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鏡に映した双方(ふたり)
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『「官兵衛殿~」』
「…ハァ、」
黒田官兵衛は、己が目にした光景に頭痛がした。
「ちょっと官兵衛殿、酷いんじゃない?人の顔見て溜息だなんて」
『官兵衛殿は幸薄そうだから溜息吐いても問題なさそうだけど、見てるこっちが幸せ逃げそう』
「…して、卿等は何用か」
『「見て見て、俺(僕)等お揃い!似合うでしょ~?」』
「…ハァ、」
くるり、と対照的に回る2人の少年少女に、官兵衛は目眩を覚え眉間を抑えた。
まるで鏡にでも映したかのように瓜二つの2人は、天才軍師・竹中半兵衛と、同じく天才軍師・○○だ。
生まれも育ちも違うというのに、性格はおろか容姿までもが似通っている双方…違うのは性別と体型と身長ぐらいだろうか。
『半兵衛殿の服を着たら、まったくそっくりになってしまったのだよ官兵衛殿』
「そうか」
「俺の服貸してるから○○にとっては少し大きめなんだけど、どう?俺そっくりじゃない?」
○○の肩を抱き、誇らしげに笑う半兵衛に、こてっと半兵衛の肩に頭を預ける○○。
…別に、恋仲とかそういうわけではないのだが、何故かこの2人は同じ顔をしてそういった雰囲気を醸し出す…ある意味天才であった。
それが官兵衛の目の前で起こっているのだ…彼の中には最早、呆れしか生まれない。
「完成度の高い変装だな」
『名軍師様に褒められるとか照れるなぁ~』
「その顔で言うな」
「あっ、その顔って酷いなぁ~。俺の顔でもあるのに」
「紛らわしい」
『「実はそれが狙いだったり…」』
「卿等の目的は何だ…」
官兵衛の問いに、目の前の2人は“よくぞ聞いてくれました!”と言いたげに視線で合図を交わし笑った。
…その行為でさえも人を惹きつけるという事を2人は知っているのか、否かは誰も知らない。
「実は次の戦でさ、相手を錯乱させようと思ってるんだよね~」
『それで、僕が半兵衛殿に化けて出陣してしまおうというワケなのさ』
「もちろん、俺も出陣するよ。“半兵衛が2人”って、さぞ驚くだろうなぁ~」
『想像しただけで楽しそうじゃない?ねぇ官兵衛殿、どう?似合ってるでしょ、僕』
“似てる”ではなく“似合ってる”という表現をする○○に、官兵衛は目を伏せた。
視界を閉ざして気付く、2人の声も似ているという事実に…更に頭痛が増した。
「ちょっと、官兵衛殿。現実逃避は良くないんじゃないかなぁ」
『まぁ…官兵衛殿がコレだから、他は絶対に見破れないよね。うん、今回の戦績が見えたかも♪』
「ホントに?じゃあ、今から2人で話し合おっか♪」
その後、2人と交戦した誰もが口を揃えて“半兵衛の性別が分からない”と言い出したとか何とか。