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躑躅の人
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新緑と花が咲き乱れる。
冬の風はさよならを告げ、やさしい春の香を届ける。
そんな5月のこと。
美術部の課題であるデッサンをするために
校舎裏にある花壇にやってきた。
ここは人通りも激しく少なく人ゆっくりデッサンに取り組める
いわば穴場というところだ。
そんなところに…
「んー?なんでこんなところに??」
そう、なんでと思う場所
花壇の端っこに日本史の教科書があるのだろうか。
誰かが落としたのだろうか??
「名前っと…あったあった。」
名前を見つけて凍り付く。
これは触ってはいけないものだと直感で感じた。
「さんねんしーぐみ、ゆきむら…せいいち…だと…」
あの美形揃いで近づくことも許されないテニス部の部長の落とし物。
なのに私は運悪く拾ってしまった。
幸村精市の教科書を拾ってしまったのだ。
こんなものを持っていたらテニス部ファンに
いじめられなんて目に見えている。
できればテニス部にかかわりたくないのだ。
「な…なんていうものを拾ってしまったんだ…」
知らず知らずに零れる独り言。
風にかき消されるわけもなく
「そんなひどいなぁ。ただの教科書なんだけど。」
声のするほうに振り向けば
この教科書の持ち主である幸村精市がいるではないか。
「いや…えっと…その…落ちてたんです。」
「うん。ありがとう。」
「はい、えっと…それではそれだけなんで。」
「ちょっと待って。君、片瀬さん…だよね?」
「え…」
なんということだろうか。
私は地味でモブポジションの女なのに
有名でアイドルのようできれいなお顔の
幸村くんは私を知っているではありませんか…。
「なんで…」
「なんでって、同じ学年だろ?それに君はよくこの花壇に来ている。」
クスッと笑いながらここのツツジはきれいだよねなんて
囁くものだから見惚れてしまう。
こんなにも花が似合う人がいるのだろうか。
美しいお顔で美しいものを愛でる人。
「たまにここの花を見に来るんだ。誰も来ないし落ち着くんだよね。」
まっすぐ見つめる瞳はとても綺麗で仕方がなかった。
「き…れい。」
思わず零れた言葉。
本当に綺麗だった。
花を愛おしそうに見つめる瞳も花もすべてすべて綺麗。
私の漏らした一言にびっくりしたように瞳を丸くしている。
「あ、ごめんなさい!
きれいだなって。素直に思ってしまいました。
幸村君も含めすべてが絵になったようで本当に綺麗で。」
「いや、いいんだ。ちょっとびっくりしただけだから。」
大丈夫だよと微笑む姿もとても綺麗で
あぁ、テニス部が別名ホスト部って言われている理由も
ファンになってしまう気持ちもわからなくないなと思ってしまった。
「そろそろ部活いかないと。忘れてた教科書を取りに来ただけだったから。」
「あ、そっか。私渡してなかった。ごめんなさい。」
ずっと手に握っていた日本史の教科書を手渡す。
ちょっと寂しいような気もしたけれど
ファンの子たちに悪いと思うので
この場を離れたい気持ちもあった。
「拾ってくれてありがとう。
お礼と言ってはなんだけど…」
そういうと彼はツツジの花を手折って
私の髪の毛にかんざしのように刺す。
「片瀬さん似合ってるよ。」
すごくきれいなお顔で微笑むものだから固まってしまった。
それじゃ、またねなんていわれた気がしたけれど
どうだったか。
ただその場には優しい春の風と
春には似つかわしくないくらいに赤くなった私がいた。
紫色のツツジに包まれて
(美しい人がこれをするのはずるいです。)
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10年ぶり一発書きの夢。
語彙力も文才もないのは承知の上。だって自己満足ですもの。
最初はスタンダードにやさしい感じの精市君。
私は黒いほうが個人的に好きなので黒いほうもいつかかけたらと思いますね。
余談ですが躑躅(つつじ)の花言葉ですがたくさんある中で「美しい人」というのがありまして。
丁度5月ですし?精市君いけるのでは?!と思った次第でこのようになりました。
2020/05/02