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Vision And Memory②
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腕の信頼出来る鑑定士に海図を渡し、復元自体は時間がかからないという事でローもキッドもその場に残り、復元が終わるのを待つ。
彼らの見た目から一瞬で海賊だとわかった鑑定士は二人に怯えつつも時間を取らせないよう急いで復元させたため、ものの数分で出来上がった。
「北東方面にある赤い印、やはりここが宝を示すものか…」
「ここに書かれてある文字を解読するのに何分かかる」
「そ、それに関しましては二時間ほどで…」
海図に浮かび上がった赤いばつ印、恐らくそこがキッドやローが狙っているお宝のありかだろう。
そこに矢印で記され、何か古代文字で書かれたような跡があったため、その文字も復元させて解読してもらえるよう頼む。
二時間、とは予想通り結構な時間が掛かるため、それまで町でゆっくりしようとロー達はその場を後にする。
「…………」
ペンギンは用事とか何かで別れ、町の裏通りをベポと二人で歩く。
酒屋にでも行こうかと思ったが、こんな真昼間から酒を飲んでも気分じゃないと思い、取り敢えず何か退屈を紛らわせてくれるものがないか辺りを見回す。
海賊になってから、表通りを歩く事はあまりしなくなった。
自分の首が懸賞金に掛けられているので当たり前なのだが、時折ふとその事を思い出す。
自分が裏通りを歩いて何年経っただろう、と。
「キャプテン?」
突然ベポに呼ばれ、ハッとなるロー。
今日はぼんやりしてしまう時が多い。
ローはいつも何を考えているかわからないのだが、今日は特にわからない。
10年以上もの付き合いのベポ達でもローのその心理は読めない。
ローは自分たちの船長だから抱えるものはいくつもある。
同じ立場のキッドなら理解できるのだろうか。
ベポは稀にローとキッドが話しているのを見てそう思う時がある。
彼の後ろ姿を見ながらなんて言葉を掛ければいいのか悩むベポに、その考えが止まるような出来事が起こる。
二人の前に立ちはだかる数人の男達。
いずれも凶器を構えており、恐らくローの首を狙ってやってきたのだろう。
この光景も飽きるほど見てきた。
「トラファルガー・ローだな?」
「…そうだと言ったら?」
「二億の首、おれ達が頂くぜ!」
こういう身の程知らずの輩はある意味幸せなんじゃないかと思うロー。
勿論彼らごときにローが出るまでもなく、そばにいたベポにより全て倒される。
ローが参戦すれば一瞬なのだが、雑魚相手に船長が自ら出るまでもない。
ベポによりその場に倒れて行く男達を冷めた目で見るロー。
その目の深淵には、深い闇が渦巻いている。
「アイヤー!
キャプテン!終わったよ!!」
「あァ……」
夢のせいか物思いに耽るときが多いなと苦笑するローに、ベポは何がおかしかったのか疑問に思う。
ベポの頭を撫でながら「行くぞ」と言って裏通りの道を歩いて行く。
夢のせいか、それとも彼女のせいか
(こんな時に洒落た真似しやがって…)
いつもは下ろしている髪を、何故か今日に限って二つ結びにしているアマンダを思い出す。
彼女が一度熱に侵されて自分が看病していた時から、何故か彼女に今は亡き妹の面影が映る。
対して似ていないはずなのに、時折その面影を彼女のバックに見るときがある。
だが、それと同時に思い出すのは妹を襲った突然の不治の病と、それを恐れ除去しにきた政府の面々。
そして焼け野原となっていく故郷と仲間達。
出来れば思い出したくない過去のはずなのに、アマンダを見るとどうしても思い出してしまう。
その様子はキッドやキラー達にはなるべく見せないようにしているが、いつも自分と共にいるベポにはやはり誤魔化せないようで、何かしら感づいているのだろうが、ローのプライベートなことに口を挟まないでおこうというベポなりの配慮で目を瞑って貰っている。
人質相手に懐かしさを感じるなど、船長どころか海賊として甘いなと思うロー。
すると、突然懐にしまっていた電伝虫が鳴り出し、まだ指定されていた二時間が経っていないのに何だと疑問に思いながら電話を取る。
しかし、掛けてきたのはどうやらペンギンのようで、かなり慌てた様子だった。
『キャプテン大変です!』
「なんだ、手短に言え」
『シャチから連絡があって、おれ達の船が敵の海賊団に襲われたみたいで!!』
敵の強さにもよるが、自分やキッドの海賊団が船番としている以上簡単に退けられるはずだが
しかし、ペンギンが慌てている理由はそれではなかった。
『敵は大したことないはないらしいけど、アマンダを人質に取られたって!』
「!?」
その言葉にベポも驚く。
ローはペンギンよりもまずシャチに話を聞く事を優先し、その電話を切り一直線に船へと向かう。
背後でベポが自分を呼んでいる声が聞こえるが船へと進む足が止まらない。
進んでいくうちに、ローの目に何やら煙のようなものが森林の先に上がっていっているのが見える。
ゆらゆらと天に昇っていっては消え昇っていっては消えを繰り返すソレは、炎だった。
その先は今まさにローが向かっている場所であり、アマンダが本来待っているはずの場所だった。
「…………!?」
森林を抜けた先に見えたのは、自分達を乗せて目的の場所へ波を渡ってくれている船と、そのマストが赤い炎によって燃やされている光景。
だが、ローの目には、別のものが見えていた。
燃える
燃える
赤い炎
丈夫な柱も、大きな建物も
一瞬にして灰になる
ローの目に自分の帰りを待ちながらベッドで苦しそうにしている妹の姿が浮かぶ。
彼は直ぐ能力を発動し一瞬にして船へと駆け込む。
すると、そこには、燃え上がるマストの下で武器を持ち威嚇をするシャチやキッド海賊団のクルーであるヒートとワイヤー。
そして彼らが武器を向ける先には
「へへ、大人しく宝物庫まで案内しな」
鋭利なナイフを無防備な首元に突きつけられ、怯えた目でこちらをみるアマンダと彼女を拘束している下劣な海賊の姿があった。
所々に傷が付いているところから、彼らに返り討ちにあい、それでも宝を諦められずアマンダを人質に取ったのだろう。
敵を見れば圧倒方にこちらの方が有利なのにアマンダのせいで立場が逆転してしまっている。
どうしたら良いのか立ちすくんでいる三人の横をコツコツと静かな足取りで通る男が一人。
「あ、キャプテン!!」
それがローだと気づいたシャチだが、ローは彼の言葉に耳もくれず、ただアマンダとアマンダを人質に取る男の元へ歩み寄る。
男はローが何のためらいもなくこちらに歩み寄るのを見てナイフをアマンダの首に食い込ませて叫ぶがローの耳に届かない。
無言で男と男の腕でか細い悲鳴を上げるアマンダを見るローの冷ややかな眼差しは、視線を向けられた相手だけでなく、その様子を見ていた者達でさえ怯ませる。
「あ……う……お、お前、は…死の外科医……トラ…」
相手の男が言い終わる前に、ローはパチンと指を鳴らしたかと思うと、自分とアマンダたちと間に薄い円をつくり、能力でアマンダを男の元から切り離した。
「なっ…!え?なっ!!!」
信じられないのも無理はない。
今しがた自分の元にあった人質の女が一瞬にして消え去り、辺りを見回すと女は何故か自分と相対するシャチ達の側にいるのだ。
未だに理解ができないと言った表情で慌てふためく男にローはまだ能力をとかない。
「気を楽にしろ、すぐに終わる」
「はっ!?」
突然、男の視界は急に狭くなる。
どうしたのだろうか、座っているわけでもないのにロー達がやけに高い位置にいる気がする。
ローが何も無いところで刀を振りかざし、そんな場所で刀を振ったところで届かないだろうと思ったが、何故だろう、ローの不気味な笑みに冷や汗が止まらない。
しかし次の瞬間、男は何気なく下を見ると自分と地面の距離が近いことに気づく。
そしてまた正面を見ると、ローの手には見覚えのあるジーンズと靴が…
「…………ひっ
ぎゃあァァァァァァ!!!」
ようやく自分の足が今切断されている事に気付いた男は恐怖のあまりその場に転げ落ちる。
痛みはないはずなのに、脳が痛覚を侵しているのか痛い痛いとのたうち回る。
ローはそんな患者にも加虐的な笑みを浮かべ手に持つ男の両足をどこかへ放り投げた後ゆっくりとした足取りで男の元へ歩み寄る。
コツコツと悪魔の足音が近づいてくる事に恐怖して何とか逃げようとするも足がないため逃げられない。
必死に手を伸ばし、まずは立ち上がろうとして船の壁際にあるロープを掴もうとした時、自分の目の前まで来たローにその手を踏まれ、地面に押さえつけられる。
「ひいいいっ!!」
「……てめェは殺す」
ローの手には、鞘から抜かれた刀があった。
ローは男のがら空きの背中に刀を振り下ろすと男の背中を貫く。
円を張っていないため、勿論殺傷能力もあり今度こそ本当に痛覚が痛みを感知する。
「ぐっ……はっ……!!」
痛みもそうだがそれよりも肺に近いところを刺されたため苦しくて呼吸がまともに出来ない。
しかしそんな事今のローには何の関係もない。
恐怖でつい出来心で!など命乞いをする男に耳も貸さず、ローはチラリとこの光景を見ているシャチ達を見る。
シャチの隣でこちらを見ているアマンダ。
怯えているようにも見えるその姿が、ローには死んでしまった妹の姿が重なる。
【お兄さま……助けてお兄さま……】
自分の妹を再び命の危機に追い込んだこの男を殺す。
ローの中には男に対する殺意で満たされていた。
男が見上げた先にはそんなローの顔があり、死の外科医と呼ばれる男の本性が露わになる。
「ざ、残酷だ……人の皮を被った悪魔!!
残忍で、楽しそうに人を殺しやがるっ!!!」
ローの刀が恐怖で叫びまくる男の首を捉える。
男の首を跳ね飛ばし、海に捨てる。
妹を怖がらせる奴らは皆殺しだ。
刀の刃で首を軽く突き恐怖を仰いだ後、ローは無感情に刀を振り上げた。
「トラファルガーさんっ!!」
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