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Crack
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「ぐああああっ!!」
島を出て二日目の夜、突然船員達の寝床から男の断末魔が聞こえた。
なんだなんだとそれまで就寝していた者の一人が電気をつけると、叫び声をあげた男の太腿には鋭利なナイフが突き刺さっていた。
刺したのはキッド海賊団の船員で刺されたのはハートの海賊団の船員である。
「おい!大丈夫か!?てめェ何しやがる!!」
「うるせェ!こいつ昼間おれの話を聞いて笑いとばしやがったんだぜ!?寝相も悪ィしよ!もうこいつと一緒に寝るのなんざごめんだ!!」
あまりにも自己中心的な動機に思わず掴み掛かりそうになるもぐっと堪え、仲間を担いで医務室まで向かう。
しかし騒動は収まらず、悪化して行く一方だ。
「仕方ねェだろ!!こんな狭い寝床に大所帯で寝てんだから手や足くれェ当たったって!それを言うならてめェのいびきも毎日うるさくて眠れやしねェ!!」
「んだと!!?」
「うるせェぞ!!ギャーギャー騒いでんじゃねェ!!寝れねェだろうが!!」
二人の喧嘩に苛立ったのか再度寝ようとしていた船員が声を張り上げ喧嘩の渦に自ら入ろうとする。
声が響けば響くほど同じ寝床で寝ていた船員が喧嘩に参戦してきてたちまち船中にこだまする。
その声に気づいたキラーがその場を収め、何とか夜を乗り切ることが出来たが、依然としてキッド海賊団とハートの海賊団の仲は平行のままだ。
いやむしろ悪化していっている。
原因はアマンダが見つけた悪魔の実だ。
その実が成り行きでキッドの部屋に置かれたことになったが、その不思議な果実に欲や好奇心が抑えられない者とそれを警戒する者が衝突し合っている。
両船長が決めた事とはいえ、お互い寝床や食事まで敵となる海賊と共に過ごすのは相当なストレスである。
そこへ更に悪魔の実がやってきたとなればやはりその実を誰かが狙っているのではないかと警戒する者も増えてくる。
誰もが疑心暗鬼になっているこの状況に、先行きが不安になる一方だった。
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そんな緊迫した状態が続く中、一週間ぶりに島が見え人数が多いためなくなった食糧を補うために上陸する事となった。
船員の殆どが島に足を進める。
互いにギスギスしたこの空間から一刻も早く抜け出したかったのだろう。
船にはベポから借りたつなぎを着ているアマンダと船番を任された二人だけだった。
今日は両船長も船をあけていた。
アマンダもベポやシャチ達に誘われたが断った。
悪魔の実を知らずに持ち込んでしまった事があったからか島に行くのは気が引けた。
薄暗い物置の中で特に何かするわけでもなくただぼーっとして時が過ぎるのを待っていると、外の方で何やら揉めている声が聞こえてきた。
どうしたのだろうか。
扉をそっと開け、長い廊下を歩くアマンダ。外に近づくに連れてその声はだんだん大きくなる。
外に続く扉を僅かに開けて様子を見ると、そこには船の上でキッド海賊団とハートの海賊団の船員達が言い争いをしていた。
周りにギャラリーがいることから、先ほど島から戻ってきた者達だろう。
「もう我慢ならねェ!!!ぶっ殺してやる!!」
「やってみろよ!口だけじゃねェって証明してみせろ!!」
部屋の隙間から時折言い争っている声は聞こえていたが、今回はそれの比ではない、互いに武器を持ちながら殺し合おうと戦闘準備に入っている。
巻き込まれると怖いので部屋に帰ろうとするが
「あ……」
そのギャラリーの中に先日自分に友好的に接してくれたベポがいた。
ベポは二人の喧嘩を止めようとするが、キッド海賊団の船員に邪魔するなと斬られてしまう。
「!ベポさん!!」
思わず自身の立場も忘れベポに駆け寄るアマンダ。
傷は大したことはないが、とても痛そうだ。
「ベポ!!てめェよくもおれの仲間に!!」
男の一言で喧嘩が始まり、互いに刃を交える。
アマンダはベポを安全な場所に連れて行こうとするが重くてなかなか持ち上がらない。
「!何をしている!?」
船に戻ったキラーが間に入り喧嘩を止めるも二人の殺気は止まず、目をギラつかせる。
「キラーさん!先にこいつが突っかかって来たんスよ!」
「黙れ」
低い声でそう言われ、ぐっと言葉が詰まる。
仲間が押し黙ったのを見ると、キラーは相手の方にも顔を向けた。
「お前も武器をしまえ。何で争ったかは知らないが、あまり騒ぎを起こしてくれるな」
「ぐっ…」
流石にキッドやローと並ぶ億越えの賞金首相手に喧嘩を売るような真似はできない。
しかし、敵の言いなりになるのは癪に触るようで、唇を噛み締め目でキラーを威嚇する。
「あ、あの…誰かベポさんを…」
「…!うるせェ!!」
「きゃっ!」
キラーが場を収めてくれたお陰で喧嘩がなくなったのでタイミング的に今しかないと思い、ベポを医務室へ連れて行くのを手伝ってもらえるよう誰かに頼もうとするアマンダだが、自分に呼び掛けられたと勘違いした先ほど争っていたハートの海賊団の船員が側にいたアマンダを突き飛ばした。
壁に激突しそれだけで済むはずだったが、突然波が押し寄せ船が傾いたせいで、アマンダはバランスを崩し、抵抗する間も無く海へ落ちて行ってしまう。