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USJ後2
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「焔のこと覚えてないなら覚えてないで都合が良かったんだけど、知ったなら知ったで彼は利用させてもらうから大丈夫だよ」
「親父を利用…」
「あっ、ごめん!君の前で言うもんじゃなかったな」
「大丈夫です。気にしないでください」
叔父さんに向けて首を左右に振る。気まずそうに苦笑いした叔父さんが再び私を見た。
「話を戻そう。他に何か思い出せることはあるかい?」
「うーんと……そう、脳無の個性は一つだけじゃなかったよ。私が知る限りショック吸収と超再生の2つを持ってたみたいだったけどオールマイトとの戦闘を見た限り2つ以上持っているように見えた。増強系の個性、かな…あれは…」
「個性複数持ちか…」
「うん…なんか、キメラみたいだなって思ったの。そういえばオールマイト用に改造した超高性能のサンドバック人間だって死柄木が言ってた気がする」
「改造?」
「そういやそんな事言ってたな」
「改造って言ってたから完全に中身弄られてるよ」
「見た目からしてあからさまになんかやってる感じあったもんな」
「うん」
「俺が気を失ってる間にそんな会話もあったのかよ」
「「ありました」」
相澤先生が頭を抱えた。
「あとは…死柄木の奴…アイツと同じ臭いがした…」
「!!それは…本当か?」
「うん……取り敢えずこれくらいかな。また何か思い出したら伝える」
「分かった。ありがとう焔。君のおかげで知り得なかった情報が手に入ったよ」
「力になれて良かった」
「それじゃあ悪いけど俺は上に報告しに行かなきゃいけないからもう出るよ。看護師さんには退院のこと言っておくから手続きは相澤に任せる」
「ああ」
「うちの娘を宜しく頼む」
叔父さんは立ち上がると椅子を元の場所に戻して病室を出て行った。相澤先生は叔父さんを見届けると私と焦凍を見た。
「とりあえず…おまえらが無事で良かった」
「相澤先生、ケガの方は…」
「俺なら大丈夫だ。順調に回復してる」
「でもその包帯…」
「婆さんが大袈裟なんだよ」
「「(これリカバリーガールがやったのか)」」
焦凍と心の声が一致した。
「轟、生徒達(あいつら)の様子は?」
「緑谷が両脚骨折してリカバリーガールに治してもらったくらいで後は皆軽傷のほぼ無傷でしたよ」
「また緑谷…!」
はぁ…と溜息を吐いた。
「今日臨時休校で明日からまた学校が始まります。校長がセキュリティを大幅に強化すると言ってました」
「そうか。その点はあっちからまた連絡が来るだろ。すまんな。助かる」
「はい」
「で、だ…黒冷。おまえ明日登校するのか?」
「その予定です」
「休んでもいいんだぞ」
「大丈夫です」
「痛えだろそれじゃ…」
「痛み止め貰います」
「そういうこっちゃねえんだよ」と小言を言われた。心配そうに見る焦凍にも「無理すんじゃねえ」と言われて「してない」と応えた。
「とにかく分かった。明日来るんだな?」
「はい。先生は?」
「行く」
「そんなケガで来るんですか?」
「大したもんじゃねえってさっき言ったろ。俺の心配はしなくていい。それじゃあ黒冷の退院手続きしてくるから大人しくしてろよ」
そう言って相澤先生は病室を出て行った。
焦凍は立ち上がると相澤先生と自分の分の椅子を重ねて戻すとベッドに腰掛け、私の頬を撫でて横髪を耳に掛けると薄らと笑みを浮かべた。
「無事で良かった」
「焦凍も元気そうで良かったよ」
「悪かった…本当に…すぐに助けに行けなくて」
「また言ってる。もういいってばそれ…」
「悪ィ…」
「謝んなよ。調子狂うな…」
ぺちんと背中を叩く。
「今日、お前ん家泊まってもいいか?」
「別にいいけど…叔父さんも喜びそうだし…でもエンデヴァー大丈夫なの?」
「アイツの事なんかどうでもいい」
サラッと毒吐く焦凍に苦笑いを浮かべる。
「実は既に着替え持って来てんだ」
「わー泊まる気満々ーーー」
自身の持ってきたバッグをパンパンと叩く。
準備がいいなコイツ。
「暫く車椅子だろ?押すぞ」
「それわざわざ言う事?」
「お前が嫌だったらどうすんだ」
「嫌なら嫌って言うわよ。馬鹿ね…」
一々確認してくる焦凍は律儀なのかどうなんだか……呆れながら笑った。
「ありがとね」
「ああ」
この後の会話は他愛も無い話が続き、手続きを終えた先生が看護師を連れて戻ってくると野郎2人は追い出されてシャッ!とカーテンでベッドを隔離されると看護師の手を借りて着替えが始まった。
これを次は自分でやらないといけないのかと思うと気が遠くなりそうだった。
風呂…どうしよう…
これが一番の問題だった。根性で乗り切れば大丈夫だろう。時間は物凄く掛かると思うが出来なくは無い…と思いたい。………いや無理だな。絶対に無理。マジでどうしよう。
そう考えている内に着替えが終わってカーテンを開けられると車椅子に相澤先生が乗せてくれた。
車椅子を焦凍に押されて病院を出る。着替えが入ったバッグは相澤先生が持ってくれていた。予め先生が車を呼んでくれてたみたいで近づくと窓が開いて運転席にマイク先生が乗っていた。後部座席に乗せられて焦凍は隣に、相澤先生は助手席に座った。暫くすると自宅のマンションの駐車場に車が止まり、車から車椅子に移される。
「本当俺が行かなくても大丈夫か?」
「大丈夫ですよ、焦凍居ますし」
「教師としてそれが一番心配なんだよ」
「先生が考えてる事は起こらないので大丈夫です。学校に用があるんでしょう?さっさと行ってください」
「轟てめェマジで問題起こすなよ」
「起こしませんよ」
2人の会話を聞き流すと相澤先生を乗せた車が発進した。私は焦凍に押されて家に入るとリビングのソファーに降ろされた。
「勝手に使っちまうけどいいか?」
「いいよ」
「なんか飲むか?」
「ココア飲みたいな。焦凍も好きなやつ飲んでいいよ。カップはたくさんあるから自由に使って」
「わかった」
焦凍がキッチンでポットに水を入れて沸かしている間、テーブルに置かれたTVのリモコンを手に取って電源を入れるとニュースは雄英の話で持ちきりだった。
都合の良いように悪く言われて虫酸が走る。眉間に寄っていた皺をグリグリと押し揉んでテーブルに置かれたココアを一口含んだ。焦凍が隣に座り、ニュースを静かに見ている。
それから何時間か経過して叔父さん両手に大量のビニール袋を持って帰宅した。叔父さんが料理するのを焦凍が手伝い、それを横目にTVを見るという環境が出来上がり、そう時間は掛からず夕飯がテーブルに並んだ。
左手が生きているにも関わらずスプーンを持って食べさせようとしてくる焦凍を躱して食事を終わらせ、3人でリビングでゆったりとした時間を過ごし、どういう訳か…私の部屋の床で焦凍が寝る事になって何とも言えずに1日が終了した。
明日からまた学校が始まる。体育祭に参加出来なくなってしまったのが唯一の心残りだった。