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雄英体育祭2
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午後の授業と帰りのHRが終了し放課後。
1Aの教室前は別クラスの生徒達が集まり混雑していた。
ザワザワ
ザワザワ
「うおおお…」
ザワザワ
「何ごとだあ!!!?」
教室を出ようとした麗日が叫んだ。クラス中の目が麗日に集中、そして自分達のクラスが囲まれている事に皆が気づいた。
「面倒臭いことになってんなぁ…」
教室のドアから見える集いを眺めながら教材を片手でリュックに詰める。
今日の夕飯はなんだろうなーと考えていたら後ろから焦凍が来た。
「人混みが少なくなるまで待つか」
「そうしよ。あんま目立ちたくない…」
リュックに詰め終え、太ももに置くと焦凍が私の机の上に座った。ムッとして彼を見上げる。
「飯田に怒られるよ」
「言わせとけ」
「もう…」
溜息を吐く。焦凍は私から目を離さずにジッと見つめられ続けるので気まずくてもう一度目を合わせた。
「なによ…」
「普段顔が近えだろ。だからこういうのもいいなって」
「……?」
「見上げられんのも良い」
「は……バッカじゃないの?」
「かもな」
「ふっ…」と笑う。普段とは違う…初めて見る優しげな笑顔が脳裏に焼き付いた。なんだか恥ずかしくて焦凍の背中を叩く。
「出れねーじゃん!何しに来たんだよ」
峰田の声が教室のドア付近から聞こえて目を向けた。峰田、緑谷、飯田を抜かして前に出る爆豪。
「敵情視察だろザコ。ヴィランの襲撃を耐え抜いた連中だもんな。体育祭の前に見ときてえんだろ。意味ねェからどけモブ共」
「知らない人の事とりあえずモブって言うのやめなよ!!」
群がる生徒らに通常通り吐き捨てる爆豪にツッコミを入れる飯田。
体育祭参加しないから私関係ないけど敵作るのはやめてよねー。A組の印象が悪くなる。
「どんなもんかと見に来たがずいぶん偉そうだなぁ。ヒーロー科に在籍する奴は皆こんななのかい?」
生徒達を分けてズイ…と爆豪の前へ踏み出したのは紫髪の1人の男子生徒だった。
「普通科とか他の科ってヒーロー科落ちたから入ったって奴、けっこういるんだ。知ってた?」
「?」
「体育祭のリザルトによっちゃヒーロー科編入も検討してくれるんだって。その逆もまた然りらしいよ………敵情視察?少なくとも普通科(おれ)は調子のってっと足元ゴッソリ掬っちゃうぞっつーー宣戦布告しに来たつもり」
大胆不敵だなコイツ。
また姿は見えないが廊下の方から暑苦しい大声が教室内を響かせた。
「隣のB組のモンだけどよぅ!!ヴィランと戦ったっつうから話聞こうと思ってたんだがよぅ!!エラく調子づいちゃってんなオイ!!!本番で恥ずかしい事になっぞ!!」
「「「「…………」」」」
爆豪のせいで上限突破したヘイトを向けられて無言になる1A一行。クラス中の視線を集めた爆豪は涼しい顔で廊下に出ようするのを切島が止める。
「待てコラどうしてくれんだ!おめーのせいでヘイト集まりまくっちまってんじゃねえか!!」
「関係ねえよ……」
「はあーーーー!?」
「上に上がりゃ関係ねえ」
そう言い残して爆豪は教室を出て行った。
「だ、そうですよ轟くん」
「爆豪に同感だ」
「男の子だねぇ…」
爆豪の言葉に感化された緑谷は目の奥に炎を燃やした。
未だ騒つく教室と廊下の様子を伺いながら人混みが少なくなるのを焦凍と駄弁って待っていた。
*****
2週間が経ち、雄英体育祭本番当日。
ジャージを着こなす皆とは別に制服の上からパーカーを着て1Aの控え室にいた。皆と一緒に入場することは叶わず、時間になったら1Aの観客席に移動する。
全体的にざわざわと落ち着きがなく、私は女子達が固まって座っているテーブルの傍にいた。
「焔さんの分まで私頑張りますわ!」
「頑張って百〜応援してる」
「はい!」
「ほむほむ本当に残念だぁー!!参加してたら絶対に3位内に入ってるよー!!轟と爆豪と良い勝負してるよー!!」
「だよねーウチも見てみたかった」
「そんな…持ち上げないでよ照れるじゃん」
「持ち上げるよ!だってクロロン私ら女子の中で一番カッコイイんだから!」
「それ関係ある?」
「「「「「「ある」」」」」」
「お、おう」
真顔で一斉に言われてたじろぐ。
皆なんなの?私推しなの?皆の方が可愛いしカッコイイと思うよ??
「それにしてもコスチューム着たかったなー」
「ほんとほんと」
「公平を期す為着用不可なんだよ」
別のテーブルで背を向けて座っていた尾白が振り向いて言った。
コイツうちらの話聞いてたのか。
「緑谷」
少し離れた所から緑谷を呼ぶ焦凍の声が聞こえてそちらを見た。緑谷に寄っていく焦凍に気づいた周りの生徒らが2人を見守る。
「轟くん……何?」
「客観的に見ても実力は俺の方が上だと思う」
「へ!?うっうん…」
緑谷を見る目がいつもと違う。そんなアイツは緑谷を通してエンデヴァーを見ていた。
「おまえオールマイトに目ぇかけられてるよな」
「!!」
「別にそこ詮索するつもりはねえが…おまえには勝つぞ」
私が首を突っ込んでいい領域ではない。
「急にケンカ腰でどうした!?直前にやめろって…」
「仲良しごっこじゃねえんだ。何だって良いだろ」
切島が焦凍の肩を掴む。俯く緑谷がギュッと拳を握り締めた。
「轟くんが何を思って僕に勝つって言ってんのか…は、わかんないけど…そりゃ君の方が上だよ…実力なんて大半の人に敵わないと思う…客観的に見ても…」
「緑谷もそーゆーネガティブな事言わねえ方が…」
切島が止めようとする。
「でも…!!皆…他の科の人も本気でトップを狙ってるんだ。僕だって遅れを取るわけにはいかないんだ。僕も本気で取りに行く!」
俯せていた顔を上げ焦凍と目を合わせる緑谷の目には強い意志があった。
1Aの控え室は静寂に包まれた。
時間を見ると入場20分前まで迫っており、扉を開けて入ってきた相澤先生の指示に従って皆が控え室を出ていく。流れに沿って控え室を出ると女子達に「頑張るね!」「頑張ってくるね!」等声を掛けられ、手を振って姿が見えなくなるまで見送った。
「さぁ黒冷ちゃん。移動するわよ」
「! ミッドナイト先生…わざわざ来てくださったんですか?」
「勿論。片腕での移動は大変でしょう?」
「はい…ありがとうございます」
気づかないうちに背後に立っていたミッドナイト先生に車椅子を押されて1Aの観客席に向かう。女性の力で私を持ち上げるのは厳しいと思うし…観客席の後ろの通路で止めてもらおう。
「先生、後ろの通路でいいです」
「あら…本当にいいの?イスに座らせられるわよ?」
「いいです。私重いですから…」
「鍛えてるんでしょう?知ってるわよ。霧灯くんから聞いてるんだから」
パチンッとウインクするミッドナイト。
「叔父と知り合いなんですか?」
「ええ勿論。私の高校時代の同級生、クラスメイトだもの」
「えっ、そうだったんですか?」
「そうよー」
「じゃあ…相澤先生と叔父の関係は…?」
「先輩後輩よ。私達が2年生だった頃、相澤くんは1年生だったの」
「へ〜〜〜〜」
楽しそうに教えてくれたミッドナイトは時間を見て「それじゃあ今年は1年の主審だからまたね!」と言ってステージの方へ歩いて行った。
雄英の教師って雄英出身のプロヒーローが大半を占めてるのかな…?だって雄英の教師達は皆叔父さんと仲良さげな言い方をする。
そもそもいつから叔父さんが雄英と関わりがあるのかを知らないから何とも言えないのだが…
《雄英体育祭!!ヒーローの卵たちが我こそはとシノギを削る年に一度の大バトル!!どうせてめーらアレだろこいつらだろ!!?》
「始まった」
放送席から流れるプレゼントマイクの声に騒めく全ての観客席。
《ヴィランの襲撃を受けたにも拘らず鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星!!!ヒーロー科!!1年!!!A組だろぉぉ!!?》
出入り口から出てきた1Aの姿に大興奮して会場全域が爆音を鳴り響かせた。
「ぅっさ…」
大きな音が苦手な私は反射的に耳を塞いだ。TVとは全くの別物レベルの迫力。これを今日一日耐えねばならないのかと思うと気が遠くなる。
「耳栓持ってくれば良かったなぁ…」
心の底から後悔した。