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【血のバレンタイン:ハリー】同居人のコレクションの保存状態
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ハツは美味しいんだからコレクションを死蔵させるくらいなら私達にくれてもいいのに。
バレンタインに売り場に並ぶようなピンクのボール紙でできた可愛らしいハートの箱。ハリーの部屋にやたらと積まれたその中に、血の滴る本物の『ハート』が入った箱がいくつもある。
決して保存状態の良いとは言えないそれらは日に日に形を崩して、虫のわく肉塊へとなれ果てていく。
勿体ない、みんなもうこんなものいくらだって食べるのに。日本では鳥を細かく部位に分けて心臓まで丸ごと焼いて食べるんだよ、と初めて言ったときにどん引かれたのが遠い昔のことのようだ。
「ホリー、どうしてここにいる」「掃除だよ」
この部屋の主が帰ってきた。ただいまとも言わずに、私がいることにびっくりしたみたいだった。同居人の彼らは汚れて帰ってくるくせにだいたい掃除をしないから私が暇なときに代わりにやっている。それでも一度ブチ切れてからは、得物の処理をしてから部屋に持ち帰るようになってくれて嬉しい。掃除が楽だ。
「お帰り」「ああ…」
また新しい箱が2つ追加された。最近はバレンタインで騒ぐ人間が増えたから、標的が多すぎるらしい。さすがに全員を殺していると夜が明けるし何より足がつくので、せめて傍目を気にせずいちゃついてる恋人だけにして欲しいと私が頼んだら渋々従っているようだ。2つずつ増えていく山を見ながらふと呟く。
「恋人たちの心臓を採っているなら、いつか私に恋人が出来たときも抉られちゃうのかな」
人目を気にせずいちゃつくような浮ついた人間ではない気でいるが、いざ目も眩むような恋に落ちたらわからない。恋は人を狂わせるのだ、まるで人を食う化け物のように。
「それはあり得ない。俺は自分の心臓をコレクションすることはできないから」
私の横で淡々とツルハシを片付けているハリーが言う。…んん?今なにか不思議なことを言われたような…。
「ババが言っていた。そろそろ昼飯だぞ」「あ、行くー」
ちょっとした引っ掛かりは心臓とともに、部屋の中に置きっぱなしにしてドアを閉めた。