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死神さん
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少し肌寒くなってきた10月頃、季節はあまり関係のない病院。
笑い声が廊下で響く中、私は医者に告げられた。
「余命半年です」
その一言を告げられたと同時に私は足から崩れ落ちそうになった。
廊下から聞こえていた笑い声は一瞬で途絶えた。
その後、医者が何かを言っていたようだが私は頭が真っ白になっていたため内容が頭に入ってこなかった。
話が終わったのだろうか。「大丈夫ですか?」と声をかけられた。
どうやら顔が真っ青になっていたらしい。
「大丈夫です」と愛想笑いをし、病室に戻った。
病室に戻ってすぐ、私は孤独に一人、病室で息を殺して泣いた。
家族も友達も恋人もいない私は誰にも縋れることができず、ただただ自分を恨むように泣くことしかできなかった。
「孤独だな」
突然、透き通るような優しい低音の声がした。
黒がベースとなった姿の少し大人びた二十歳ほどの男性が突っ立っていた。
驚きを隠せず、気が付いた時には涙が引っ込んでいた。
その驚きを隠すために「誰?」と問いかけると「死神」と即答された。
死神?そんなの実在するわけがない。何故なら人間が空想で作ったものだから。
からかわれていると思った私は顔を少し顰めながら会話を続けた。
「からかってるの?」
「からかってない。冗談だと思ってる?」
「うん。だって死神は空想のキャラクターであって実在はしないから」
思いのまま口にした。でも彼は戸惑いもなく、平然とした顔で伝えた。
「実在するよ。実際俺が死神だから」
「証拠は?」
「君はもうすぐ天に行くでしょ?だから迎えに来た」
「でもまだ半年あるでしょ」
「もう半年切ってるんだよ…」
「意味がわからない」
「君は残りの半年に一つだけ俺にお願いして」
「意味あるの?」
「その願い叶えるから。あ、世界平和とか戦争起こしてとか膨大な願いは無しね」
「ふ〜ん」
「もし生きてるうちに願いを叶えられなかったら君は怨霊になる」
「は?」
「成仏できなかったら君も俺も困るから考えといて」
「だるっ…」
意味がわからないことを言われ、お願いをされている。
興味のない話のせいか、つい本音が出てしまった。
「そんな事言わずにさ!」と、まるで子犬かのように飛びついてきた。
うるうるとした目でこちらを見てくる。一秒たりとも目は動かなかった。
その目は本気で嘘を言っているようには見えなかった。
だが死神というものを信じられない。
第一の原因として死神と名乗った彼がまるで幼子のような雰囲気だからだ。
今の私は半信半疑のまま、彼を少しだけ信じようと試みることにした。