
「大丈夫だよ」
「退院する?」
「する。授業遅れるのヤだし」
「分かった。後で看護師さんに言っておくね」
「ん。よろしく」
「そんで…こんな状況で悪いけど、焔に事情聴取しなくちゃいけなくてね。相澤と13号、焦凍くんはさっきしたんだ」
胸ポケットからメモ帳とボールペンを取り出した叔父さんが私の顔を見た。
「話してくれるかい?」
「うん。午後のヒーロー基礎学は人命救助の予定で学校施設内のUSJにバスで移動、その授業は相澤先生、オールマイト、13号の3人体制で行う予定だったらしいけどオールマイトは居なくて相澤先生と13号の2人で行うことなったんだ。13号の演説が終わっていざ授業を始めようとした時にヴィラン達がワープの個性を持った黒いモヤの男…黒霧と呼ばれた男の個性によって現れた」
「黒霧…?」
「そう。個性の発動場所には限りがあって頭と両手両脚の五箇所だと思う」
「どうしてワープゲートの名前が分かったんだい?」
「仲間がそう呼んでたから」
「その仲間の特徴と名前は?」
「身長は高め、水色の髪に赤い目をしていた。顔や首、肩、腕、脇下、腰等に無数の手首から先の手を付けてた。名前は死柄木弔。黒霧がそう呼んでた」
「死柄木弔…初めて聞く名前だな…」
メモ帳にサラサラとボールペンを滑らせる。
「ごめん。続けて」
「実力が飛び抜けて見えたのは死柄木と黒霧と脳味噌剥き出しになった大柄のヴィラン、脳無と死柄木に呼ばれた奴の三人だけ。残りのヴィランは生徒用に集められた個性を持て余したチンピラだったよ。質じゃなくて数で押そうしたのかな」
「なるほど」
「13号の指示に従って避難しようとしたんだけど、生徒を守ろうとしてヴィラン達が現れた中央広場に相澤先生が一人で駆け出してって……相澤先生の目を盗んで黒霧が私達の元に来たの。んでどの生徒よりもいち早くワープに飲み込まれて相澤先生の元に飛ばされて先生と一緒にチンピラノしてた」
「うん」
「相澤先生の肘が死柄木の個性で崩されたのを見て、居ても立っても居られなくて飛び出したら死柄木の「脳無」って呼ぶ声に反応して脳無とやり合うことになった。一方的にやられちゃったけど……脳無は死柄木の言葉にしか反応しなかった。自分の意思は持っているように見えなかったな…」
「うん」
「それから死柄木は私の事を知ってるみたいだったよ。黒冷焔って名前呼ばれたから。奴等は自分達の事を敵連合と呼んでオールマイトの殺害と私の誘拐を試みてたみたい」
「………そうか…聞き間違いじゃなかったか…」
頭を抱えた叔父さんに相澤先生が「だからそう言ったろ」と言った。
「まずいな…どこで情報が漏れたんだ…」
「流石にそれは俺にも分からん」
「焔のこと、周囲にバレたらまずいんですよね?」
「!…焦凍くん…何故それを…」
「中学ん時焔から直接聞きました」
「!!」
バッとこちらを見る叔父さんから目を逸らす。
「……そうか…話してたのか…そうやって秘密を話せたほど、焔にとって焦凍くんは安心できる人なんだね?」
「………うん…ごめんなさい…黙ってて…」
「いいんだよ。君が信用出来たならそれでいい。けどこれ以上はダメだよ」
「分かってる」
真剣な眼差しの叔父さんに頷くと焦凍が「あの…」と言いづらそうに言う。
「すみません……俺、焔との約束破っちゃって…」
「エッ!?」
勢いよく焦凍を見ると申し訳無さそうな表情をしていた。
「親父に焔の親が誰なのか言いました」
「あっちゃー…」
「轟…それはダメなヤツだ…」
叔父さんは顔を手で覆って天を仰ぎ、相澤先生は眉を顰めて溜息を吐いた。
何がどうダメなのか分からない私は叔父さんと先生を交互に見た。