-
▽
-
机の上に広げられた白紙の答案用紙。唯一記入されているのは私の名前だけ。
「……コレは一体どういうことかな、東西南北學瀬さん?」
理事長の視線が突き刺さる。
隣に立つ浅野くんの疑問と困惑の混ざった視線も感じた。
「…………疲れてしまって」
「疲れた?この程度の問題キミなら難なく解ける筈だが?」
にっこり、と理事長は笑みを浮かべる。
「…………えぇ、〝この程度〟私に解けて当然です。しかし、それ程疲れていた、と思って頂ければ」
「その結果がコレ、ですか。体調の管理ができていないのではないのかな?名前を変えようとも姿を変えようともキミは私の娘であり、浅野くんの血を分けた兄妹である。それは生徒は知らないだろうが教師は皆知っていること。このような不始末で私の顔に泥を塗るとは……キミには失望したよ」
「……お言葉ですが、理事長。東西南北さん──いえ、學瀬は常に研鑽を怠らなかった。貴方の學瀬に対する考え方接し方には日頃から疑問でした。1位は僕で変わりないですが、その次席を常に保っていた彼女は「浅野くん、キミの意見は聞いてない」
浅野くんの言葉をピシャリと切り捨てた。
「東西南北さん、キミには本当に失望した。だから1年よく考えると良い───E組でね」
そう言って渡されたのは最下層の特別強化クラス──通称エンドのE組への転属を告げる紙だった。
……やっぱりムダだった
「……え?何ですか?」
私の小さな、小さな呟きを拾った理事長、いや父がわざとらしく聞き返す。
「別に、何も……E組に行け?言われなくともそのつもりです。成績不良生徒の存在をA組は──本校舎の者は許さない。そして、素行不良生徒も」
ポケットから特殊警棒を取り出し、数々のトロフィーが置かれた棚に向かって振りかざした。
ガラスやトロフィーが割れる音が室内に響く。
「素行不良、成績不良生徒という事でE組転属、で良いですよね?………失礼しました」
一通りトロフィーや何やを壊し終えたあと、理事長に一言残して部屋を出た。
大丈夫、大丈夫。
私は〝まだ〟笑える。
いつものように〝笑顔を貼り付け〟て教室に戻った。
E組転属を言い渡された次の日、2度と満月を見ることが出来なくなった。
.