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花に華を<春の光>you
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ひとつ上の、姉の紗也は顔が広い。
幼い頃からバレエにピアノ、
果ては声楽まで習って
わたしとは正反対。
いまも中学校に向かう遊歩道で
隣を歩くわたしが恥ずかしくなるような大声で
「れいー!」と叫んだ。
前を歩く「れい」と呼ばれたその人が
ふっと振り返った。
その瞬間、桜の散る花びらが一瞬、止まった。
ように、見えた。
「れい、これ、妹!」
「……あ……」
こちらを見たその顔に、はっとした。
陶器のような肌に印象的な目元。
とても綺麗で、なんだかヒトじゃないみたいだ。
まるで、しなやかな動物。そう思った。
(いま思えばヒトだって動物なのだけど)
その微かな笑みは穏やかで
おとなっぽかった。
れい、と呼ばれた先輩はちょっと低めの声で、
「ほんとに、ありがとう。
どこに落としたかなー、って探してたんだ。
あれ無いと、面倒だから」
と、わたしがバスで拾ったバレエ教室の会員カードのお礼を言った。
「いえ…あの…」
紗也はなにも言えないわたしを見て笑った。
「人見知り治ってない~。
れい、ごめんねこの子、悪気はないのよー。」
その人は、黙るわたしの顔を覗き込んで
名前は?と聞いた。
間近で見るその目に吸い込まれそうで、やっと答えた。
「沙良、です……」
よろしくね!と、れいは朗らかに笑って言った。
それが、
れいちゃんとの出会いだった。