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私が生きているというのなら、きっと大地に腐った死体ですら生きている。
死体も同然、それは当たり前のように今までの人生で知っていた事。
私の生は、死の上に成り立っている。
大切な親友の命を踏み台にして、私はのうのうと生きている。
そうして、心から消失を切望していた。
思い出も、約束も、記憶も全てなくして、できることなら私という存在がこの世からなくなることを切望していた。
たった一つの言葉が、縛る。
「生きていてよかった」というその言葉だけが、一歩を思いとどまらせる。
私の生が、無意味なものじゃないって教えてくれる。
だけど、じゃあ私はどうしたら貴女に償って生きていけるんだろう。
あの頃が懐かしい。世界がきらきらしていて、希望を持っていて
諦めることも、後悔もしないと思っていた。
失う日なんて来るわけないと思っていた日常と記憶。
ノ ス タ ル ジ ア
- nostalgia -
草の中に続く石畳。私はそれらが導く先に迷うことなく向かう。
手には白い花束、私の罪の証。また、春が来る。
「ほたるちゃん、聞いて。私、九番隊の三席になれたのよ」
九番隊第三席。新しい地位、新しい部隊。
全てが新しい…ああ、また春が巡ってくる。春を運ぶ風は好きだった。
温かさを含んだ空気の中に、鼻の奥がツンとする。
「九番隊はね、檜佐木さんが副隊長なんだよ」
芽吹いたばかりの草の匂いを風が運ぶ。
私はその風に置いていかれるばかり。誰も連れて行ってはくれなかった。
「ごめんね」の一言が、ただそこに溜まる。
草の中に続く石畳。私はそれらが導く先に迷うことなく向かう。
坂道を下る足元から、ふ、と顔を上げると一人の人影。
「…檜佐木さん」
「音色、か」
「…お久しぶりです」
頭一つ半ほど高い身長。
その顔を見上げると、彼の右目にはしる三本の疵痕が目に入る。
息が 詰まる。
「そういやァ、お前九番隊配属になったんだってな」
「粗相のないよう頑張らせて頂きます」
頭を下げると「あぁ…今は九番隊は慌ただしいからな」とため息を吐く。
「ああ…」と私も声を漏らす。
三番隊隊長市丸ギン
五番隊隊長藍染惣右介
そして、九番隊隊長東仙要
謀反者として、この尸魂界を去ってしまった。
隊も部下も、何もかもを 置いて。
「私の力の限り…頑張らせて、頂きます」
「ああ、期待してるぞ」
そう云いながら、彼は笑う。昔なら、きっと私も笑いあえていた。
「失礼します」と言い残し彼の横を通り過ぎる。一度も彼の目を見る事ができなかった。
一体、彼はどんな表情で私を見ていただろう。
私は一体、どんな表情で彼を見ていただろう。
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2010/02/05