-
離さねぇ
-
『…はぁ』
スープを口に運ぶものの、私のカラダは拒んでしまって受け入れようとしない。
…食べたくない…
それがここ数日続いていた。
左馬刻さんと別れてからだった。
“「別れてくれ」”
唐突だった
そんなこと言われたのは
どうして?
私が何かした?
色々と言いたいことはあったけど…私は怖くて言えず、頷くのが精一杯だった。
それから、生気を吸いとられたように脱け殻になり、食事ものどを通らない日々。
…こんなに、左馬刻さんが私にとって大きな存在になっていたなんて…
自覚がなかっただけに、怖かった。
『…ご馳走さまでした』
スープを下げ、ベットにダイブする。
『…今日は、少し外に出ようかな』
ここのところ籠りっぱなしで、体にもよくないよね…
そう考え、私はカーディガンをつかみ外へ出た
ー…
『…はぁ、なんでここに来ちゃったんだろう…』
私は、左馬刻さんと記念日に来た海に来ていた。
一人できたってむなしいだけなのにね…
『…っ』
涙がボロボロとこぼれてくる
…あぁ、いっそのこと…
何て考え、一歩踏み出した時。
「オイっ!」
後ろから温もりに包まれた
「なにやってんだ!!」
『…っ!さ、ま…とき、さ…』
私はそこで意識を失った
ー…
俺は、みのりに謝るべくアイツを探し回っていた
「なんで家に居ねぇんだよ…!」
思い出の場所は粗方探した。
最悪の事態が頭を過る。
俺は車を走らせるスピードを上げた。
ー…見つけた
記念日に二人で来た海だった。
…こいつまさか…
想定していた最悪の事態とは別の最悪の事態が頭をよぎる。
「…っ!」
アイツが一歩を踏み出した瞬間、後ろから抱き締めた
「なにやってんだ!」
『…!さ、ま…とき、さ…』
みのりは意識を失った
数日前より細くなった体を抱き締め、後悔した
「…すまねぇな…」
俺はみのりを横抱きにし、車に乗せ、病院へ運んだ
ー…
『…あ、れ…』
「…!」
目が覚めると、目の前に左馬刻さんの顔があった
『…左馬刻さん…なんで…』
「…悪かった」
左馬刻さんが頭を下げた
『え…?』
「お前をうしなっちまうのがこわくて…お前に別れを切り出した」
『…そうだったんですね…』
あのときの別れの意味をようやく理解する
…私が襲われて、また襲われるかもって思って、遠ざけようとしてくれたんだ…
…っ、それでも…!
『…それでも、私は…』
小さく吐き出した言葉に、左馬刻さんが再び謝る
「すまねぇ。…もう遅いかもしれねぇが、もう一度お前の隣に立つ権利をもらえねぇか?…今度は、ぜってぇに手放したりしねぇから」
『…わかりました』
いとおしむように抱き締められて、ふたたび、ーあぁ、この人が好きだな、と思う。
「…二度と手放したりしねぇから、覚悟しとけ」
そう言われて差し出されたのは…
『…!これは…』
有名な宝石店のジュエリーケース
『…開けてもいいですか?』
「おう」
中には…
『…っ、これって…』
「…俺と、結婚してくれねぇか」
左馬刻さんが膝ま付く
『…そんなの…決まってます。』
涙が流れるのもそのままに、何度もうなずいた
『…はい。こちらこそ、不束ものですが、宜しくお願いします…!』
離さねぇ
(もうぜってぇ離さねぇからよ)