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カルマの時間
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6時間目、小テストの時間。始めの合図でペンを走らせる。けど、
───ブニョンッ…ブニョンッ…ブニョンッ…ブニョンッ………
柔らかいものが固いものに当たり、跳ね返る音が教室の中にこだまする。
その音の先は触手で壁をたたく殺せんせー。
「さっきから何やってんだ殺せんせー?」
「さぁ……」
「壁パンじゃない?」
「ああ……さっきカルマにおちょくられてムカついてるのか」
「触手がやわらかいから壁にダメージ行ってないな」
殺せんせーは赤羽くんに散々揶揄われた怒りというか、遣る瀬無さを壁にぶつけているらしい。
「ブニョンブニョン、うるさいよ殺せんせー!!小テスト中なんだから!!」
「こ、これは失礼!!」
岡野さんに叱られ壁パンをやめる先生だった。
「よォカルマァ。あのバケモン怒らせてどーなっても知らねーぞー」
「まだおうちにこもってた方が良いんじゃなーい」
隣では先生の壁パンの原因──赤羽くんを煽る寺坂くん達。君たち、今テスト中なの知ってるのかな……
「殺されかけたら怒るのは当り前じゃん、寺坂。しくじってちびっちゃった誰かの時と違ってさ」
煽りを更なる煽りで応酬する赤羽くん。だから、テスト中に何してんの。
「な……!ちびってねーよ!!テメケンカ売ってんのか!!」
赤羽くんに煽られて机をたたく寺坂くん。煩いよ?
「こらそこ!!テスト中に大きな音立てない!!」
「………それブーメランなんだけど」
前に座っている菅谷くん、奥田さん、千葉くんが噴き出した。え、声に出してた?
「ごめんごめん殺せんせー俺もう終わったからさジェラート食って静かにしてるわ」
「ダメですよ。授業中にそんなものまったくどこで買って来て……」
先生が呆れながら赤羽くんの持っているジェラートをみて驚く。
「そ、それは昨日先生がイタリア行って買ったやつ!!」
え、先生の?しかもわざわざイタリアまで行って買ったの……日本でも買えるのに……?
「あ、ごめーん。教員室で冷やしてあったからさ。あ、學瀬も食べる?」
「ごめんじゃ済みません!!溶けないように苦労して寒い成層圏を飛んで来たのに!!」
「いりません」
「あ、そう?美味しいのに……で、どーすんの?殴る?」
「殴りません!!残りを先生が舐めるだけです!!」
こちらに歩いてくる先生。あ、足下……
「!!」
床に散りばめられた対先生BB弾が殺せんせーの触手を溶かす。
「あっは―……まァーた引っかかった」
と銃を3発発砲する。先生は間一髪避ける。
「何度でもこういう手使うよ。授業の邪魔とか関係ないし。それが嫌なら……俺でも俺の親でも殺せばいい」
「………」
「でもその瞬間から、もう誰もあんたを先生とは見てくれないただの人殺しのモンスターさ。あんたという〝先生〟は……俺に殺された事になる」
そう、言って赤羽くんは食べかけのジェラートを先生のアカデミックドレスにべチャリと押し付ける。そして、
「はい。テスト多分全問正解」
答案用紙を渡し、席を立つ。
「じゃね〝先生〟~明日も遊ぼうね!學瀬もまた明日!」
そう言い捨てて授業終了の号令の前に教室を出て行った赤羽くんだった。
───赤羽くんは頭の回転がすごく……恐ろしく速い。
今もそう。先生が先生であるためには越えられない一線があるのを見抜いた上でギリギリの駆け引きを仕掛けている。
本当に勿体ない、これこそ才能の無駄遣いだ。本質を見通す頭の良さとどんな物でも扱いこなす器用さを人とぶつかるために使ってしまうんだもの。
まぁ、私がどう思ったところで赤羽くんは変わらないんだけれど。