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Ownership①
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「ふぅ……」
お風呂から上がり、濡れた身体をタオルで拭くアマンダ。
その時怪我をした手首をじっと見つめる。
あれからローの治療とリハビリのお陰で昨日やっと完治した腕。
片腕での生活はやはり支障も大きかったし、ベポやキラーの助けも多く罪悪感も感じていたため完治した時はとても嬉しかった。
子供っぽくはしゃいでいた訳ではないが、手首を何度もさすったり、バイバイとするように手首を振ったりしていたので、それを見て呆れたローから
「浮かれてまた怪我なんかしてみろ。その腕ぶった斬るからな」
と言われ、凍ったように固まってしまった。
医者なんだからもう少し優しい言葉をかけてくれてもいいのだが…
そんなアマンダの気持ちなど御構い無しに、ローは彼女の身体の至る所にある包帯を外していく。
船員に襲われた際無我夢中で暴れまくったせいで船員から傷つけられた傷跡だった。
その傷ももう殆ど治っていたので、改めてローの医者としての腕の凄さを実感する。
傷口を治す薬も、全てローが調合して作ったものだ。
そのお陰か傷の治りも早かった。
それが今まで治らなかったのはやはり自分の行動に問題があることがわかる。
なんにしても、治ればこっちのものだ。
食事もお風呂も着替えも、両手で出来る有り難さがとても身にしみた。
昨日今日の出来事だったのでまだ嬉しさが減らない。
いつもより陽気な気分で鏡を見ながら部屋着に着替えると、コンコンとノックをする音が聞こえてきた。
「はい」
「おれだ、夜分に済まない」
低く、落ち着いた声。
キラーだった。
キラーからこれから部屋に訪ねてきた人が現れたら無防備に扉を開けず外にいる者の声を聞いてから判断しろと忠告された為、相手がキラーだとわかると疑いなくアマンダは扉を開ける。
「お待たせしました、どうぞ」
「……………」
「あの……」
そこにいたのはやはりキラーだった。
しかし彼は自分に会いにきたはずなのにアマンダを見たまま視線を外さない。
何か言いにくいことでもあったのだろうかと疑問に思ったアマンダだが、キラーの方が先に口を開く。
「……風呂に入ってたのか?」
「?はい…」
「随分と無防備だな」
キラーがアマンダを見ていた理由がわかり、恥ずかしそうに顔を俯かせるアマンダ。
「す、すみません……メイクも髪も整えてなくて…」
「そこか」
はしたない姿を見られてしまった羞恥心がアマンダを襲う。
しかし、キラーは斜め上の回答が返ってきたことに呆れるが、今はその事を説教しにきたのではなかった。
「あの、取り敢えずどうぞ……」
「いや、お前の部屋に来たのはお前を呼ぶ為だ。急ぎで済まないが、共にキッドの部屋まで来てもらう」
「………え?」
キラーの言葉に驚きを隠せない。
キッドの部屋とは、アマンダには未知の世界そのものだ。
何故今頃キッドの部屋になど…
疑問点が浮かぶのと同時にキッドの部屋に行けば必ず彼に出会うだろう、その時の緊張で返事ができなくなるが、それよりも先にキラーの手が伸びて来て、アマンダの腕をガシッと掴む。
「え?え?キラー…さん?」
「急ぎだ、早く来い」
力強い、振り払えない、しかし痛くないその絶妙な加減でアマンダの腕を掴むキラーは、彼女に質問を与える隙間もなくキッドの部屋まで歩く。
途中キラーがいつもより少し強引な事にも驚いたが、おそらくキッドの部屋に行くということは自分に用があるのはキッドなのだろう。
キラーはアマンダをキッドの部屋まで連れてくるよう命じられただけだとアマンダは思った。
キラー自身が用事があるのならこのような乱暴なことはしない。
キッドの用だから早く済ませようとしているのだ。
恐らく
多分
歩くと言っても、キッドの部屋まではものの数秒だった。
アマンダはこんなに近くにキッドの部屋があるなんて思ってもおらず、驚愕する。
キラーは三回ノックをした後、扉の向こうから「入れ」と指示が出たため扉を開ける。
キラーの手に引っ張られたままアマンダも続けて入ると、そこには普通の船員よりも二周りほど大きいキッドの部屋がアマンダの視界に映る。
「キッド、連れて来たぞ」
「………あァ」
キッドはキングサイズのベッドの上に腰掛けていた。
寝巻きなのか、あの時見た時と同じようにいつも羽織っているコートは脱がれており、上半身裸の状態で、彼の引き締まった筋肉が鮮明に見える。
一般の男性にも見られない鍛え上げられた身体に女性の本能から心臓が跳ね上がる。
(ドキドキする…あんなヒト、見たことない…)
今までいた恋人にもあそこまで鍛え上げられた身体を見たことはなかった。
鼓動が収まらず、アマンダはなるべくキッドを見ないように少し目線をズラしながら問う。
「あの……私になにか……」
アマンダがそう言うとキッドがこちらを見た。
その鋭い視線から自分が目をそらしているから合うはずもないのに驚いて大袈裟に顔を横にしてしまう。
緊張と胸の高まりが収まらず、ドキドキが止まらない。
キッドはそんなアマンダの表情を観察しながら、低い声を響かせる。
「お前、経験はあんのか?」
「………え?」
キッドが何を言っているのかわからなかった。
経験があるかないか?何の?
もしかしたら後ろのキラーに問うているのかもしれないと思うと
「まァどうでもいいけどよ……」
次の瞬間、身体に何故か戦慄が走る。
キッドの凶悪な笑みを見たからかもしれない。
反射的に後ろに下がると、後方にいたキラーと軽くぶつかった。
「…あ、ごめんな…さ…」
「………………」
無言でこちらを見るキラーも何処と無く様子がおかしい。
すると、キラーは両手でアマンダの腕を掴んだかと思うと、徐に後ろに回して来た。
「…………!?」
両手を後ろで拘束され、何が何だかわからないアマンダ。
キラーは器用に片手のみでアマンダの両手を拘束している。
逃れようにも力に差がありすぎてビクともしない。
すると、ガタっと音がしたかと思うと、キッドがベッドから立ち上がり、ゆっくりとした足つきでこちらに歩み寄る。
そのゆっくりがアマンダには恐怖を煽られているようにも感じた。
ゆらりゆらり
まるで波に揺れるこの船のよう
ドクロのマークを掲げた旗のよう
海賊が迫ってきた
獲物を捕食する肉食獣のように
口元を吊り上げながら
サァ
バンサンノジカンダ
CAUTION!→