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夢小説 DLove

 

  • 世界を越えて

    ▽勇者 は 旅へ 出る

  • 「…落ち着きました?」

    私がひと泣きして落ち着いたのを見計らってから声をかけてくれる一郎くんは、やっぱり優しい。

    『はい。ありがとうございます』

    「敬語じゃなくていいっすよ、江藤さんの方が年上っすよね?」

    『え?えっと、私は21ですけど…』

    「なら、俺は19なんで、そんなにかわんねーか」

    とくしゃっと笑った。

    『…そうだ、山田さ「一郎」…え?』

    名前を呼ぶと遮られ、疑問符が飛ぶ。

    「俺んち三人兄弟…って、知ってるか。これから一緒に暮らすのに二郎と三郎もいるんだから、“山田さん”なんて呼ばれると、かたっくるしいし、ややこしいぜ」

    と笑う一郎に、私は一瞬呆気にとられてから笑った。

    『…じゃあ、一郎、くん…で』

    「おう」

    いつの間にか砕けていた話し方に、なんとなく心が弾む。

    受け入れてもらえたような感覚になってしまう。

    …こんな私でも、受け入れてもらえるのだろうか。

    そんなことを思ってうつむいていると、一郎くんが立ち上がり手を差し出した。

    「ほら、行くぞ」

    『あ、うん…』

    その手を握り歩き出す。

    この町で歩き出すための、最初の一歩だった。







    「…そうだ、さっきは何を言おうとしてたんだ?」

    シンジュクの駅に向かいながら一郎くんが問う。

    『あ…あの、私、頑張って家事するから…だから…』

    私がもごもごと言うと、一郎くんは、一瞬呆気に面食らってから、しょうがねぇなといいたげに笑うと、私の頭をわしゃわしゃと撫でた。

    「んな顔すんな!大丈夫だ!見知らぬ土地に一人でお前を放り出したりしねぇって!」

    その手があまりにも暖かくて、大きくて…また、涙がこぼれそうになった。

    『…うん。精一杯家事やるので。お願いします』

    うつむいて言うと、一郎くんが笑うのがわかった。

    「ほら、電車乗るぞ!」

    一郎くんに連れられ、シンジュク・ディビジョンからイケブクロ・ディビジョンへ。

    イケブクロについて暫く歩くと、見えてきた山田の表札。

    ガチャ…

    「おーい、今帰ったぞー」

    ダダタダ…

    「「おかえりなさい!!」」

    一郎くんが扉を開けて言うなりかけてくる二郎と三郎。

    目が輝いているのが見てとれる。

    …正直に言おう、可愛い。

    「…あれ?兄ちゃん、その人は?」

    「あぁ、よく気付いたな二郎。これから一緒に住む人だ。…どうぞ」

    「「え…?」」

    『…お、お邪魔します…』

    二人のポカーン顔に本当にごめんなさいと思いながら、玄関に入る。

    「二郎、三郎、お前らに話がある。…江藤さん、あんたはリビングで適当に寛いでてくれ。…あぁ、リビングは突き当たりな」

    『え!?』

    そういうと一郎くんは二郎と三郎を連れて部屋の奥へと消えていってしまった…

    私は、お邪魔します…と消え入りそうな声で呟きながら、突き当たりへ向かう。

    そこには言われた通りリビングが。

    …だが、寛いでてくれと言われても…

    私は、固まって待つしかなかった。

    暫く思考の海に呑まれていると、不意に肩を叩かれた。

    「…い、おい!」

    『え!?』

    肩を叩かれながら呼ばれて漸く我に帰る。

    「大丈夫かよ…」

    私のことを見つめるのは、二郎だった…

    『あー…すみません、考え事してて…』

    苦笑すると、二郎も眉を寄せる。

    「…兄ちゃんからいろいろ聞いた」

    『…色々?』

    イロイロとはなんぞや?

    私そんなに話したっけ…?

    困惑する私をよそに、二郎は続ける。

    「違う世界から来て不安なのはわかるけど…だからってんな不安そうな顔ばっかすんなよな!」

    『え…?』

    そんなに不安そうな顔をしていたんだろうか…

    「え、無自覚かよ…」

    『え、顔に出てます…?』

    「おう、ばっちりな」

    『…』

    へなへなとしゃがみこむ

    「お、おい!?」

    「おい低脳、なにやってるんだよ」

    そこに運悪く三郎が来たようである。

    「オイテメェ誰が低脳だぁ!?」

    「お前だ二郎、お前が低脳だ!!」

    山田家恒例の言い合い。

    そこへ…

    「いい加減にしやがれ!!」

    と、一郎の拳骨が飛んできたのでした。

    「い、痛いよ兄ちゃん…」

    「い、痛いです一兄…」

    「お前らなぁ…今日から一緒に暮らす家族みたいなもんだとはいえ、こんなみっともない姿見せやがって…!」

    わなわなと震える一郎くん。

    一郎くんには失礼だけど、三人の兄弟喧嘩の姿に、張っていた肩の力が少し抜けた気がした。

    『…ふふ、本当に仲がいいんですね』

    「すみません江藤さん…」

    『いえいえ、私の方こそ、いきなりで本当に…』

    「いや、あんたは悪くねーだろ…」

    『あはは、ありがとうございます』

    優しい人たちばかりだな、と思う。

    「そうだ、このあと俺はまだ依頼が残ってるから、二郎、三郎、お前らのどっちかに、江藤さんと一緒に、彼女の日用品を買いにいって欲しいんだが…」

    「俺が行くよ兄ちゃん!」

    「僕が行きます!」

    「おーおー、お前ら優しいなぁ!じゃあ俺は準備してくるから、それまでに決めといてくれよ」

    『…あの、でも、日用品って…』

    「ん?…あ、あぁ、そうだったな、んー、どうするか…」

    そう、日用品とは、普段使いするものである。

    つまり、女性に必要なものを買いにいく必要もあるわけで…それを思春期の学生たちにさせるのは気が引ける。

    『…あの、私一人で行けるので…』

    「道わかんのかよ」

    「うっ…!」

    二郎の言う通りです…!

    『…でもまぁ、いざとなったらよろず屋の情報網駆使して見つけ出してくれると信じてるので』 

     「「「…!」」」

    私が彼らにとってそこまで大事な人間になれているとは思わないが…

    『とりあえず、買い物は一人でいけるんで!』

    「んー…まぁ、江藤さんもガキじゃねぇしなぁ…」

    「え、俺たちは?」

    「それじゃあ僕たちはどうすればいいんですか?」

    「…あのな、よく考えてみろ。江藤さんは女性だぞ。女性の日用品を買いにいくってことは…」

    「…あー…」

    二郎はなんとなく察したようである。

    少し頬が赤い。

    「女性の日用品…。…!そういうことですか…」

    少ししてから、漸く我に三郎も理解したようである。

    頬が赤くなっている。

    …でも、今更ながら…

    『…ほんっっっとうに私ここにすんでもいいの?その…弟くんたちの教育に良くなくない?』

    「「弟言うなっ!」」

    『あ、ごめんなさい…』

    「ちゃんと名前で呼べばいいだろ!」

    『え、いいの…?』

    「お、弟って呼ばれるよかましだろ。なぁ?三郎」

    「今回ばかりは二郎に同意だねぇ」

    『…えっと、じゃあ、二郎くんと三郎くんで』

    「…おう」

    「弟たちの教育に悪いって言うが、頼るものがなにもないってわかってんのに放り出す方が教育にわりぃと思わね?」

    と一郎くんは笑った。

    『…確かに。じゃあ、なるべく気を付けるので…お願いします』

    「はは、その言葉何回聞くんだろうな」

    と一郎くんは笑った。

    「とにかく!三郎はともかく俺は行けるよ兄ちゃん!」

    『え!?二郎くん!?』

    そ、それは…!!

    「いや、お前がよくても#江藤#さんが良くないかもしれないだろ?」

    「あ、そっか…ごめん、兄ちゃん…と、江藤、さん…」

    『ふふ、いいよ、ありがとうね、心配してくれて』

    「!!心配じゃねーし!!」

    二郎くんはそっぽを向いてしまった。

    『それじゃあ、一郎くんはお仕事あるだろうから、二郎くんか三郎くん、この辺りの地図を書いてもらってもいいかな?』

    「…しかたねぇなぁ」

    「わかりました」



    その後、二郎くんと三郎くんによって書いて持った地図を元に、私は山田家から冒険の旅へ出掛けました。


    ▽勇者 は 旅 に でる

    (無事に帰ってこられますように…) 
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