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冷めたミルクを温めて
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はぁ、やっと1日終わった。
毎日残業続きでやっと仕事の山場が今日終わった。
重い足取りで自分の部屋を目指して階段を登る。
足がいつもの倍、重く感じる。
着いたら洗濯してー、夕飯作ってー、夕飯はカップラーメンでいいかなー、あっカップラーメンあったっけ?
やることをひたすら考えているうちに扉の前まで来てしまった。
はぁーと大きなため息をつき、扉を開けようとした。
すると扉の先から、何かを炒めている音がする。
しかもとても美味しそうな匂いもしてくる。
おかしい。
1人暮らしの筈なのに、誰かいる。
疲れているせいなのか?幻聴?この匂いは隣から?
でも、もう少しで23時になりそうなのに。
疲れきった脳をフル回転させて思い当たる人物を考えた。
あっ、、あいつしかいない。
唯一、合鍵を渡している相手。
女が合鍵を渡すなんて余りないのだろうけど、お互いが会いたいときのためと言われて合鍵を交換しあった相手だ。
彼かもしれないと考えたら急に安心してしている自分がいる。
きっと会いたくて来たんだと、そう考えたら早くこの扉を開けなきゃいけないなって思うより先に体が動いていた。
ガチャ
「お~、やっと帰ってきたか」
玄関からすぐ近くの台所に男が何かを作りながら、私の方へ顔向けた。
ダルそうな猫背に、綺麗に切り揃えられててみんなが羨むほど綺麗な金髪の男。
あぁ、やっぱり。
彼の顔をみたら、心が温かくなったような気がした。
「来るなら連絡してくれてもいいじゃん」
「それじゃーおもんないやん、サプライズや。サプライズ」
ドヤ顔しながら言うもんだからつい笑ってしまうと、コラッ何をわろてんねん。何て言いながら、コンロの火を止めて、まだ玄関にいる私に近づいてくる。
「そんなとこ立っとらんで、中入ったらええのに」
冷えきった私の頬に手を当てて、もう鼻が当たってしまうんじゃないかと思うほど顔を寄せてくる。
なんでだろう。久々に会ったせいか少しだけ緊張してしまう。
「会いたかったんでしょ」
平然な振りをしてるつもり。
でも、彼には通用しないってわかってるの。
「あたりまえや」
きっと気づいてる。それでもいい。
「外、寒かったろ」
そう言って私の背中へ腕を回してくれる。
私もゆっくりと彼の大きな背中に腕を回して、本当は会えたことに凄く嬉しさを感じて、緩くなる顔を彼の胸板で隠す。
あぁ、彼で良かった。
でも、そんなことは絶対言わないの。
「ただいま」
この一言で全てが伝わるって知ってるから。
「おかえり」
そっと優しく頭を撫でてくれる彼の手は、私よりずっと大きくて、冷えきった私を温めてくれるような心地良い温度だった。