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An Escape And The Truth③
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「……ハァ」
先程お昼ご飯を食べ終えたアマンダは、これからの事を考えながらため息をついた。
逃げ出そうという決意はついた。
しかし此処は彼らが所有する船の中。辺りは海一面でいつ島に上陸するかわからない。
船員に聞いてもいいが、昨晩の出来事があってか、皆アマンダに対して警戒心が強くなっていた。
食事も乱暴に床に放り投げられ、食器から盛大にこぼれ落ちたご飯を拾いお皿に戻した上で再度食べる。
非常に汚いが、飢えに苦しんで死ぬよりかはずっといい。
それに食事の時間はだれもいないため、少々意地汚くても誰も見ていない。
それがアマンダにとっては救われた。
それに上陸したと言っても、彼らには昨晩アマンダが脱走したと思っているため、外出を許してくれるとは到底思えない。
手首を痛めているお陰で縄で拘束するのはどうしてもローが許さなかったため解放されてはいるが、その分何をしでかすかわからないからかアマンダに殺意を向ける者が多くなった。
鍵も厳重に閉められており、唯一可能性がある時は島に上陸した際の食事の時間だ。
食事を運んできてくれた男を拘束し、隙をついて逃げる。
しかし、これは逃げ切れる可能性はかなり低い。それはもう0%を下回ってマイナスになるくらい。
かと言ってこれからもこの生活を繰り返していると、またあの時のような出来事が起こらない可能性などない。
それにこのような不衛生な生活が続いていては身体がもたない。
海賊船に囚われている精神的ダメージ。
周りは男だらけでの不安。
常に監視されているストレス。
お風呂も満足に入れていないし、寝床もなく、下着も服もほとんどない状態。
こんな生活がこのまま続けば、自分はロクな死に方をしない。
自分の未来がリアルに見えてきて、吐きそうな不快感が身体中を弄る。
弱気になっていてはダメだ。
動かなくちゃ未来は見えてこない。
たとえ可能性が限りなく低くとも、何も行動しないよりはマシだ。
そう決意を固めるアマンダの部屋が軽くノックされる。
ついさっき逃げる事を考えていたので誰かにその事を言ったわけではないのに大袈裟に反応してしまう。
昨晩の出来事を思い出し返事をするのも怖くなるが、ノックをしてきた為多少は安心できる。
ベポかシャチ達かジャンバールか
はたまたキラーかヒートかワイヤーか
もう彼らは自分を丁寧に扱うことはないだろうが、それでも昨晩までは安心できたメンバーなので、アマンダは扉の前に立つ人物はきっと彼らだろうと疑わなかった。
「はい」
そう返事をすると、ゆっくりと扉が開かれる。
すると、その先にいたのは
「よォ、家畜」
その声を聞いた時、身体中に戦慄が走る。
その声の主は、昨晩アマンダに強姦未遂をした挙句、巧みな嘘でアマンダに罪をかぶせた男だった。
「っあ…あ…」
「昨日はよくもふざけた真似してくれたなァ。まぁそのお陰でちょっとは自分の立場ってモンがわかってきたよな?」
ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべて遠慮なく扉を閉めた後、今度はしっかりと鍵まで閉める。
今は昼間な為皆起きているので大きな声をあげれば誰かが気づくかもしれない。
しかし、アマンダは恐怖のあまり声も出せず、それどころか呼吸すら困難になっていた。
そんな彼女の事情など御構い無しに男はアマンダまで近づきその髪を引っ張って持ち上げる。
「今のお前、評判最悪だぜ。そりゃそうだ、昨夜あんな夜中に叩き起こされてトラファルガーに媚び売って今も生かされてんだからなァ」
どの口がそれを言うんだと思った。
起こしたのはアマンダではなく男のほうなのに
男の言葉に船員達が食堂で自分の事を悪く言っているのを想像し胸が苦しくなる。
その想像の中には、自分に優しくしてくれたベポ達がいたからだ。
「…な、何しに来たんですか?」
「あァ?」
精一杯の抵抗できつい目で睨むと、それが気に入らないのか男はアマンダの髪を掴んでいた手を力強く引っ張るとその反動で髪がブチブチという音を立て何本か引きちぎった。
「うっ!!」
あまりの痛さにその場に蹲り頭を両手で包んで痛みを和らげようとするも、男から肩を思いっきり足蹴りされ、床に叩き付けられる。
「痛っ!」
「あんまナメた口聞くなよ家畜の分際で!
わざわざこんな薄汚ねェ部屋に足運んでやったんだ!
ちゃんと満足させろよ!」
アマンダに覆いかぶさった男はニヤリと口を歪めると、あの晩と同様、アマンダの服に手をかける。
あの悍ましい出来事が頭に過ぎり、恐怖のあまりアマンダは泣き叫んだが、男は懐から取り出した布でアマンダの口を塞ぐ。
あの時と違い両手が空いたので、思ったより早く服を脱がせられた。
アマンダは両手両足を名一杯使って暴れまくる。
「おい!大人しくしろ!」
男から怒鳴られるが、暴れるのをやめない。
近づいてくる男の身体を両手で押し、足をじたばたさせ大きな物音を立てる。
叫ばなくとも、音は出せるからだ。
逃げる術が無くなったアマンダにとって、物音で誰かに気づいて助けてもらうしか方法がない。
海賊に力でかなわなくとも必死に暴れる。
身体をよじったり、足をばたつかせたり、両手で押しのけたり
苛立ちのあまり、男からお腹や顔を殴られたりしたが諦めなかった。
海賊である彼の力は下っ端船員でもそこらの成人男性より強く吐きそうになったが耐えた。
顔も変形するのではと思うくらいの衝撃だったが、今ここで怯んで仕舞えば本当に自分は危ない。
今動かせる力の限り暴れるアマンダ。
もしかしたら諦めてくれるかもしれないと僅かな希望を抱いたが、男はその場で立ち上がったかと思うと
「っ!!んうぅ!!!」
口元に布を巻き付けられているにも関わらずくぐもった声が出て来た。
あまりの激痛に涙が流れる。
男が、アマンダの腫れた手首を思いっきり踏んづけたからだ。
ヒリヒリとした余韻が襲う中、もう一度男はアマンダの手首に向かって足を振り落とした。
「っっっ!!!」
この世のものとは思えない程の痛み。
元々怪我をしたその場所にさらなる衝撃が加えられているのだ。耐えられる筈がない。
怖くて怖くて、アマンダは三度目に振り下ろされようとしている男の足に思わずもう片方の手でその手首を抑え、身体を横にし衝撃から守ろうとする。
「うぅ……」
「お頭が言ってた言葉思い出したわ。
お前、家畜以下なんだってなァ?
そんな奴の脳みそじゃ、テメェの立場わかんねェのも無理ねェか」
静かな物言いだが、明らかに怒っているのは見なくともわかる。
男はそう言うと、アマンダの肩を掴み再度正面に向かせるとまた覆いかぶさる。
痛みに泣きながらも大人しくなったアマンダにようやくかと気を良くした男は、再度彼女の服の中に手を入れ、その豊富な胸の感触を味わう。
精神的な恐怖と物理的な痛みによってアマンダの瞳から光が消える。
もうこのまま彼の、いや
彼らの所有物として過ごすことになるのか
自分の安否を心配する店長の顔が浮かぶ
助けて…
誰か、助けてください