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兄妹の時間
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「ただいま、帰りました」
ただいま、と言っても返してくれる人はいない。
取り敢えず着替えてお夕飯を作らないと……
「……よし、出来た。一緒に食べてくれるかな……」
ご飯とお味噌汁をよそうだけになった食卓。最近なんだかんだ忙しいと共に食卓を囲んで食事を摂らなくなってしまい、声をかけづらい。
冷めても温めれば良いけど、できれば出来立てを食べて欲しいのが乙女心──作り手の想いなので、緊張気味にドアを3回ノックする。
「兄さん、お夕飯ができました。よろしければ、頂きませんか」
ドア越しに声をかけると椅子をひいた音がしたのでこのまま食べてもらえるらしい。
階段を駆け下りて最後の仕上げに入って兄を待った。
「………いただきます」
手を合わせて箸を持つ兄の眉間には薄くシワが寄っていた。何か癪に障ったのだろうか?
「何か、不備がありましたか。兄さん」
「……いや、何もない。いつも美味いな」
無愛想に言う兄さんだが、美味しいと言われたのはとても嬉しい。作り甲斐を感じる。
「何か……本校舎でありましたか?」
「何か、だと?」
片眉を上げてこちらを鋭い眼光で射抜かれた。
あれ、地雷踏んじゃった?
「……新年度予算案、生徒会総会、新入生歓迎会、離任式で右に左の混沌極めているが?──2つあるはずの副会長の席が任期途中で1つ空いたからな。補欠選挙も無かったし」
「それは……申し訳ありません。私が開けた穴で支障をきたす事なく引き継げるよう資料などはまとめたつもりでしたが……」
作り笑いを浮かべて来た応酬は嫌味のオンパレードだった。
2期連続で副会長職を勤めたが、E組転属に伴い理事長権限で3月末日での解任を言い渡されていた。
「それは不備無く引き継げた。ただ……仕事多過ぎだ。全く、ひとりでどれだけ仕事してたんだ」
「えーと……〝もう1人の〟副会長の分までしてましたかね。〝生徒会執行部〟のブランド力だけが欲しかった人でしたからね、彼。まぁ、私も何も言いませんでしたし。体良い押し付け要員だったんじゃないですか?」
面倒くさい仕事全て押し付けて自分は遊んでたね、あの人。今大慌てで作業でもしてるんじゃないのかな。
兄には悪いが、あの副会長の自業自得の報いに胸のすく思いだった。
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