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恋は盲目
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「銀時…」
「何、ババアが心配することじゃねェさ」
お登勢が鞘を銀時に渡すと、鞘に括り付けてあった額当てがカランと地面に落ちた。
「…、」
手を伸ばし拾い上げ鞘と一緒に持つと万事屋に戻って行った。
***
「主人公の名前!!!!!」
万事屋の玄関前から身を乗り出し叫ぶ銀時。それを耳にした主人公の名前は銀時の顔を見るなりバタりと倒れた。
倒れたと同時に天人が主人公の名前に唾を吐きかける。その光景が目に止まり、瞬時に瞳孔が開く。二階から勢い良く飛び降り木刀で地面に天人を叩き付けると勢いよく血が飛び散る。
「この女に唾つけて良いのは俺だけだ」
「それはどうかなァ」
煙草の匂いが鼻をかすめ、声のする方を見る
「よォ、銀時。」
「高杉…っ、」
「どうやら一足遅かったらしいなァ」
「なにっ?!」
振り返るとそこには主人公の名前の姿はなく天人に取り囲まれていた。天人が主人公の名前を抱え高杉の元へ行くと肩に担ぎ踵を返した。
「主人公の名前は俺の好きなようにするさ」
三味線を背中に背負った男がアタッシュケースを天人に渡した。中身を確認する間もなくアタッシュケースを手に取り暗闇に消える天人。
銀時を取り囲んでいる天人は一斉に銀時によって弾き飛び砂煙が舞う。
「待てっ…!」
砂煙が消え、視界にモヤがかからなくなるとそこには天人も高杉の姿さえ見えなかった。
***
定春の寝息が微かに聞こえる万事屋に戻った銀時は、一見落ち着いた表情にも見えたが背中に嫌な汗を一筋流していた。
どこに行ったかも分からないままで闇雲に歩き回るものではないと自分に言い聞かせるが無駄だった。気が付けば主人公の名前が寝床にしている押入れをガラリと開け、シャンプーの香りが微かに残る寝間着を引っ張り出すと定春を起こしていた。
「おい、起きろ、飯だ飯」
飯と言う言葉に耳をぴくりと立てるとお座りをした。
「こんな時だけ素直な犬っころだな」
目の前にガムっこホネホネを差し出し無理くり口に入れ、主人公の名前の寝間着を鼻の前に差し出した。
「あいつが…攫われた。追っ掛けてくれねぇか」
言葉に反応するかのように、うぅ…と唸り声を上げた。鼻の頭にはシワがよっていて珍しく怒っているようだった。
神楽の寝ている押入れの前に行くと、ワン!声をあげた。
「やー!まてまて!定春くん!神楽ちゃんはいいの!今回はいいの!!ほら、か弱い女の子をこんな時間にね!?はは、はははは!!」
ぐいぐいと押入れの前から引き離そうとすると外から鈍い爆発音が聞こえた。
窓を勢いよく開け音の方を見るとそう遠くはない港から真っ暗闇の空に煙が広がってた。木刀を腰に玄関から勢いよく飛び出す。階段を駆け下りスクーターにエンジンを掛け猛スピードで万事屋を離れた。
置いてけぼりになった定春は心配そうに玄関を見つめていた。きっとその事はこれから後にも先にも誰も知らないであろう。