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雄英体育祭8
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「そこの兄ちゃん一緒に昼飯どーよ?奢るよ?B組のイケメン倒したお祝いに」
「バカかてめェわ」
「第一声がそれって酷くね?」
「ケッ」と両手をポケットに入れる彼が怠そうにこちらに向かって歩き、車椅子の後ろに回って押し始めた。
「え?いいの?」
「てめーが言ったんだろうがクソ能面野郎が」
「野郎じゃないけどな。何食べたい?」
「激辛ラーメン」
「辛い物好きなの?」
「悪ィか」
「爆豪らしくていいと思う」
食堂へ向かってスタジアムの通路を進む。
「てめェはさっきの半分野郎の話知ってたんか」
「知ってたよ。一年前に聞いたから」
「同中か」
「中2の二学期からね。うちの親転勤族だからさ」
「てめェの親のことなんざ聞いてねえわ」
「ごめんて」
さっきの焦凍の重い話で今日は懲り懲りなんだろう。
「ずっと聞きたかったんだけど、爆豪と緑谷ってどういう関係なの?」
「主人と下僕」
「……そういうプレイ?」
「ちっげェわブッ殺すぞ!!」
舌打ちして「幼稚園、小中と一緒なだけだわ」と小さく続けてた。
「幼馴染みじゃん」
「あ″?」
「ちっせー頃からずっと一緒にいたんだろ?じゃなかったら爆豪お前あんなに緑谷に突っかからないだろ。突っかかる理由ないじゃん」
「てめぇに何がわかんだよ」
「何もわかんねー」
「うっぜえなこの女」
こめかみに青筋浮かばせてまた舌打ちされた。
分からんものは分からん。けど2人の間に何かがあるのだけは知っている。というか今日の爆豪いつもより大人しくてちょっと調子狂う。緑谷の話しても怒鳴ってこないなんて…エンデヴァー効果すげえ。
「私にもいるよ…幼馴染み。もうずっと連絡取ってないけど」
「聞いてねぇわ」
「爆豪が珍しく素直に答えてくれるからつい」
「てめえが体育祭参加してたら一番最初に殺ってたわ」
「あらやだモテ期?」
「ケガ治ったら覚えとけよこのクソ能面レイプ目!!!」
そうそう、そう怒鳴ってる方がお前らしい。
ここからは普段のように言葉で殴り合いをしながら食堂へ向かい、私の奢りだからと激辛ラーメンを3杯も平らげた爆豪に育ち盛りだなぁーと感心。
ちなみに私は塩ラーメンを食べた。
後ろの方で女子達が峰田と上鳴に何かを言われてコソコソと話し合いが断片的に「チア」とか「着替え」とか聞こえてきた。
食べた後は外の自販機で飲み物買ってあげたり、人影のない場所で静かに昼休憩の時間を過ごした。
この短い間見ていて爆豪の事が少しだけ分かった気がする。こいつはきっと緑谷が怖いんじゃないか、と。
休憩終了間際になると爆豪は車椅子を押してわざわざ1Aの観客席まで連れて行ってくれた。
何人か1Aの生徒とすれ違ったり合流したりして爆豪がからかわれ、怒鳴って笑うという空間が出来上がった。
観客席に着くとそこには焦凍が席に座ってフィールドを眺めていて、私が爆豪と一緒に居たのを見てほんの一瞬、ほんのちょっとだけ眉を顰めた。
「てめえの女くらいてめえで面倒見ろや半分野郎」
「言い方!」
マジで!言い方!気をつけろ!
爆豪はそう吐き捨てるとさっさと観客席から出てフィールドに向かって歩いて行った。
焦凍は席から立ち上がって私の元へ来るとすかさずお姫様抱っこされて観客席に座らされた。
残された車椅子を通路の邪魔にならない所へ置いて戻ってくると隣の席に座る。
「飯食ったのか」
「食べたよ。焦凍は?」
「食った」
「そっか。ずっとここで待ってたらどうしようかと思った」
「騎馬戦終わってここ来たらお前居なかったから」
「あーーごめん。トイレ行ってた」
「1人で出来たのか?」
「出来るわ」
このデリカシーの無さよ。
「じゃあそろそろ行ってくる」
席を立ってフィールドへ向かう背中を見えなくなるまで見つめてからステージを見下ろした。
《最終種目発表前に予選落ちの皆へ朗報だ!あくまで体育祭!ちゃんと全員参加のレクリエーション種目も用意してんのさ!》
マイク先生の放送が始まった。フィールド内へ次々と集まる生徒達を見ていると1Aの女子6人に目が止まった。どういうわけかチアガールの格好をしている。
食堂で話してた「チア」や「着替え」というのはこれだったのか。
……そういえば女子達に話してたの峰田と上鳴だったよなぁ……騙されたのかぁ……
《本場アメリカからチアリーダーも呼んで一層盛り上げ……ん?アリャ?》
《なーにやってんだ……?》
放送席も気づいたか。
《どーしたA組!!?》
百達の顔が暗い。
百がキレて峰田と上鳴に怒鳴っては落ち込んで麗日に背中を撫でられている。やっぱり騙されたのね。
《さァさァ皆楽しく競えよレクリエーション!》
今年のレクはなんだろ。
《それが終われば最終種目!進出4チーム、総勢16名からなるトーナメント形式!一対一のガチバトルだ!!》
マイク先生の放送が終わったのと同時くらいにミッドナイトがステージに上がる。