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_聞きました?今回のミュージックフェスタのほら……
_IDOLiSH7でしょ?タイミングズレまくりで、見てるこっちまでひやひやしたわ
_TRIGGERは安定のダンスと歌唱力だったね
僕も一応奏者の身として世間からの目というものには敏感だ。
でも、応援する子達のそれは自分自身が言われるより耐えるに耐えられなさそうだと思った。
生放送で流れたちぐはぐなダンスや歌は、彼らの満足するものでは無かっただろう。
特に、パートを歌い忘れた子をカバーしようと頭が真っ白になってしまったに違いない。
今がきっと一番辛い。僕は、そっと陰ながら応援することが出来ないもどかしさに唇を噛み締めた。
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バスで移動して約6時間。目的のホテルに着いた頃にはもう夜遅く、シャワーを浴びてそのままベッドに身を投げた。スプリングが優しく受け止めてくれたが、もやもやは晴れそうになく、しかも_
『コホ…ッ…』
胸が詰まる、呼吸が上手くいかない。
ああ、やっぱりなと思った。この間、りゅうがオフだった時の熱は、体の限界を訴えていたのかな。
じくじく痛み始めた臓器に、ベッドからゆっくりと起き上がる。時計を見れば夜中の一時半。
気分を変えようと、ケースを持って公演に向けて泊まったホテルを抜け出す。
バスでも通りかかったが都市部から離れている此処は、山が広がって小川も流れていた。
夜の森は、虫の声が響き、夜空には降り注いできそうなほどの星空が広がっていた。
今日の観客は星たちだ、ケースを開けて相棒とも呼ぶロッカを取り出す。
奏でるのはショパン。練習曲作品10-3『別れの曲』
短く、息を吸う。
出だしさえ躓かなければ後は旋律に身を委ねるだけ。
弦を押さえる指の感覚や、弓の角度。どれもが森の空気で研ぎ澄まされた脳にダイレクトに流れこんでくる。演奏中だけは、痛みや悩み、有らゆる全ての感情が削ぎ落とされるのだ。
僕は、時間を忘れて弓を滑らせていた。
ようやく最後の節を弾き終え、そっとヴァイオリンを離す頃には痣が痛くなり始めてしまった。
___パチパチパチ。
空の観客たちからは鳴るはずのない拍手が聞こえ、僕は拍手の方を振り返った。
「いやー、生で聴くと圧倒されるものですねー」
『え…』
茂みから出てきたのは一人の男性だった。
真逆、こんな真夜中にこんな森に人がいるとは思わなくて固まってしまう。
『……!?』
「どーも初めまして、十束(名前)さん」